十四話 今回は小言が多い

「ただいま。すいません、風呂お願いします」


「かしこまり、ました……クランド様、そちらの子は?」


「こいつを風呂に入れてあげてください」


理由は分からない……分からないが、とりあえず言われた通りに風呂へ案内し、綺麗さっぱりな状態にする。


その間、クランドは同行していた騎士と一緒に、街中で何が起こったのか報告していた。


「そうか……無事で何よりだ」


「騎士の皆さんが優秀なだけです」


自分たちの行動が褒められ、騎士としては嬉しい。


自分の子であっても、自分に……家に仕える騎士たちが褒められるのは嬉しいオルガだが、やはり一つ言っておかなければならないことがある。


「ただし、もっと自分の命を大切にするんだ」


「? はい。でも、ライガー家に仕える騎士たちなら、これぐらい大丈夫だと思って」


普段は騎士たちの中でもトップクラスの強さを持つ者と訓練を行っているが、その他の騎士たちも十分に強いことは知っている。


その為、自分が囮になるのは確かに危ないが、騎士たちの実力があれば自分が傷付くことはないと思っていた。


「……騎士たちの実力を評価しているのは、私としても嬉しい。だが、前は何だかんだでまだ子供だ」


今回は少々長い小言が続いたが、特に拳骨が落とされることはなく、説教は終了。


続いて、クランドが拾ってきた女の子に話が移る。


「多分ですけど、彼女は魔族だと思うんですよ」


「「ッ!?」」


この世界には純粋な人間……以外の種族が存在する。


その中に、魔族という種族が存在する。

歴史を遡れば人族や他の種族と対立していた時期はあれど、現在は深い溝など無い。


「失礼します」


扉にノックをし、メイドがクランドに要件を伝えた。


「クランド様、連れてきた女の子がお風呂から上がりました」


「分かりました」


一旦オルガの部屋から出て、クランドの自室に移動。


「そっちの椅子に座ってくれ」


「し、失礼します」


クランドが自分とは違い過ぎる存在……貴族であることはなんとなく解っており、椅子に座ってからも緊張で震えが止まらない。


「単刀直入に訊くが、君は魔族か」


「っ」


いきなりぶっこまれ、動揺で更に体が震える。


(ビンゴだな)


その反応で、目の前の女の子が魔族であると確信。


「俺は君が魔族であっても、怒ったりはしない」


「…………」


まだクランドの存在に緊張するものの、今まで出会ってきた悪いことしか考えていない大人とは違うと感じ、ゆっくりと……頭から角を生やした。


「その、私を産んだ人たちのことは、あまり覚えていません」


「そうか」


だとしても、頭に魔族特有の角が生えるということは……魔族であることに間違いはない。


「クランド様、よくこの女の子が魔族だと解りましたね」


「勘です」


「そ、そうですか」


堂々した顔で「勘です」と答えられ、反応に困る騎士。


「それで……ごめん、まだお互いに自己紹介してなかったな。俺はライガー家の三男、クランドだ」


「リーゼ、です」


風呂に入ったことで汚れていた銀髪は輝きを取り戻し、紫色の瞳はまだ幼いリーゼに謎の色気を与えていた。


「リーゼか。なぁリーゼ、うちで働かないか」


クランドのこの言葉に、騎士とリーゼはあまり驚かなかった。


(クランド様も、ようやく年頃の女性に興味を持ち始めましたか)


騎士としては、今回の行動は少々強引過ぎ……と思いながらも、今まで殆ど興味を持ってこなかったクランドが、異性に興味を持った事実が、非常に喜ばしいと感じた。


(えっと、メイドさん……として働けば良い、のよね?)


貴族がメイドと言う名の従者を連れている。

という大まかな情報は入っていたので、リーゼとしては良さげな仕事先が見つかり、喜ばしい流れ。


「多分、かなり魔法の才があるだろ。それに、一人で裏の世界で生きてきたってことを考えれば、身体能力も相当あるだろ。いや、魔族ってことを考えればそれは当然かもしれないが……でも、強くなれる才があるのは間違いないだろ」


「「ん?」」


目の前の少年が発する言葉に、二人は同時に疑問を持った。


騎士はあぁいう意味も込めてメイドにしたいのだと思っており、リーゼはクランドの身の回りを世話する王道なメイドとして自分を雇いたいのだと思っていた。


「だから、俺の訓練相手になってくれないか」


「えっと……」


「…………」


リーゼは返答に困り、騎士は手で頭を覆いながらも、クランドの性格などを思い返し……雇おうとした理由に納得した。


「クランド様、一先ず訓練相手として雇うにしても、メイドという形で雇うことになると思います」


「そうなるんですか? まっ、それでも良いか」


「その……よ、よろしくお願いします」


もっと疑えよ、と思われるかもしれないが、リーゼはこの短い時間である程度クランドを信用し、メイド兼訓練相手として雇いたいという内容を受け入れた。


こちらの話が纏まったことで、オルガの部屋移動。


クランドから詳しい説明を受け、オルガは本当にリーゼがクランドの訓練相手として力を秘めているのかを調べることにした。


「うむ、どうやらクランドの勘は当たっていたようだな」


一通り調べた結果、とりあえずリーゼの雇用が決定した。

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