五十二話 しっかり強い
近くの空いているテーブルに移動し、クランドはジェスターに一つ尋ねた。
「正直、先輩からの……ジェスターさんからの提案は受けても良いと思っています」
「そ、そうか。ありがたいよ」
「ですが、その前に一つ聞かせてください」
何かしらの条件を追加されるのかと思い、鼓動が早まる。
「もしかしてですけど、ヘビーコングの素材の中で、何が欲しいって決まってたりしますか」
「っ! よ、良く解ったね」
条件の追加ではないと分り、とりあえずホッと一安心。
「こう言ってはあれですが、少し背伸びをして依頼を受けるように見えたので」
「はは、流石だね……出来れば、ヘビーコングの脳が欲しいと思ってる」
脳という言葉を聞き、まさか珍味として食べたいのか!? と思ったが、直ぐに別の考えが浮かんだ。
「脳ですか。もしかして、錬金術の素材として?」
「近いね。実は、家族が患っている病気を治す薬に、ヘビーコングの脳が必要なんだ」
実際のところ、ヘビーコングではなくとも、Cランクのゴリラ系モンスターであれば問題無い。
しかし、現在ハリストンではその薬に、必要なヘビーコングの脳もない。
そのため、自ら狩りに行かなければ、中々手に入らない状況。
「なるほど、そういうことだったんですね」
確かめたかった事は確かめられた。
ジェスターに直ぐ出発できるかを確認……問題無いため、依頼を受理してもらい、直ぐにヘビーコングを探しに向かった。
(やっぱり、本当に頼もしいな)
現在は、昼過ぎまで時間が経ったが、まだヘビーコングは見つかっていない。
それまでに、ジェスターも含めて遭遇したモンスターを倒してきた。
二人の戦いぶりは前回の討伐戦である程度把握しているが、それでも間近でみると更に強さが良く解る。
ランクとしては同じDだが、強さは自分より上だと素直に認めざるを得ない。
「実力を見込んで誘ったんだけど、やっぱり二人は強いね」
「ジェスターさんだって、想像以上の強さですよ」
これはお世辞ではなく、実際に戦いぶりを見た上での評価だった。
一手一手、的確に急所を狙っている為、戦闘を終えるまでの時間がかなり早い。
Dランクの中でも優秀な冒険者。
リーゼもクランドと同じ評価だった。
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「本当にそう思ってますよ。ところで、ジェスターさんたちはソロで活動してるんですか?」
「うん、そうだよ。僕は基本的にハリストンから移動するつもりがないからね」
ハリストンは小さな街ではないが、中規模程度の大きさ。
ルーキーからベテランまで冒険者の幅は広いが、多くのルーキーは殻を破れば、別の街へと移ることが多い。
「……そうなんですね」
会話を広げようと思ったが、何やらあまり深く踏み込んではいけないラインを感じ、会話の内容を変えた。
そして数時間後、ようやく手掛かりを発見。
「この足跡は……おそらく、ヘビーコングのものだね」
家族を助けるために、ヘビーコングの特徴はバッチリ頭の中に入っている。
前衛の槍使いではあるが、ソロで依頼を受けたりすることが多いため、斥候としての技量もある。
発見した足跡を追って進むが……途中で足跡が消えてしまった。
「っ、どうやら足跡が消えてしまったようだね」
「足跡が消えたって……もしかして、そういう知能でもあるんですか?」
追手を撒くために、自身の足跡を消す。
少し考えれば思い付く手段だが、モンスターは基本的にそこまで頭が良くない。
Cランクともなれば、悪くはないが、そもそも他者との争いから逃げるケースが少ない。
「人型のモンスターは割と知能が高いけど……もしかしたら、枝を渡って移動したのかもしれないね」
ゴリラ、サル系のモンスターであれば、その様な方法で移動することは珍しくなく、個体によってはその移動方法がメインの場合もある。
「そっか、その移動方法があったか……って、そうなると何処に向かったか分からなくなりましたね」
「いや、そんな事はないよ。あまり特別というか変な個体でなければ、そこまで枝を掴んで移動しないから」
ジェスターの言う通り、足跡が消えた位置からぐるっと周囲を歩き回ることになったが、無事にヘビーコングらしき足跡を発見。
再びそれを目印に探し続ける。
(いったい何日前の足跡かは分からないけど、効率よく探すには、これが一番だな)
なるべく日が落ちる前にはヘビーコングを見つけ、脳を潰さずに倒したい。
頼むから早く見つかってくれ……そう思っていると、どこからか鈍い打撃音が聞こえてきた。
「っ……近くに、高い腕力を持ったモンスターがいるね」
「みたいですね。聞こえてくる音、全部が同じ……ジェスターさん、もしかしたら!!」
「そうだね。可能性はありそうだ!」
現在時間は三時半頃。
今からヘビーコングを発見して倒せば、五時までには確実にハリストンへ帰れる。
三人はなるべく足音を立てず、素早く移動。
音が聞こえてきた現場に到着すると……そこには探していた標的、ヘビーコングとムキムキのリザードマンが殴り合っていた。
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