偽ファミリー

キザなRye

偽ファミリー

 「なんで英朗ひであきはこんなにも同じことばっかり言われないと出来ないの」

「こんなことするのは英朗くらいだよ」



 僕はいつも“親”に何かを言われている気がする。そんなに僕の行動には悪が潜んでいるのか、と思ってしまう。幼い頃からちょこまかと言われ続けて今日にいたるので自分には悪が蔓延はびこっているものだと思い込んでいる。

 僕には2人の兄弟がいて彼らと比べると確実に僕のグチグチと言われる回数、頻度ともに一番多い気がする。僕と兄弟との間に明確に線引きがされていて扱い方が違う気がしていた。これは差別とも言えるのではないかと自分では思っていた。

 この扱いの違いが何でなのかを自分の中で考えに考えて僕は“別の親の子ども”で“赤の他人”という結論に至った。これだと自分の扱いだけが異なっているのも納得である。

 こう思えた日から僕の生活はがらりと変わった。自分は“実の子”ではないのだと言い聞かせて生きるようになった。少しだけ優越したような気持ちになれた。また僕に対して向けられる言葉の数々は“実の子ども”に向けたものではなくて“赤の他人”の自分に向けたものなのだと解釈して今までよりも楽に言葉を受け取ることが出来るようになった。

 自分が“家族”ではなくて“赤の他人”だと思うことは欠点もあった。家の中には僕を除けば“家族”である人がいるので気を許して生活することが難しくなった。自分とは赤の他人だと思うとどうしても対応が冷たくなってしまう。

 一定の距離感を持って関わらないと突き放されてしまうかもしれないという不安と逆に事実を知ったことによって突き放されてしまうかもしれないという不安が入り混じって複雑な感情と共存して生きていかねばならなかった。これが意外と難しいもので早く家から出て縁を切るのが一番良い方法だなと思っていた。

 小学生のときに僕は“親”から

「義務教育の中学校を卒業した後で家を出て行ってもらう」

と言われた。子どもだけで映画を見に行くことを内緒にして行こうとしていたことがバレたことが原因である。ある意味では良い方向に進歩したと言っても良いのかもしれない。

 中学校に入学してからはこれであの“家族”からもう三年もすれば別れを告げられるんだ、と思って少しだけ前向きな気持ちで過ごすことが出来た。こんなに大変な思いをしながら生きるのはいつまでだと期限が分かっているとどれほど気持ち的に楽なのか、言葉では言い表せないくらいだった。

 僕の中では小学生のときに言われた義務教育まで、という言葉を信じて高校には行かないつもりで生活してきたが、“親”としては言った言葉など一切覚えていないらしく何もなかったように高校に行くことになっていた。せっかく離れられると思っていたのにそんなことは夢のまた夢だった。

 そのまま高校、大学と進学して家から出て行くなんてことは到底出来なかった。ずっと“家族”という名の鎖に心を縛り付けられていた。この鎖から抜け出すためにはどうすれば良いのか分からないくらいに縛られていた。

 大学卒業からすぐに家を出て一人暮らしを始めた。もう“家族”と関わりを持たないような生活環境を作れたのは僕としては大きな進歩だった。完全に縁を切ったわけではないが、十分な距離を取ることが出来たと思っている。そのまま何か干渉されることなく過ごすことが出来た。

 高校生のときから付き合っていた彼女と結婚を真剣に考える年齢になって“家族”について考えた。自分にとって“家族”と呼べる人がいないので言わば初めての“家族”を作ると考えると相当な覚悟が必要になる。

 一番怖いと思っていたのはよく言う“母親への対応は彼女への対応と同じ”ということである。“家族”として接してこなかったのでそんなに良い対応が出来ているとは思えない。しかも縁を切ろうとしているので難しいものだ。

 結婚の前にきちんと僕の思いも含めて彼女にすべてを話して理解してもらった。彼女が一人っ子ということもあって婿養子として自分の“元の家”から離れ、戸籍上でも離れることが出来た。彼女には本当に感謝しかない。彼女のご両親も僕の状況を理解して婿養子として受け入れてくれてありがたかった。

 彼女との結婚生活はとても楽しいもので“家族”ってこういうものなのかなと思えた。子どもも生まれて幸せな生活を送ることが出来た。僕は少なくとも兄弟で差別が生まれるようなことだけは絶対にしてはいけないなと心に決めて生活するようにしていた。それが幼い頃に“家族”から僕が唯一学んだことである。このことは一生忘れずに生きていこうと決めた。

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偽ファミリー キザなRye @yosukew1616

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