五十一話 散財しただけ

クランドとリーゼの特例ランクアップが決定した。


今までに例がなかった訳ではないが、それでも殆ど起こることがない。

故に、ハリストンの冒険者たちは、その話題で盛り上がっていた。


二人の強さ、有しているスキル、いったいどこまで駆け上がるのか。

各々話題は尽きなかったが……当然の様に、ルーキーたちは正式に二人が試験を受けずにDランクに上がったことに、納得がいっていない。


ルーキーたちがそういう反応になるのも仕方ない。

それに関しては、ギルドの上層部も予想していた。


しかし、ギルドとしては強い者は、なるべく早く上に上げたい。

それはルーキーたちも歳を取れば解るものだが……現時点で納得しろというのは酷な話。


ただ、ルーキーたちの中でも、女性冒険者の多くはクランドのランクアップに納得していた。

理由は……前回の一件で、女性たちからは良い印象しかないから。


「ちっ、なんであいつばっかり」


「リーゼさんもなんであんな野郎に……」


「多分だけどさ、あいつが強いのってリーゼさんのお陰じゃね」


「確かに」


何が確かになのか、クランドが会話を聞いていれば、頭の上に大量のはてなマークを浮かべるだろう。


一度は先輩冒険者たちから説教されたが、やはりそう簡単に納得では出来ない。

しかし……男性ルーキーたちの中でも、リーゼを悪く言う者は殆どいなかった。


理由としては、単純にリーゼの容姿やスタイルが優れているから。

魔族という珍しい種族も、野郎たちがリーゼを攻めないポイントだった。


「やっちまうか?」


「いや、でもよ……さすがに無理じゃねぇか」


悲しいことに、優れた人間を数で潰してやろうという思いが、自然と野郎たちから湧き上がってしまう。


出来れば、自分の手でぶっ潰し「お前なんて結局大したことないんだよ!!!」と、上から見下したい。

そんな思いは持てど、実行には移せない。


クランドの実力がどうたらこうたら、他人の力で強くなっただけだと言うルーキーが多いが、Cランクモンスターのグレートウルフを一人で倒したという実績がある。


今のルーキーたちには、逆立ちしても、天地がひっくり返っても勝てない強敵。

多少なりとも考える頭があれば、もはや数でどうこう出来る強さではないと解る。


「……ならさ、あいつからリーゼさんを引き剥がせば良いじゃねぇか」


「それは……いや、どうやるんだよ」


リーゼはクランドの従者。


よっぽどな理由がなければ……よっぽどな理由があったとしても、彼の元を離れることはない。

そんな事は、絶対にあり得ない。


あり得ないのだが、ルーキーたちはそこまでリーゼの忠誠心が高いものだとは思っていなかった。

自分たちの想像を超える忠誠心を持っているかもしれない……それだけ考える頭があれば、恥をかくこともなかった。


意味のない金を失うこともなかった。


何をトチ狂ったのか、ルーキーたちの中でも一番のイケメンを攻略武器として使い、全員の所持金も使ってリーゼをクランドから引き剥がそうとした。


その為には一時的に、クランドからリーゼを放す必要があった。

それが一番の関門だったが、クランドは面白そうな表情をしながら、ルーキーたちの誘いに乗り、とある休日は別行動を取った。


当たり前と言えば当たり前だった。

リーゼがクランドの強さなどを信頼しているのと同じく、クランドもリーゼの自分に対する忠誠心を信用している。


そこで野郎たちの期待を一身に背負ったイケメンは、やれることはやった。

先輩たちから聞き出したテクを実行し、何としてでもリーゼの心を落とそうとした。


「お断りさせていただきます」


「え」


デート? 中、リーゼはクランドの「バカ、突き抜けたバカとか、冷静になってみると意外と面白いんだよ」という

言葉を思い出し、慣れないことを必死でやる攻略担当のイケメンを、心の中で笑っていた。


それだけ聞けば、なんとも酷い悪女だと思われるだろう。


しかし、今回の誘いそのものが、リーゼにとって迷惑な話だった。


こうして野郎たちの作戦は見事に砕け散り、ただ懐が寂しくなるだけで終わった。

そんな後輩たちの失敗談を肴に、先輩冒険者たちは爆笑しながらエールを煽る。


「今日はどんな依頼を受けようかな」


「偶には採集依頼をメインに受けるのはどうでしょうか」


「それも悪くないな」


本日の予定を放しながらギルドに入ると、ルーキーたちを中心に視線が集まる。

当然、嫉妬や妬みが殆ど。


それらの視線を無視しながらクエストボードに近づくと、一人の冒険者が二人に話しかけてきた。


「な、なぁ。ちょっと良いか」


「? 良いですよ」


話しかけてきた冒険者、そこそこ若い男性。

しかし、リーゼを落としてクランドから引き剥がそうと考えた野郎たちの様な、バカなオーラは全くない。


「その、これを俺と一緒に受けてくれないか」


若い男性冒険者が見せた依頼書は、討伐依頼。

内容は、Cランクモンスターのヘビーコングの討伐依頼。


報酬金額は、金貨四十五枚。


依頼内容と報酬金額……どちらも申し分ない内容だった。

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