第5話:三名様、焼き肉店に御入店

「いらっしゃいませー」


「自前の常陸牛を連れてきました。三名でフルコースです」


「分かりましたー。三名様ご来店でーす。ただ今、お連れした牛と記念撮影をするフェアが開催しております。撮った写真は、暫く当店の壁に飾られます。いかがいたしましょうか?」


「父さん、母さん、牛子と一緒に記念写真を撮ろう!」


両親はノボルに了承すると、牛子の傍に寄ろうと、井口一家は並んで立っている。


「ほら、牛子、一緒に記念撮影を撮るぞ」


 ン~モォ~モゥン~モォン~。


 カシャッ。


「お写真はこちらでよろしいでしょうか?」


 カメラを使った店員が、満面の笑みで井口一家の姿と牛子の姿が揃っている写真を見せたりしてくれた。ノボルはなるべく明るく努めようと、両手にピースを作り写真に写ってある。ノボルの両親が写った笑顔の表情も温かであった。牛子がどこか遠い意識のところからこちらのカメラを真っ直ぐに見詰め返してあった。


「こんな素敵な写真が撮れたら、ノボルも本望だろう」


「うん。店員さん、素敵な写真をありがとう。それじゃあ、そろそろこの牛の調理をよろしくお願いします」


「黒毛和牛ですね。こちらでお引き取りいたしまーす」


 そう言って、店の定員はノボルの手に握る手綱を丁寧に譲り受け出した。


「今まで、一緒に居てくれてありがとうな、牛子。いよいよお別れだ。さようなら」


 ン~モォ~モゥン~モォ~ン~。


 そう鳴いて、牛子は店員の縄に引かれて調理室を入ろうとし出していった。

 

 そこで牛子がこちらを一瞬だけ振り返ってみせた。寂しそうな、しかし穏やかな表情の顔だと、ノボルの目に映る。

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