二度目の転生をしたがロリにされた俺、ラビリンスに潜る

テラ生まれのT

第一部 第1章 始まりと出会い

第1話 始まりの茜色

 ─デアルンス国 南部 とある森の中


 ここは…ここは…とにかくとても眠い。


 ふと取り戻した意識は混濁し、目蓋は重かった。

 ゆっくりと、時間をかけて目蓋を開く。ピントの合わない世界。どうやら屋外で、しかももうじき夜らしい。


「〜〜!」

 どこからか声が聞こえる。張り上げている声量の割にぽやぽやと聞こえてきており、まるで小人が騒いでいるようだ。

 (うるさいな、もう少し寝させてくれ…)


「起きろってんじゃシャルル!」

「うるせえ!!」


 男、いや今は少女である彼女は勢いを付けて上体を起こした。ばさりと後ろ髪が背中に当たるのを感じる。


 自分の喉から発せられる聞き覚えのない声と、左手の近くに転がっている水晶玉から聞き覚えのある声が響いていた。

(ああ、あまり大きな声を出さないでくれ。頭が痛い)

 彼女は右手で顔を抑えながらそう思った。


「なんだよ…クソ博士か」

 少女がひとりでに悪態をつく。

 水晶玉の声の主は、2の転生することとなった元凶そのものだった。


 今、茜色の空の下に目覚めた彼女の名前はシャルル・フルフドリス。

 彼女はこの世界の人間ではなかった。本来は、現代日本の冴えない男である。

 ある事故によって意識を失い、再度目覚めた時にはこの世界に来ていた。

 しかし、その時の姿と今ここにいるシャルルの姿は全く違う。

 彼が異世界転生して半年が経ち、この世界に存在する『帝国』と呼ばれている国で功績を上げたことで、幸か不幸かある密命を受けて2度目の転生をしていた。


「なんだじゃないじゃ!お主、役目は忘れておるまいな」

 また水晶玉が鈍く光り、森の中にその声が響いて行った。

 シャルルは「分かってるよ」と答えると辺りを見回しつつ自分の声色の違和感に驚いた。

 まるで子供じゃないか。立ち上がると視線の低さに更に困惑する。貧相な身体だ。鎧やまともな剣は装備出来ないな。


 彼女は冷静だった。それは責任感によるところが大きい。


 シャルルという名の少女は、まるで服を試着したように自分の身体を回りながら確認していった。夕暮れの中少ない日光を頼りに自分の髪の毛をつまんで確認する。金髪だ。


「それで博士、いったいなんだってしてくれたんだ?」

「忘れたのじゃ?デアルンスでは冒険者になるには14歳からじゃ」


 シャルルはあのロリババア博士に聞こえないように小さくため息をついた。この小さい身体から軽い音と共に空気が流れていく。そういうことを聞きたい訳では無かったのだが…。


「忘れるな、お主の役目はデアルンス国に現れた新たな深淵ダンジョン、『ラビリンス』の調査及び─」


「デアルンス国の有力な冒険者の抹殺、だろ」


 帝国から支給されたと思われる足元にあったリュックを背負いながらこともなげに答える。そろそろ出発しなければ。


 異国の冒険者を殺す。きっと異世界を転生するという物語においてそれが主軸にしたものはあまりないだろうな。とシャルルは嫌味っぽく笑った。しかし、それが現状なのだ。


「ん?」

「お主、やっと気付いたかの?」


 見ようと思えば見ることが出来る。これは、恐らくHPとMPかFP?の類いだ。それに、LV1と書かれている。


「驚いた博士。こんな芸当

「それはお主の肉体錬成とデアルンスの国家システムすら欺く帝国ウチらの工作の成功を意味するのじゃ」

 博士は誇らしげに、嬉しそうに話した。

 他にも色々メニューがあるようだが、今この状況でじっくり眺める訳にはいかない。


「もっとお主と話すことはあるが…そろそろそっちの水晶玉の魔法力が無くなりそうじゃ」

 とにかく、と急ぎながら水晶玉から博士は声を発した。


「北へ1時間歩くのじゃ。今夜中には着くじゃろう。ラビリンスの入り口と冒険者ギルドのある街『エル・インテール』へと」


 水晶玉は最後の鈍い光を放つと、砂のように指をすり抜けて崩れ落ちた。

 手の中にはコアである黄色のクリスタルだけが残った。


 (北へ1時間、か)

 少女はその金髪を風に靡かせながら歩き始めた。もう日が暮れかかっている。

 彼女は歩きながら考えを巡らせた。


 俺が転生させられた理由は、つまり帝国の陰謀ということだ。だが正直、悪い気はしない。

 転生前は色々と手を汚したし、転生者特有の知識差による成り上がりを疎ましく思われていたに違いない…。

 いずれ背中を斬られていただろう。それで済めば優しい方かもしれない。


 帝国の軍閥である国防軍。そのうちの首都を守る近衛騎士団の団長付けの参謀中佐。

 これが帝国時代のシャルル・フルフドリスの最終経歴だ。


 あまりにも簡易過ぎる地図を見ながら小枝や葉を踏みしめて歩いていたシャルルだが、不意に歩みを止めた。

 人が倒れている。歳は自分とそう変わらないだろう。不干渉でありがちな現代日本人から転生した割に、彼女は走り出して駆け寄るほどの親切心を持っていた。




 シャルルは気付かなかった。この出会いが運命的なものであることに。

 俺の2度目の異世界転生はここから始まる。


 続く

 ​───────​───────

 次回更新予定日

 1月3日


 !TIPS!

 Pt:1名

 シャルル・フルフドリス 二つ名:[未設定]

 LV1 HP:??? MP:???

 適性:??? 特技:??? 魔法:???

 ※見方が分からないため冒険者ギルドにて査定の必要有


 装備

 ・旅人の服

 ・旅人の手袋

 ・国防軍の革ブーツ

 ・まんまるリュック

 武器

 ・サバイバル用ナイフ

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