十五話 新しい師

リーゼを従者にしてから一か月が経過。

研修期間も終わり、リーゼは無事、クランドの従者に正式に就職した。


クランドが初めて会った時と比べ、身綺麗になり、その容姿に……兄であるフーネスは一目惚れしかけた。


騎士や兵士の子供たちもリーゼを見る機会があり、もれなく全員フーネスと同じ状態となった。

ただ、クランド専属の従者だと解ると、全員が「それでも自分が大きくなったら……」という思いすら持てなかった。


「よし、少し休憩するか」


「は、はい」


メイドとしての基本業務が終了し、終えてからはクランドとの訓練タイムに入る。

毎日クランドとバトルを行っている訳ではなく、リーゼの得意分野は魔法。


ライガー家にも専属の魔法使いがいるため、魔法使いとして成長することは可能。

しかし、魔族ということもあって身体能力は同世代よりも高く、武器や五体を使った戦い方も相当なレベル。


ロ二アスと比べて負けず劣らずハイスペックだが、未だにクランドから一本も取れていない。


(同じ歳……なのですよね?)


リーゼの記憶が確かなら、クランドと同じ九歳。

先日まで碌に戦い方などを知らなかったリーゼが、クランドに勝てないのは当たり前かもしれないが……リーゼはここ一か月で、教えられたことをスポンジのように吸収。


やせ細っていた体も、しっかりとした食事を毎日三食摂り続けたことで、平均的な体つきになった。


「なぁ、魔法の訓練はどうだ?」


「えっと、とても楽しいです」


「そうか。そりゃ良いことだ」


クランドと接近戦の技術を高める時間も楽しいが、ライガー家専属の魔法使いに個人授業を受けている時間も非常に楽しい。


(……身に覚えがあるな)


リーゼの言葉に嘘はないように思えた。

だが、その眼に……表情を見て、何かを感じ取った。


しかし、その日はあまり深く踏み込まなかった。


それでも半年が経った頃、ライガー家で一番の魔法使い……リーゼの教師がクランドの元を訪れた。


「どうしました?」


「実は……」


魔法使いは申し訳なさそうな表情で、リーゼの教師を外部から迎え入れた方が良いと進言した。


魔法使いの腕は決して低くない。

教育者としての腕も悪くなく、リーゼが順調に魔法の腕を上げているのは、彼の教育力あってのもの。


それでも、これからは自分以上に有能な魔法使いが、彼女の師に相応しい。

こんな事を当主の息子に進言するのは恥ずかしいと感じるが、リーゼの才を惜しむことなく伸ばす為には、絶対に必要だと判断。


クランドは魔法使いの進言通り、父であるオルガにその件に関して伝えた。


「そうか。しかし、彼以上の魔法使いか……」


家に仕えている魔法使いの中でも筆頭である、リーゼの現教師の魔法使い以上の強者となると……中々捕まえるのは容易ではない。


「父さん、お金なら自分が出しますよ」


「っ、待て。さすがにそういう訳にはいかん」


親として、息子に大金を出させる訳には行かない。

オルガのそんな思いは、あっさりと覆される。


「リーゼは今、自分の従者です。自分の我儘で色々と押し通したので、それぐらいは自分が出します」


「むっ」


自分の我儘……というクランドの言葉は間違っていない。

食材や調味料に関しては妥協せずお金を使っているが、それ以外に関してはあまり使う機会がいない。


その為、国に仕える宮廷魔術師レベルの強者を、リーゼの家庭教師として雇うのも不可能ではない。


結局、新しい教師を雇う金は、クランドが出すことに決定。

数週間後には、丁度手が空いていた凄腕魔術師を年単位で雇うことに成功。


あまり誰かに教鞭を振るうタイプの魔法使いではないが、そんな魔術師の耳にもクランドの名前は入っていた。


槍の名家に生まれながら、槍技のスキルを習得出来ない。

しかし、戦闘力はズバ抜けている。

それなりに面白い存在が、従者の為に優れた魔法使いを探している。


では、その従者は一体どんな存在なのかと思い、凄腕魔術師はライガー家から(正確にはクランドから)の依頼を受けた。


ライガー家に訪れてから早速リーゼへの指導を始めた結果、家に仕える魔法使い以外の魔法使いを教師として雇うのも、納得出来る才を持っていると確信。


だが、凄腕魔術師の男、ロウスはリーゼの才よりもクランドの戦闘力の高さに強い驚きを感じた。


(まだ九歳だったか? 将来どうなるか分からんが、同年代の中では武器を扱う奴、魔法を扱う奴関係無しに最強だな)


それが素直な感想だった。

槍技のスキルは確かに習得していないが、他の武器に関しては習得済み。

その練度はどれも平均以上であり、身体能力という大きな武器は、特に群を抜いている。


現段階で魔法を自身の五体で砕く力を有している。

それどころか、後出しジャンケンのように、見てから回避することも可能。


実際にその眼でクランドの強さを見て、ロウスは本人から頼まれる訳でもなく……自ら魔法の知識を教えた。


自分が殆ど使えない魔法の知識を持っていることで、将来敵対する時に役立つかもしれない。

知識を学習すること拒否感はなく、有難くロウスの授業をリーゼと一緒に聞き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る