大文字伝子が行く87

クライングフリーマン

大文字伝子が行く87

午前10時。伝子のマンション。

すっかり恒例となった、高遠のLinenによるテレビ会議。

何故か、伝子の隣になぎさ、と元看護官の飯星が座っている。

「フライングヘッドシザーズ?看護師さんなのに。」と依田が言うと、「私は兄が3人いるんです。幼い頃からプロレスごっこやっていました。中学はレスリング部でした。それがなんで?って思うでしょう?母の命令です。母はまだ現役の看護師です。看護師長です。」と、飯星は、すらすらと応えた。

「飯星さんも、エマージェンシーガールズとして参加するの?闘いに。」と、福本が尋ねた。「場合によっては。普段はEITOの勤務看護師です。以前は、ベースゼロにも勤務看護師はいたけど、退職されたそうです。」

「普段は退屈?」と慶子が尋ねた。「いえ。結構やることあるんですよ。皆、敬遠する健康診断とか。」

「じゃ、言うこと聞かない人にはフライングヘッドシザーズ?」と、蘭が言った。

「ん?案外効くかもね。」

「好みの飲み物は?」「何ナンパしてんのよ。」物部の問いに栞が突っ込んだ。

「コーヒーです。アテロゴ行った時は、コーヒーでお願いします。」

「しっかりしているなあ。」と、物部が感心した。

EITO用のPCのアラームが鳴り、起動した。高遠はテレビ会議を閉会した。4人は移動したが、飯星が感心した。「凄い仕掛けですね。」

画面に理事官が映った。「飯星君。そっちにいたか。午後からじゃなかったのか。」「すみません、理事官。一佐が移動されたので、くっついて来ました。」

「ふむ。まあいい。大文字君。今回の使い魔と式神、詰まり、枝と葉っぱは弱い者ばかりだった。」「金ですか?」「そうだ。人質が見つかりにくい人物だったから、簡単な仕事だと思ったようだ。ドブにでも捨てれば金を貰えると思ったなんて言っていたそうだ。」「赤ちゃんは、産まれたらもう物体じゃありません。」「その通りだ。しかし、無神経な人間は、どこまでも無神経だ。タンスの角に足の小指をぶつけたくらいの感覚らしい。まあ、君たちは暫く羽を伸ばすといい。」

画面は消えた。

伝子達が離れても、飯星はPCのディスプレイを見つめていた。

伝子が督促してリビングに移動してきた飯星に高遠はコーヒーと煎餅を出した。

高遠は、煎餅の由来を話した。「EITOにも置いてあるよ。ネットで注文している。理事官はもとより、時々来る副総監も陸将もお気に入りだ。」

伝子は、追加して話した。

EITO用のPCのアラーム再びが鳴り、起動した。

理事官は言った。「諸君。休息はお預けだ。豊島区目白で『辻斬り』だ。襲われたのは、『シンキチ』さんかも知れない。警視庁から協力依頼だ。日本刀を使っているようなので、天童さんにも話して協力を依頼した。現地で合流してくれ。3人とも出動。エマージェンシーガールズとしてな。」

画面は消えた。「飯星さん、ロープ上れる?」と、高遠はきいた。

午前11時半。豊島区目白。学習院大学近くの住宅。

いち早く駆けつけた、柴田管理官が待っていた。被害者は既に運ばれているので、皆に写真を見せた。

「路地に入ったところは所謂死角。日本刀は届け出のあるものではなかった。」「でしょうな。『焼き』が違う。明らかに那珂国製です。」と、天童が断定した。

「今回際だっているのは『シンキチ』じゃないことだ。ガイシャは田中誠。です・パイロットの配下か、模倣犯なのか、今は判らない。」

「那珂国製でも、鮮やかな切り口だわ。」「その通り。素人とは思えないな。」飯星の言葉にも天童は反応した。

「取り敢えず、捜査本部に行きましょう。」と、柴田管理官は言い、「それでは私はこれで・・・。」と、天童は去って行った。

午後1時。目白今市署。本部長の署長の隣に、柴田管理官が、その隣にEITO行動隊長である伝子が座っている。柴田管理官が口火を切った。

「この写真の通り、鮮やかな切り口です。専門家の意見も聞きましたが、素人では骨まで達する傷は付けられません。現場に落ちていた凶器の日本刀は、届け出のあるものではありません。那珂国製では?と専門家は言っています。」

「詰まり、犯人は那珂国人ということですか?」と、捜査員の一人が言った。

「断定は出来ません。製造者が那珂国人でも、実行者が那珂国人という考えは早計で危険です。偏見を持たないで捜査しなければいけません。ただ、今言われた可能性もあるので、テロの場合を考慮してEITOに参加して貰います。」と、柴田管理官は応えた。

「まずは、目撃者捜しと、怨恨の線だ。近くに大学も多いから、第2,第3の被害者が出ないとも限らない。各大学には、当面授業を停止するように要請する。また、各学生に単独行動をしないように注意を呼びかける。では、班分けだ。」署長の宣言が出た所で、伝子達は辞去し、EITOに戻った。

午後3時。EITOベースゼロ。会議室。

「単独犯でしょうか?理事官。」と、浜田が言った。「判らんな、今のところ。天童さんは、那珂国製の刀ではないかと言っているが。」と理事官は応えた。

「理事官。発言してもよろしいでしょうか?」と早乙女が手を挙げた。

「勿論だ。行ってみたまえ、早乙女。」と、理事官が言うと、「犯人は何故凶器を遺留したんでしょうか?アシがつくかも知れないのに。誰かに見られたのなら、その人を殺せばいいのに。すみません、物騒な言い方して。」と、早乙女は言った。

「確かに変ね。鞘は持っていなかったのかしら?鞘に収めて、例えば竹刀の袋に入れれば、平気で歩けそうだけど。」と、結城が言った。

「ガイシャの身辺調査を徹底的にする必要がある。草薙、預金の推移を各銀行にしらべさせろ。第2,第3の犠牲者を出さない為だ、と言えばいい。」「了解しました。」

「一旦、解散だ。しかし、進展があるかも知れないから、EITO内で待機だ。」と理事官が言うと、「理事官。ベースワンで訓練する事は可能ですか?」と、安藤が言った。

「熱心だな、安藤。勿論、構わん。」

午後4時。伝子のマンション。

掃除が終った高遠は、伝子からスマホで経緯を聞いていた。

「進展待ちだね。でも、凶器を現場に置いて行くって、レアケースだね。ひょっとしたら、実行者と凶器を置いた人物は同一じゃないかも知れないな。」

午後6時。夕飯を作りながら、高遠はテレビをなんとなく点けていた。

「臨時ニュースを申し上げます。那珂国マフィアの、です・パイロットから警視庁にメールが届きました。読み上げます。『辻斬りとかで大騒ぎらしいね。流石、野蛮な国、日本だ。まだサムライが、思いつきの試し切りをしているのかな?今度の使い魔は手強いぞ、EITOの諸君。3日、猶予をやろう。全ての謎を解いたら、ご褒美に総攻撃をするよう、使い魔に言っておくよ。』以上です。繰り返します・・・。」

高遠はテレビを消して、EITO用のPCを起動させようとしたが、勝手に起動した。

EITOの方から通信を入れたのだ。作戦室からだ。

「学。ニュースを観たか?」と画面の中の伝子が言った。

「全ての謎って言ってたね。一部の謎は解けても、解けない謎があるって、遠回しに言ってきた。」と、高遠が応えた。

「高遠君。いきなりなぞなぞ言われても、さっぱりなんだが。謎の項目すら判らない。」と、理事官は言った。

「枝山事務官はおられますか?」「何でしょう?」画面に枝山事務官が映った。枝山事務官はプロファイラーである。

「素人考えですが、順不同で列挙します。1.何故『辻斬り』なのか?2.何故、日本刀なのか?3.何故、日本の日本刀ではないのか?4.何故、凶器の日本刀を置き去りにしたのか?5.何故、今度は使い魔に任せきりにしないのか?6.何故、総攻撃と言って、兵力があるのをばらしているのか?7.何故、今日なのか?8.何故、あの現場なのか?9.何故、秘密裏にしないで、宣戦布告の形を取ったのか?最後に、何故、被害者は『シンキチ』ではないのか?まだ、あるかも知れないけど、パッと思い浮かんだのは、これだけです。」

「ギブアップだ、高遠君。今言われた幾つかは思いつかなかった。で、次の、敵の一手は?」

「多分、『辻斬り』以外の事件が起きます。理由は、です・パイロットが、辻斬りとか』と言ったからです。です・パイロットと、今回の使い魔は仲が悪いのかもしれませんね。宣戦布告の形で、それとなくヒントを与えようとしている。」

高遠の言葉に、夏目警視正が横から言った。「プロファイラーも、名探偵には敵わないか。理事官。今、彼が言ったことを列挙して、皆で検討しましょう。」

「そうしよう。高遠君。夕食時に悪かったね。君の細君はもう少し預からせてくれ。」

画面は消えた。何か返事しようと思っていた高遠は拍子抜けした。

翌日。午前10時。目黒区下目黒。秋葉原の書店が大きな支店を出した。

オープン記念セールに、ゲーム付きの本1000冊に、そのゲーム作家のサインが入る、ということで、長蛇の列が出来ていた。チンピラのような男が割り込もうとしたら、並んでいた那珂国人と口論になり、那珂国人が、いきなり発砲した。チンピラは即死だった。

行列の中の目撃者の一人が、後で語ったところによると、那珂国人は、かなり動揺していたと言う。そして、慌てて去った。

午前11時。那珂国人の写真で指名手配が実行された。行列の中の目撃者は多数おり、喧嘩が始まってすぐにスマホで撮影をしたからである。被害者は、窪内組の準構成員だった。

事件の被害者のことは、柴田管理官によって、記者会見で発表された。

「管理官。反社同士の争いですか?」と、手を挙げながら記者の一人が言った。

「相変わらず、行儀の悪い記者がいるな。指名してから質問しろよ。昭和か。私の知る限り、今は令和だ。詳細は追って発表。文句のある奴は、今の若造と、その会社に言え。以上だ。」

「逃げるんですかあ?」そう言った記者を、他の記者がボコボコにした。

警察関係者は止めなかった。柴田管理官は苛立っていた。もしかしたら、マフィアの戦略かも知れなかったからだ。割り込みはルール違反、いや、マナー違反だが、準構成員には同情するべきだ。ヤクザだから悪いという記事を書こうとする、記者の意地汚さが目に余った。

『いきなり刺した那珂国人は悪くなくて、刺された俺の身内が悪いなんて、理屈になってねえよ。』と、窪内は泣きながら言ったそうである。因みに、準構成員玉城金太は、『シンキチ』ではない。だから、直ちにです・パイロット関連の事件とは言えない。だが、柴田管理官は不吉な予感がしていた。

午後1時。伝子のマンション。

高遠は、依田とテレビ電話で話していた。

「本買いに行って拳銃で殺されちゃたまらんな。その那珂国人って留学生だな。コロニーの頃、マスクやら何やら転売の為に買い占めに動員された学生がいたよな。今度のゲーム付きの本。攻略本なんだろ?しかもサイン付き。プレミア間違いないから、買いに行かされたんだよ、きっと。」

「だろうね。護身用に持たされた拳銃は、オモチャでなく改造拳銃だった。だから、びっくりして、逃げたんだ。もう消されてるな。持たせた奴は、撃つことを想定していた、かも知れないな。」「どうして?性格か?」「だね。何となくだが、です・パイロットの事件と関連があるかも。」「辻斬り事件か?おっと、休憩終わり。進展あったら、教えてくれよな。」

依田は、テレビ電話を切った。高遠のスマホが鳴動した。今度は、ひかるからだ。

「あのゲーム付きの本のことで、社長が謝罪の記者会見をしているよ、高遠さん。発売は当面延期だって。」「欲しかったの?プレミア本。」「うん。まあ、仕方ないよね。」

「面白いの?」「ヒットした作品のスピンオフだから、作品のファンは買いたいさ。」

「いつか、落ち着いたら、そのゲームしたいね。」「落ち着いたら?僕の孫の世代のこと言ってる?」「負けたよ。」「またね。」

午後3時。EITOベースゼロ。作戦室。夏目警視正がやって来た。

「理事官。おかしなことが判りました。窪内組の準構成員田淵巌ですが、うちの調査員が接触して、田淵の仲間に確認させたんですが、田淵はゲーム好きというほどでも無いらいしんです。私はどうも反社とゲームがしっくり来ないなと思って調べさせたんですが。その仲間には、金になる、と言って行列に出掛けて行ったらしいです。仲間は、プレミア本だから、転売する気だろうと言っていたんですが、同時に借金があることも話したそうです。」

「つまり、使い魔に金を掴まされた、とか。しかし、辻斬り事件とは別件だろう。」と、理事官は言ったが、「いや、高遠氏が予言していた事件か?しかし、どう繋がる?」と夏目に改めて言った。

「因みに、窪内組は以前の『手入れ』の時に日本刀は押収されています。今回は巻き込まれたんじゃないでしょうか?」「巻き込まれた?」

二人の会話に伝子が混じった。

「私もそう思います。こういうストーリーはどうでしょうか?田淵は借金があって、困っていた。そこに使い魔が現れて、いいバイトがあるぞ。借金はすぐに返せるぞ、と。田淵は喜び勇んで現地に行く。そして、那珂国人らしき男に喧嘩を吹っかける。周りの人達には割り込みをかけた、と思われる。一方、那珂国人は、喧嘩をふっかけてくる奴は拳銃で脅せ、とオモチャ風の拳銃を渡される。撃った後、驚いて逃げた、と目撃者の一人が言っていましたよね。」

「待ってくれ、大文字君。それだと、使い魔が殺人を仕組んだことになるぞ。使い魔は、田淵に恨みでもあったのか?いや、それなら、儲け話を持ちかけないよな。」

「そうです。田淵は『殺される為』に利用されたんです。一方、那珂国人は、使い魔が『他のこと』から世間の目を反らす為に利用されたんです。」

「そんな馬鹿な・・・。」「単なる仮説です。」伝子はため息をついた。自分でもよく判らないことを言っていたからだ。

午後4時。EITOベースゼロに久保田管理官がやって来た。

「SNSに『勘違い殺人じゃないか』という書き込みがあり、拡散しています。ガイシャは田中誠。関東大学の大学生です。2キロ離れた所に、関東学院大学があります。関東大学と関東学院大学は、よく混同されるようです。タクシーでも行き先間違いはあるそうです。福本君の叔父、福本日出夫氏にも確認しました。そこで、柴田が関東学院大学を調べさせたところ、同じ読みの『たなかまこと』という女子大学生がいました。」

久保田管理官は、ホワイトボードに名前を書いた。『田中まこと』、と。

「男にも女にもある、名前ですか。例えば、『ひろみ』もそうですね。」と伝子は言った。

「その通りだ、大文字君。それで、柴田は『示談』の話を聞き出した。ある時、たくみ大学から、テレビでも名前の知れ渡っている教授の市川信が講演にやって来た。彼女は興味があったので、聴講料を払って参加した。ところが、大学事務所の手違いで、彼女だけの参加になった。一人では意味がない、と教授はその場でキャンセルした。彼女の聴講料は返って来なかった。取りやめの時は返却されるべき金だ。教授は、五月蠅くて取り合わなかった。彼女は訴えた。知り合いの弁護士を通じて。その弁護士は本庄弁護士だった。本庄さんに確認すると、教授が折れて、示談になった。ところで、教授の市川信という名前は通称、つまり通り名で、本名は『市川信吉』だ。そこで、私を通じてEITOの出番という訳だ。」

渡が、久保田管理官に水を渡した。「市川が彼女に報復しようとした。自分では自信が無く、誰かに依頼した。引受人は、相手を間違えて殺してしまった。市川に報告した後、間違いに気づいて逃走した。こんなところですか。」と、伝子は久保田管理官に言った。

「です・パイロットが、『シンキチ』に拘っているところから、この線か。いや、待てよ。使い魔を殺す積もりか?」と、理事官が自問すると、「最終的には、でしょう。とにかく『シンキチ』殺しは続くでしょう。皮肉な言い回しだったのは、市川が『勘違い殺人』で失敗しているからでしょう。」と、伝子が応えた。

「久保田管理官。市川は?」「逃走中。というか、休暇願いが大学に出されている。」

午後7時。夕方のニュースで、警視庁に、です・パイロットから「予定を繰り上げる。明日午後3時、旧・大日本テレビ跡の空き地に来い、エマージェンシーガールズ。」と挑戦状が届いたと報道された。

テレビ局改編で、古いテレビ局は皆壊され、電波オークション後に流用されたテレビ局は無かった。大日本テレビも、買い手が見つかるまで空き地だった。いや、正確には政府所有に戻ったのだが、誰も知らない、空き地だった。

同じ頃。伝子のマンション。高遠が伝子とテレビ電話で話していた。

「多分、勘違い殺人を柴田さんが嗅ぎつけたから、いつもの乱闘なんだろう。天童さん達に協力して貰った方がいいよ。副島先輩にもね。」

「手配済みだ、惚れ直したか?ダーリン。」「ああ、伝子、愛している。」

翌日。午後3時。大日本」テレビ跡地。

ある男が、机の前に座らされている。両亜脚は椅子に、両腕は突っ伏す形で机にしばれれている。目には目隠し、口は猿ぐつわが施されている。

彼の周りには、100人の武装集団が外向きに円陣を組んでいる。彼らは各々、拳銃、日本刀、那珂国刀、ヌンチャク、トンファーなどを持っている。

エマージェンシーガールズが現れた。彼女達は電動キックボードまたはローラースケートで移動してきた。武器は五節棍、三節棍、トンファー、ヌンチャク、ペッパーガン、シューター。集団の隊列は一気に崩れた。

集団の拳銃は、後方支援のEITO弓矢隊と、シューターで地面に落とされた。シューターとは、EITOが開発した武器で、先にしびれ薬が塗ってある。ペッパーガンとは、これもEITOが開発した武器で、こしょう等の調味料が主成分の弾を撃つ銃で、撃たれた箇所から拡散して鼻孔が麻痺する。

拳銃が落ちた瞬間、天童達剣士隊が参戦した。

闘いは1時間半に及んだ。エマージェンシーガールズ側の圧倒的勝利だ。少し離れた所から、筒井が闘いを記録撮影していた。後日、敵側から流出する映像に対抗する為だ。

井関五郎が、机や男の体に爆発物がないかどうかを確認した。「大丈夫です。今回、爆発物は仕掛けられていないようです。」

なぎさと結城と増田が男の捕縛を解き、飯星が脈を測った。

飯星が頷くと、「教授ですね。市川信吉教授ですね。使い魔は誰ですか?」と伝子が尋ねた。

「私だ。いや、正確には私と、もう一人だ。私は、示談のことで脅され、仲間にされてしまった。実行犯が失敗した。留学して間もない学生だから、勘違い殺人をしてしまった。です・パイロットの配下の、もう一人の使い魔が、フォローしてやるから、那珂国に逃げるよう指示してきた。私は、向こうに逃げても殺されると思った。その結果がこれだ。彼らが万一、君たちに勝利した場合は、ここでなぶり殺されるだろう、と思った。そして、敗北した場合は・・・。」

銃声が鳴り響いた。副島が、スナイパーのライフルを矢で叩き落とし、ライフルが暴発したのだ。

逃げようとしたスナイパーの脚には、安藤の矢が刺さった。

「彼らは敗北し、あなたは罰せられる。あなたは『シンキチ』だ。殺されはしなかったが、です・パイロットの目的は達成された。あなたを『葬った』ことには違いない。そうだ、教授。です・パイロットがシンキチに拘る理由に思い当たるようなら、教えてくれ。あなたの専門は心理学なんだろう?」

「根底にある原因までは分からない。しかし、恐らく幼少期に酷い体験をしたのだろう。例えば、同級生の『シンキチ』に虐められたとか。日本人ではないかも知れない。まあ、那珂国のマフィアなのだから、当然だが。」と、市川教授は淡々としゃべった。

「では、詳しい話は移動してから伺いましょうか。」中津警部補が、そう言って、市川を逮捕連行した。

武装集団をトラックに運び、連行させた久保田管理官が、やって来た。

愛宕と橋爪警部補もやってきた。

「逃走中の那珂国人、辻斬りの事件の方も、プレミア本の事件の方も捕まったよ。もう一人の使い魔もね。」と、久保田管理官は言った。

「高遠さんの推理力もだが、あなたの行動力も素晴らしい。改めて感心をしました。」と、橋爪警部補は言った。

「私の自慢の先輩です。」と愛宕が言った。

「そんなこと言ったら・・・撮影されていないの?」と、みちるが言うと、「もう大丈夫だよ。敵はリモートで撮影し、送信している。送信装置の電波はもう消えている。スナイパーが捕まったから、終了したんだろう。」と、筒井が言った。

「高遠の言う通り、ネットで流す為に撮影をセッティングしてあった。こちらも対抗撮影して無駄は無かった。」

「自慢の婿です!」と伝子が言うと、「そんなこと言うなよ、元カレに。」と筒井が応えた。

「元カレ、って言うな!!」と、伝子は肘鉄を筒井に食らわせた。

居合わせた者は皆、吹き出した。

―完―

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