四十話 戦闘おバカ

「今日は早く仕事が終わりそうだな」


「その様ですね」


二人が森に入ってから二時間後、目的のモンスターはあっさりと見つかった。


「……」


体は太く長く、毒々しい鱗を持つ大蛇。それがラーズンスネーク。


そんな強敵を目の前にして、クランドは笑っていた。

何故なら……過去に、ラーズンスネークの肉を食べたことがあるから。


「リーゼ、見張りを頼んだ」


「分かりました。お気を付けください」


クランドがソロで挑む。

それ自体は容認するが、危ないと思えば速攻で援護する。


リーゼは自身の周囲にランス系の攻撃魔法を複数展開した。


「それじゃ、やろっか……カバディ」


ゴブリンファイターとの戦いでは、身体強化のスキルやキャントを行う気が一ミリも起きなかった。

使えばそれは戦闘ではなく、虐殺。


そんな趣味はなく、緊急事態でもなかった。

しかし、目の前のモンスターであれば、使っても虐殺にはならない。

そうなれば……口にしたくなる方を使用する。


「シャァアアアッ!!!」


真正面から向かってくる人間に、毒液をぶちまけるラーズンスネーク。

この毒液で潰れてくれればラッキー。


だが、自分の毒液はあまり速くない。

それは理解しており、クランドの存在を見逃さない。


空中に跳んだクランドに向けて尾を叩きつける。


「カバディ」


身動きが取れない状態……なんてのは、全く関係無い!!! と同夜顔で言わんばかりの動きで弾く。

空中で体を回転させ、尾を蹴り飛ばした。


この結果には、ラーズンスネークも驚き。

今まで戦ってきたモンスターや人間の中で、自分の尾撃を完全に弾いた者はいなかった。


大抵が避けられず食らい、体が潰れて中身が出てくる。


それほど自信がある一撃だったが、クランドからすればナイスな打撃。

そんな感覚であり、動きは止まらない。


「カバディ!」


「っ!?」


鋭い重拳が体にめり込む。


クランドはラーズンスネークの体内構造を把握している為、うっかり毒が肉に染み込んでしまう様な真似はしない。


(良い一撃が入ったな)


体が大きいというのは確かに大きな武器だが、言い換えれば的が大きい。


加えて……蛇系のモンスターは、あまり三次元の攻撃が得意ではない。


「カバディ!!!」


耐久力はあれど、何度も何度も耐えきれる攻撃ではない。


長い体を変幻自在に操り、攻撃を躱そうとするが、クランドは腕力だけではなく脚力も上昇している。

周囲……三百六十度、全方位から攻撃が飛んでくるかもしれない……だとしても、その重拳で弾き飛ばしてしまう。


「カバディ」


焦りだしたラーズンスネークは長く柔軟な体を使い、クランドを縛り上げようとする。


見た目は地味だが、攻撃を食らう者にとっては、持続的に痛みが襲い掛かる最悪な攻撃。

ただ、クランドはラーズンスネークの動きから、次にどのような攻撃が飛んでくるのか読んでいた。


「シャッ!!!」


しかし、それはフェイク。

ラーズンスネークの本命は、空中に跳んだクランドへ毒液をぶちまけること。


先程の様な打撃ではなく、飛んでくる攻撃は液体。

液体の内容が内容なので、思いっきり蹴とばすのは握手。

解毒ポーションがあるとはいえ、自ら毒液に五対をぶち込むのは得策といえない。


「カバディ!」


ただ……クランドは従者、護衛の騎士たちが認める戦闘おバカ。


考える頭を持っているため、歳が歳なら全力で回避に力を注ぐ。


「シャっ!?」


今のクランドは目の前の状況を打破する力があり、それを惜しみなく使用。

両手に火を纏い、掌底を何度も放った。


放たれた複数の掌底は、毒液を蒸発させた。

それだけで、クランドが放った火がどれほど高温だったのか、一目で解る。


「カバディ!!」


続いてクランドは両手に纏う魔力を土に変え、独特なグローブを纏った。

その拳から放たれた一撃に、苦悶の表情を浮かべるラーズンスネーク。


既に何度か重拳を浴びており、今回の一打は更に思い。


(砕けたな)


鱗を通り越し、完全に骨を砕いた感触が拳に伝わってくる。


さすがのラーズンスネークも痛みで動きが止まった。

クランドには……その一瞬があれば十分。


「カバディ!!!!」


今度は両足に岩の脚甲を纏い、回転蹴りを頭に叩き込んだ。


「っ!!??」


目玉が飛び出そうなほど、強烈な一撃を叩きこまれ……そのまま意識を失った。

当然、失神したのではなく、頭蓋骨を超えて脳を潰された。


いくら大きな体を持っていようと、よっぽど特別なスキルや特徴がなければ、ここから反撃するのは不可能。


「お疲れ様です」


「おう」


相手が状態異常攻撃……毒を持っている。

それだけで戦いに緊張感が生まれる。


当たり前だが、リーゼはラーズンスネークが毒を吐くたびに、待機させているランスを放ちそうになった。


何はともあれ、討伐依頼のモンスターを倒し終えた。

体は大きいが、二人の解体技術とスピードを持ってすれば、そこまで時間は掛からない。


血抜き、解体を終えてから数時間後、クランドとリーゼの耳に嫌な声が入ってきた。


「行くぞ、リーゼ」


「かしこまりました」


嫌な表情を表に出さず、リーゼは主人の言葉に従った。

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