二十九話 相手は誰?

「ふぅ、やっぱりCランクぐらいのモンスターがベストかな」


そう呟くクランドの足元には、リザードマンの死体が転がっていた。

体には幾つもの内出血のあり、最後は首を手刀で切断されて死亡。


現在、クランドの年齢は十四。

まだ十五にはなっていないが、体は既に大人並み。


ライガー家に仕える兵士や騎士と比べても、見劣りしない身長と筋肉を有している。


「それじゃ、見張りを頼む」


「お任せください」


そんなクランドの傍には当然、魔族の女性、リーゼがいる。

クランドと同様に順調に成長し続け……いや、リーゼの場合は成長の幅が少々大きかった。


表情はすっかり大人びており、観る人によってはメイドではなく、令嬢と見間違ってもおかしくない。

加えて、その体は貧乳やぽっちゃり好きな人以外は、超好みであろう体型に成長。


ライガー家の年頃の従者や兵士たちは、普段はニコニコしているが、その実はライガー家最高傑作のロ二アスを超える存在であるクランドの専属メイド……と解っていても、すれ違えばつい目で追ってしまう。


そんなスタイルと、子供らしくない色気を持つようになった。


「よし、良い感じに解体出来た」


もう何年も自分で倒したモンスターを解体しており、その動作は慣れたもの。

ベテランの冒険者が見ても、文句のつけようがない。


「クランド様、そろそろ屋敷に戻った方がよろしいかと」


「そうだな」


既に日が沈み始めており、あと三十分も経てば完全に太陽は沈んでしまう。


二人は速足で屋敷へと帰宅。

ちなみに、二人が成長したことで、モンスター狩りは護衛の騎士たちなしで行えるようになっている。


そんな二人も、クランドが十五歳の誕生日を迎えれば、冒険者としての人生をスタートさせる。


だが、そんなクランドに父親であるオルガは息子に、ある提案をした。


「クランド。今年の夏、王都に行かないか」


「王都に、ですか。フーネス兄さんの応援ですか?」


フーネスは数年前から王都の学園に入学しており、現在は高等部に進学。

約二年後には試験をクリアし、ロ二アスと同じく騎士になる予定。


「そうではない……いや、それもある。しかしな、今年だからこそお前の望みを叶えられる戦いがある」


「?」


父親の言葉に、クランドは首を傾げる。


しかし、妹のアルネは……何故、いきなり父がクランドにその様な提案をしたのか、予想が付いていた。


「……有望な騎士との訓練が出来る。ということでしょうか」


「そうではない。ただ、お前にとって有意義な戦いが出来ることに変わりはない、と私は思っている」


「…………」


オルガは、高等部からでも学園に入学してほしいとは言っていない。


では、何故王都に自分が望む戦いが体験できる断言出来るのか。

あまり社交界には目を向けていなかったクランドは、父の提案に中々答えられないでいた。


「クランド兄さん。お父様の提案、受けた方がよろしいと思いますよ」


「そうなのか?」


妹が父の提案を飲んだ方が良いと口にした。

これにより、もしや本当に面白い戦いが待っているのでは?


そんな期待が大きくなる。


(時期的にも、そこまで悩む必要はないか)


冒険者になってから半年後の話、という訳でもないので、クランドは父からの提案を受けることにした。


「王都で俺が望む戦いが出来る、か……リーゼ、一体誰が相手だと思う?」


「……現役の騎士、ではないのですよね」


「父さんはそう言ってたな」


現役の騎士でなければ、一体どんな人物がクランドの戦闘欲を満足させることが出来るのか。


そこを軸として考えた結果……一つの答えに繋がった。


「もしかしたらですが、学生が相手かもしれません」


「学生が相手、なのか」


正直……本当にリーゼの言葉通りなら、先程までの乗り気が下がる。

急降下はしていないが、やや下がり始めていた。


「…………ロ二アス兄さんより、強いのか」


父の提案に、妹のアルネがその提案に乗った方が良いと言った。

それを思い出し、可能性が低い未来が頭に浮かんだクランド。


リーゼは言葉選びに悩み……十秒ほど考え込み、ようやく口を開いた。


「将来的には、ロ二アス様を超えると言われているほどの逸材が、現在二年生として王都の学園に在籍しています」


「ッ!!!!」


クランドは思わず腰を下ろしていたベッドから跳び起きた。


「……それは、本当なのか」


今まで他人の熱い戦いを観ていたら、直ぐに体を動かしたくなる……というのを理由に、兄たちの応援に王都へ向かうことはなかった。


なので、クランドはその現二年生の存在を知らなかった。


「私も実際に戦うところを見た訳ではありませんが、話を聞く限り……誇張が過ぎる、ということはなさそうです」


「そうか……それは、良いな」


「ッ!?」


クランドの体から、荒々しい闘争心が溢れ出す。


直ぐに引っ込めたが、リーゼは主人の胸の中には変わらない熱が宿っている事を確信。

それからのクランドは、更に訓練と実戦に力を入れ……その日まで力を高め続けた。


そしておおよそ半年が経過した頃、遂にその日が訪れた。


因みに、全く関係無いが屋敷を出発してから王都に到着するまでに間に、クランドは戦闘者としての童貞を捨てた。

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