10. 不思議な人は存在する 

 父の知人で石材店、いわゆる墓石を扱う石屋さんがいた。ときどき訪ねて来て、父と占いに関するような話をしているのを聞くのは面白かったが、びっくりさせられることも多かった。墓や戒名を見ると、いろいろなことが判るというのだ。

 墓所の周りをがっちり囲んでいる家は、隠さねばならない秘密があるとか、先祖より大きな墓を建てると、そこから家運が衰退していくとか。戒名も山や岳のような字が入っていると癌で亡くなった人が多いという。

 私の姉は初産の男児をわずかな期間で亡くしたが、その子の名前を訊かれて「吉泰」と答えると「七十日もたないな」と言った。字画で言えば六と九だが、十一月十二日に生まれ、一月十九日に逝ったので六十九日なのだ。女子しか育たないと言われて、のちに生まれた女児は無事に育ち、いまは男児二人の母親になっている。何か名前に関係があるのかと不思議に思った。当時よく来ていた親戚の男性が、結婚したい女性がいると話したときも、その男性の名前を聞いて、「美代子か美奈子だね。それならいい」と言ったのでびっくりした。美奈子だったのだ。わけは判らないけれど、自分の名前が引き寄せる名前があるのか、運命というようなものがあるのかと首を傾げてしまった。わが家が転居したので交流は途絶えてしまったが、あの石屋さんは不思議な人だったと、良く思い出話したものだ。

 のちに喉頭癌を患って亡くなった父の戒名には「…壽山…」が入り、肺癌死の夫には「…夏岳…」の字が入っている。他にも墓石は黒御影を使うな、白い方が良い、と言う話を聞いていたのだが、私の知人は立派な黒御影石で建てた後、妻を亡くしただけでなく、一人息子も失って、墓守がいなくなったと嘆きながら亡くなった。美空ひばりも最初に黒御影で建てたが、不幸があって𠮷相墓に変えたそうだが、何かがあるのだろう。この世には科学や常識では判らないことが多い。

 占いのほうで、自分の生日の干支と同じになる年(令和元年は己亥)は問題が起きやすいとか、高齢者ではなくなる場合が多いと言われている。私の父も己未日に生まれ、昭和五十四年の己未年に八十二歳で亡くなった。その頃私は更年期症状やストレスによる心身の不調に悩まされていた。姉が、占術を学んでいた関係で知り合った霊能氏K氏に私の話をしたらしい。会ってみるとK氏は、私が何も話していないのに「壬申の年(平成四年)を心配しているようだが、確かにあなたの寿命はその年で終わることになっていた。しかし、観音様があなたの寿命を延ばしてあげようと仰っているから心配はいらない。いまの躰の不調は間もなく治るだろう」などといった。

 壬申日生まれの私は、まだ十年ほど先の事でも五十代半ばでは早いなという漠然とした不安はあったが、だれにもそんな話をしたことはないし、姉も言っていないという。氏は霊界へ帰ったら観音様にお仕えして、人々の幸せのために尽くすのだと温和な顔で話していたが、あの世の話より私は心身の不調がほんとうに良くなってほしいと期待した。

 まもなく、だれの紹介だったかは忘れたが、腕の良い女指圧師が週に一度ずつ来てくれるようになった。そして会話を楽しみながら施術を受けているうちに、体調は少しずつ快方へ向かって行った。

 また、私は二度目に授かった子を流産し、そのときは悲しくて涙がとまらななかったが、「男児が生まれていたら、あなたはずっとその子に苦労させられていたはずだから、生まれなくて良かったのですよ」と言われたこともある。慰め言葉かもしれないが、成人する頃は就職難に入る時期だ。借金癖があった夫より困らされていたかもしれない。現に私の友人は、結婚した娘夫婦がよくお金の無心に来て、援助するのが大変だと嘆いている。

 いずれにしても不思議な人はいるものだ。

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