十話 今、伝えなければならない

「それは、本当なんですか」


「あぁ、そうだ」


現在、フーネスは父親であるオルガから、先日クランドが起こした一件について聞かされていた。


リック・スプースの方からクランドに絡み、散々馬鹿にした。

その件に関してクランドはひらりひらりと受け流し、大人の対応を取る。


しかし、事態はリックがフーネスのことまで馬鹿にしたことで一転。


クランドはリックの挑発に乗った。

そして結果は当然と言えば当然だが、クランドの圧勝で終わった。


(何でなんだ?)


クランドが自分を馬鹿にされた事に関してではなく、兄であり……あまり仲が良いとは言えないフーネスのことを馬鹿にされ、それに怒りという感情を持った。


「フーネス。まだ、お前には理解出来ないであろう」


「…………」


オルガの言う通り、まだ十歳の少年はクランドの行動に理解出来なかった。


「だがな、俺もお前ぐらいの歳であれば、おそらくクランドの行動を理解出来ない」


「っ!?」


完璧に思える父からその様な言葉を伝えられ、フーネスは若干困惑した。


「クランドが大人びているから……いや、そうだな……詳しく言葉にするのは難しいな」


あまり深く説明し過ぎると、またフーネスがクランドに対して劣等感を抱くかもしれないと思い、詳しく話すのを止めた。


「だが、クランドはお前が……兄がバカにされたからこそ、挑発に乗って圧倒した。それが何を意味するかは、解るだろ」


「……はい」


改めて言われずとも、解る。

理解出来ないが……クランドがその行動を起こした理由に関しては、解った。


「クランドに理由を問いたいかもしれないが、あいつはきっと家族だから、兄弟だからと答えると思うぞ」


「家族で……兄弟だから、ですか」


「そうだ」


その辺りでオルガとの会話は終わり、オルガの部屋から出た。


(家族だから、兄弟だから……)


オルガから伝えられた言葉が、何度も頭の中を駆け巡る。

それでも、まだちゃんとした理由は解らない。


ただ……伝えなければならないことがある。

そう思い、必死でクランドを探した。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


「……フーネス兄さん、大丈夫ですか?」


「お、おぅ。大丈夫、だ」


乱れた呼吸を整え、伝えなければならないと思った言葉を口にしようとする。


「っ……」


だが、中々その言葉を口に出せない。


(くそっ!! ふざけんな!!!!)


今ここで伝えられなければ、見えない壁を一生超えられない気がした。

それでも中々言葉が口から出てこない……次の瞬間、フーネスは両手で自分の頬を思いっきり叩いた。


「っ!?」


いきなりの奇行に、さすがのクランドも表情に驚きが現れた。


(えっ、何? 何をしたいんだ??)


戸惑っていると、フーネスが頬を赤くしながら、ようやく口を開いた。


「ありがとう」


「えっ……あぁ」


何に対して感謝を述べているのか、直ぐに理解したクランド……予想外の言葉を耳にしたことで、思わず頬が緩んでしまった。


「それだけだ!」


恥ずかしさに限界が訪れ、フーネスはその場から速足で去っていった。


(父さんが何か言ったのか? でも、あれはフーネスの意志だったような……何はともあれ、ここ最近で一番驚かされたかもな)


自分を嫌っていた筈のフーネスが、先日の件について感謝の言葉を伝えてきた。

その場にはクランド以外の者もおり、まさかの光景に全員驚きを隠せずにいた。


そして中には……フーネスの成長に感動し、ほんのりと涙を流す者もいた。


そんな事があってから数日後、クランドはいつも通りモンスターを相手に暴れ回っていた。


「カバディ!!!!」


ホブゴブリンの腕を掴み、力任せにぶん投げる。


「ギギャッ!!!」


もう一体のホブゴブリンが隙を突いて襲い掛かるが、瞬時に反応。


「カバディ」


キャントを口にしながら、右拳に岩を纏い……思いっきり正拳突きをぶち込んだ。


「あっ」


渾身の正拳突きは見事、一撃でホブゴブリンを倒すことに成功。

しかし、その威力があまりにも強く……体に大きな穴を空け、心臓だけではなく魔石も破壊してしまった。


「ちょっと強過ぎたか。いや、もっと威力を集中できたか?」


先程の攻撃に関して改善点を考えていると、護衛の一人が話しかけてきた。


「クランド様、先程の攻撃はいつの間に習得したのですか」


「えっと……二年ぐらい前? だったと思います。訓練で強打に関して問題無いことが確認出来たので、今日の実戦で使ってみました」


クランドの訓練光景を目にする者は少なく、属性の魔力を応用して身に纏うことが出来るのを、殆どの騎士が知らない。


「そ、そうなのですね……流石です」


早過ぎる技術の習得に、そんな単純な言葉しか出てこなかった。


普通に考えて、七歳という若さで習得出来る技術ではない。

ただ、騎士たちはクランドが色々な意味で普通ではないと知っているため「クランド様だから、出来てもおかしくない」と無理矢理納得出来てしまった。


騎士たちは、改めてクランドがどこまで登っていくのかが気になった。


「ッ!! クランド様、お下がりください」


ホブゴブリンの魔石回収を終えたタイミングで、新たなモンスターがクランドを標的に定めた。

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