錬金の魔女と魔神ちゃん2(仮)
電子サキュバスショコチャ
第1話 プロローグ 出会えてよかったね
私が視てきたひとつの世界に、生きる子達の物語
そこにはマナが豊富にあって、人間は豊かに
魔族もいるけれど
人間と仲が悪いなんてこともなく、平和な世界
ただ最近…魔獣の動きが活発で、人間にも魔族にも被害が出始めていた
「エレムリアス」
それがこの世界の名前。
そして、その世界で自分の夢を叶えるために、家を飛び出していった少女がいた。
少女の名前はキスア・メルティ。
王都へ向かい自分の工房を開き、夢を叶えるために生活費と研究資金を稼ぎながら、日夜研究と仕事を繰り返す毎日を送っていた。
今日も研究素材を買う行きつけのお店の人の依頼もしていたということもあり、「おまけだよ」と安く多く仕入れることができ、ほくほく顔であった。
いつものように研究に使う材料を仕入れ、自宅兼研究工房に帰る途中、声を掛けられた。
彼女は城下街の、特に近所の人の修理などを請け負い、困りごとを解決する。
それ故に知り合いも多く、良く街の人々に頼られるのだ。
「おぉ!キスアちゃん!!うちの訓練所の剣が欠けてきちまったんだ‥またいつもみたいに修理頼むぜ!」
「訓練所のダズさん…今回のはなんか欠けたというより、もう少しで折れそうですよ?どうしたんですかこれ…」
そう差し出し、見せられた剣は、もはや全体にヒビが入り、爆発を受けたように焼け融けたかのように
「あぁこいつァ最近…魔法戦士志望のガキがよ…。まだマナのコントロールを習得してねぇってのに、ブレイザさんが見に来てるってんで張り切っちまってよぉ……。炎の魔術を暴発させちまったんだわ!んんで、訓練所の外部練習塲で爆発起こしたもんでそんまま吹き飛びやがってはっは!!地面もでけぇ穴あいちまったし、しばらく外で訓練できねぇわ!!あいつが訓練所の外まで吹き飛んじまったから代わりに俺がキスアちゃんに修理を頼むために来たわけよ!」
「うわぁぁ……その子大丈夫なの…?」
「体が頑丈なやつだからそのうち戻ってくんだろォ、今後もあいつの剣を直してもらうことになるかもしれんからよろしく頼むな!」
「それじゃぁ、一度工房に持って帰って修理しますね…とりあえずはそれでもいいですか?」
キスアは剣を受け取りダズにそう告げる
「おうよ!むしろこんな状態でも直してくれるキスアちゃんが天使に見えてくらァ…。いつぐらいまでかかりそうだ?」
ガッハッハと腰に両手を当て、からっと晴れた空のように豪快に笑ったあと、少し真面目な顔でそう聞いてきた
「この質量なら明日にでも取りに来てもらえれば、修理したものを渡せると思います。そういえばその子の名前ってなんていうんですか…?」
「あぁそいつァトレイル・ラースってんだ、黄色い髪で右肩に赤い肩当て防具つけてるやつだ、みたらわかるぜ」
「ほぇん~、黄色い髪の子なんだ、珍しい…どこからきたんだろう…ここ出身ではなさそう…」
「んぁ?そいつぁ本人に聞けばいいんじゃねぇか?いつか会うだろうしな‥っとそろそろ次の奴の訓練する時間だわ、それじゃぁ明日取りに行くから、その剣の修理頼むなぁ~!」
ダズはそういうと訓練所へと走って戻っていった…
その後キスアも自分の工房兼自宅のアトリエへと戻ると、依頼の受け付けやリビングとして利用している部屋の椅子へと腰掛け、受け取った剣の状態をじっくりと観察してみた。
「さてと‥まずはこの剣…だいぶ欠け…いや壊れて…るね…。」
ダズから渡された剣は一体どうしたらこうなるのかというほどに、至るところにヒビができ、刃の中間辺りが大きく溶けている。
「炎の魔術を暴発させたって、言ってたけど…近接武器の剣をどうやれば炎の魔術でこんな状態にできるの…?気になるけど…それは今度本人に会えたときに聞けばいっか。」
「まぁわたしの魔法なら簡単簡単っ♪パパッと終わらせてけんきゅうするぞ~っ!お~っ!」
キスアはそういうと部屋の棚から日付の書かれたラベルが貼られたビンを持ってくる。ビンの中には彼女の髪の毛がほんの少しだけ入っていて、それを数本取り出すと剣の大きく溶けた部分へ当てる。
すると髪の毛が浅葱光とともに溶け、失われた部分を補い、完全に同化した。
彼女の魔法だ、錬金の魔女である彼女は体そのものが貴重な魔法の触媒でもあるため、このようにほぼ万能に機能する。
「これで全体の形はおおよそできたね~、そしたらあとは」
剣に手を触れ、全体を撫でてゆく…すると細かなヒビは消えていき、新品同様の姿へと変貌した
「よしと、これで明日には渡せるねぇ~♪さぁってとぉお研究んんっ♪」
修理をした剣を部屋の壁へと立て掛けると軽く伸びをし、扉を開け、奥の研究室へと入っていった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
王都プルプァブロッケン、そこには多くの魔女が住んでいて、別名魔女の都プルプァとも呼ばれることがある。
魔女たちはそれぞれに得意な魔法が決まっていて、先ほどのキスアの場合は自分の体の一部を素材として新しいものを作ったり、修理をしたりできる。
これはそれぞれの魂の性質に起因しているため、他の魔女ではどうやっても真似することはできない。
模倣しそれらしく振舞うことはできるであろうが、それを看破する魔法を得意とする魔女には意味をなさない。
よって高位の魔女であればあるほど、貴重であり、特別な力に優れた効果を持つものが魔女協会の歴史に名を連ねることとなる。
参考書:プレワイト・コクア著「世界を愛したエレムリアス」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
彼女もその歴史に名を残すことを第二の目的として研究をしている。
第一は彼女の育ちの故郷を復興させ、育ての親にいつか大きな孝行すること。
彼女の力は「作ったり修理したりする力」だけではない。
本来の性質は錬金と魔錬成。
彼女の体はそのピンクの髪の毛に至るまで魔力を多く含んでいるため、彼女の魔法で素材とする際に魔力を纏ったものへと変質させることができる。
例えば彼女が直したその剣は、その素材本来の硬さを魔力による強化を施し強固にした、そう、仮に名を錬成剣ガトフォンズソードへと変わる。というふうに……。
彼女は根源的な理解としてはわかっていないが、魔力を纏わせ魔道具へ変えていること、自分の魔法の性質といったものを長年の研究によって解明させていた。
このキスアのように、魔女には決まった魔法に適性がある場合が多い、強い力を持った魔女はその分適性が狭く、先のダズが話していた、トレイルの尊敬する「ブレイザ」と呼ばれる者もまた、強力な魔法を扱える。
そんな魔女の都で彼女が何の研究をしているのか、それは………。
————————————————————
「今日こそ、今日こそは…完成させて見せる…っ私は錬成の魔女…っどんなものだってつくれるんだから…!!」
わたしが多くの時間を犠牲にして研究に没頭していた理由、それはこの研究の内容に関わってくる。
わたしが錬成の魔女であること、それも1つの理由でもあるんだけど。
それとは別にある大きな理由。
わたしの村は魔獣の被害が多い都から離れたところにある。
だから村のみんなはそれに悩まされてる…。
でも私ができることはせいぜいが武器を強くしたり直したりするくらい…そんなんじゃ怪我をする人が少し減ったりするだけ…強力な魔獣が出るようになったら私の力だけじゃどうしようもない…。
だからわたしは造り上げる…!
《自分を超えた自分の分身を作り上げる!》
そうすれば、きっと多くの人の役に立てるし、なんなら魔獣をバチボコ倒してくれれば、みんな幸せになるよね…?
「頑張れわたし!夢を、そして有名になる…多くの人の死なずに済む世界を創るために!わたしの全霊をこの窯にかけて…!いっくぞー!頑張れ気張れ貪れわたし!!んむふー!」
そう言い気合いを入れ、魔力や体力の回復効果のある滋養果実、リーンプルを頬張る。
キスアの研究部屋、その中央には部屋の大部分を占める特大の窯が置かれている。
その中には自分の身体の一部を素材とした、魔力を帯びた物質特有の淡く発光する碧い液体が満たされていて、その液体をひたすら自分で作った専用の大棒でかき混ぜ続けていた。
彼女の毎日の習慣であり、研究に没頭するいつもの光景だ。
しかし今回はいつもとは少し状況が違っていた…………それは彼女が指を少し怪我をしていたことにあった…。
トレイルラースの剣を直したとき、彼女はその刃で左手の小指を切っていた、けれどそれに気づかずいつものように研究部屋へと向かい、その手で棒を握り窯をかき混ぜていた……。
朱い滴が傷口から流れ
彼女の小指から滴り
大棒へ彼女の視線の裏側を伝わり
静かに…液体へと注がれた
彼女は棒を動かすのに少し疲れ、持ち方を変えた、棒の赤い軌跡が表へと現れたことで自分の血が流れていることに気づくが遅かった…。
斯くして、止まっていた世界の歯車にようやく修理の依頼が届いた……………。
「えぇとぇぇと、何が起こったの…?いつものようにかき混ぜていたら棒を伝っている赤いものに気付いて、『さっきので手を切ってたんだ!拭かなきゃっ』って手を放そうと思ったらその時にはもう間に合わなくてわたしの血が窯の混合調整液と混ざった瞬間に部屋が真っ白になって…っ!!っ窯は…!!!?」
部屋に広がる白い煙の中、尻餅をついた彼女はぶつぶつ早口であれこれつぶやき、ハッとすると、すかさず立ち上がりぐるぐると思考しながら慌てて窯の中を覗くと…。
「それから、えっと…?窯はどうなってっ…えと、中……わたしより少し小さな女の子が…体を丸めるようにして、眠ってる……。」
まだうまく頭の整理がついていない中、見たままの様子を頭に流し込むように言葉にすると、彼女はその子を自分のベッドへ寝かせて、「あっそういえばこうなるって考えてなかった…」と、あることに気づいてしまった。
「だって…つくることばかり考えてて…できた後のこと……失敗しすぎて、最初のころ頭の片隅に置いてたことなんて…はぁ………すっかり抜け落ちてたよ……嬉しいやら、自分の用意の悪さに落ち込むやら…とにかく、この子のことを、どうにかしないと…!」
「自分の分身をつくるっていうのに私と来たら…そりゃあ…生まれた子は裸だっていうのに全く考慮に入れてなかった~!…服を用意しなくちゃ、なんだけど…わたしの服しかないし絶対この子が来たら大きいし、とりあえず今は夜だし~~!!朝になったらこの子の服を買いに行かなくちゃ…。」
思い切り伸びをしてから布団をかけて、「触媒にはわたしの一部を使ったのに、この子…わたしにあまり似てないなぁ…でもちっちゃくてかわいい…♪」そう思いながら、錬成の疲れからか、その子のそばでそのまま眠りについた…。
「イリス…?起きてイリス…」
「んんぅぅぅ………わたしは…イリスじゃないよ~……ん…?ンッ!」
耳元で聞きなれない声がして、キスアはすぐにあの子が起きたことに思い至り飛び起きた。
「起きた…イリスおはよう…」
じ~っと見つめるその少女はつぶらな瞳でキスアのことを見つめていた。
「おはよう…あの、わたしのこと、イリスって…?」
「…?どうしたの…?自分のこと忘れちゃったの…?」
「自分のことも何も…わたしはキスア・メルティで、あなたの言うイリスっていう名前じゃないよ…?」
「うぅん…でもイリスは必ず迎えに来るって…、それにイリスと同じ顔だもん…。」
「すぅ、ふぅ………」
呼吸を整え、「きっと魂があるんだ、前世の…。」呟き、一度落ち着けてから思考切り替える…
「わたしはあなたの知るイリスに顔が似ているかもしれない、でもイリスじゃないの、だから。会わせてあげる!」
とは言ったものの前世の記憶を持ち受肉したということは前世がいつなのか…。
もしかしたらとても昔の記憶であることも考えると、少女の言う「イリス」はすでに寿命を過ぎ、この世にいないかもしれない…そんなことをよぎるが、「万が一その人がこの世にいなくても、わたしは錬金の魔女。
肉体さえ作れればあとは誰か魂を扱える魔女にお願いできれば、この子のイリスに事情を聞けるしこの子に会わせてもあげられる…!」とキスアは前向きに考えることにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます