三十九話 そこまで大人になれない
自分たちに嫉妬の視線を向けてきたルーキーたちは、本当に謝意があったのか?
クランドはあまりそういう部分を気にしていなかった。
討伐依頼を受けた道中、あいつらは謝れるだけ凄いなと思っていた。
そんな中、一人だけあまり納得がいっていない人物がいた。
それは当然、クランドに忠誠を誓う従者、リーゼ。
「リーゼ、もう怒るなって」
「怒っていませんよ」
「いや、完全にむくれてるだろ」
自分の為に怒りを持つ。
それは非常に嬉しいが、自分は気にしていない。
故に、あまり他の同業者とバチバチしないでほしい。
「クランド様が良くても、私は良くないのですよ……クランド様の考えが解らなくもありませんが」
どう考えれば、そういった相手を前にしてストレスを感じなくなるのか。
その話を聞いたとき、納得した。
納得はしたが……心の中で、それはクランドだからこそ……大人の考えを持てるクランドだからこそ、冷静さを保てるのだと思ってしまった。
「ったく、本当に良い従者だよ。でも、あいつらも先輩から説教されて、自分たちから頭を下げたんだ。納得いってない気持ちがあっても、これからまだ俺たちにダル絡みすることはないだろ」
まだ自分にそんな絡みをするようであれば、正真正銘の馬鹿としか思えない。
「まだダル絡みしてくるバカがいれば、どうするのですか」
「その時は、その身で俺の実力を味わってもらうよ。それが一番納得出来るだろうし、な!」
言葉で解らなければ拳を。
そう口にすると、二体の上位種ゴブリンが矢を放ってきた。
クランドは反射神経だけで回避し、矢が飛んできた方向に目を向ける。
「ゴブリンアーチャーと、ファイターか」
敵の姿を確認。
すると、早速リーゼは動き出した。
勿論狙うは……奇襲を仕掛けてきたアーチャー。
(良く解ってるな!!!)
クランドの性格上。
戦うなら、素手で戦うモンスターとの戦闘を選ぶ。
それを理解している為、リーゼは瞬時に風魔法でアーチャーを襲撃。
「ゴブァアアアッ!!!」
「よっ」
「っ!?」
ゴブリンファイターは身体強化を使い、全身に魔力を纏って勢い良くグーパンを放つが、クランドに当てるには速度が足りない。
「やべ、ちょっと強過ぎたか」
自分より実力が劣っている相手に、本気で戦う気はない。
なので、クランドは上手いこと顎に拳を当て、脳震盪起こそうと動いた。
その結果……ゴブリンファイターの顎を思いっきり砕いてしまった。
「ゴファっ!?」
「ごめんごめん」
失敗したクランドは適当に謝り、指から伸ばした魔力の刃を振り、首を切断。
たかが魔力の刃、されど魔力の刃。
主の力量によっては、補助ではなく敵を斬り裂く真剣と化す。
「終わったようですね」
「あぁ。ちょっと失敗したけどな」
上位種とはいえ、元はゴブリン。
たかがゴブリンと嘗めるのは良くないが、二人に掛かれば一段階上の上位種程度では、苦戦すらしない。
とはいえ、魔石だけはきっちり回収する。
「う~~ん。ファイターやアーチャー程度だとあれだな。せめてジェネラルとかウィザードが相手ならな……リーゼもそう思うだろ」
「そうですね」
従者としてあるまじき態度かもしれないが、リーゼは棒読みで返事をした。
本音としては、そんな連中とはうっかり出会いたくない。
ゴブリンジェネラルもウィザードも、Cランクのモンスター。
クランドがソロでCランクモンスターを倒せる実力があるのは、身を持って知っているし、何度もその眼で討伐光景を見てきた。
しかし、その分何度もヒヤッとする場面も見てきた。
万が一が起こりうる相手。
それは間違いなかった。
絶対領域・ハンティングフィールドがあるから大丈夫?
そんな事はない。
モンスターにも使用できる技だが、使用条件がある。
結局、その日は特にCランクモンスターと遭遇することなく時間が過ぎ……それから一週間が経った頃、クランドは少しステップアップしようと決めた。
勿論、Cランクモンスターの巣やBランクモンスターの目撃情報がある場所に行こうという訳がない。
そんな無茶を実行しようとすれば、本気でリーゼが止めにくる。
「リーゼ、これなんてどうだ?」
「Dランク推奨の依頼ですね」
ラーズンスネーク……Dランクモンスターであり、毒を吐く大蛇。
討伐の報酬額は金貨三枚。
加えて、素材と魔石を売ればもっと金が入ってくる。
報酬額に関しては、今まで二人が受けてきた依頼の報酬額よりも断然多い。
天と地ほど……というのは大袈裟だが、冒険者たちからすれば、そう感じる者がいてもおかしくない。
「お願いします」
受付嬢の元に到着し、依頼書を渡す。
すると、一瞬だけ受付嬢の顔に不安が現れた。
「解毒のポーションは持っていますか」
「持ってますよ」
亜空間の中から一つのビンを取り出し、受付嬢に見せた。
それは紛れもなく解毒ポーションであり、新人が造ったゴミに近いポーションなどではなかった。
「分かりました。お二人なら大丈夫だとは思いますが、お気を付けください」
「ありがとうございます」
ルーキーたちがぶち当たる壁の中に、状態異常攻撃を持つモンスターとのバトルがある。
ラーズンスネークの場合、体が大きく攻撃力もあるため、Dランク冒険者でも苦戦する強敵であるのは間違いない。
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