四話 過去に経験がある
念願のカバディという名のスキルを習得出来たクランド。
スキルを確認すると、キャントを続けることで身体強化が上がることが解った。
そうなれば……当然、その状態で戦える様に訓練を行う。
身体能力が上がる。
それは非常に有難い効果だが、いきなり発動すれば……思いっきり転ぶ可能性が高い。
先程の戦いでは運良く転ばなかったクランドだが、もしかしたらフーネスに攻撃する前に、盛大に転んで鋭い刺突を食らっていたかもしれない。
という訳で、その日からクランドはひたすらキャント続けながらのシャドー。
もしくは、通常時からいきなりキャントを始め、スムーズに動けるようにする。
相変わらず槍の訓練も行っているが、素手による訓練時間が圧倒的に増えた。
「……クランド様、そろそろ休憩されてはどうでしょうか」
一人で黙々と訓練を続けるクランドにアドバイス係の騎士が休憩を勧めた。
「そう、ですね……少し、休みます」
朝食を食べ終えてから休憩時間まで、多少の休憩を挟みながらも動き続けていたクランド。
そんなストイック過ぎるクランドに、騎士は敬意の念を持った。
(私が幼い頃、クランド様ほど訓練に対し、真摯に行えていたか?)
伯爵家に仕える騎士になるには、幼い頃から厳しい訓練を受けていなければ、就くことは不可能。
彼も幼い頃から訓練に励んでいたが、クランドほど熱心に集中して取り組んでいた記憶がない。
「ところでクランド様。勉学の時間を取らなくてもよろしいのですか?」
「はい、大丈夫です。父さんと母さんに、騎士への道は進まないと伝え、既に許しを貰ったので」
「っ……そうなのですね」
騎士はクランドのこれから進む道を理解し、少し……ほんの少しだけ残念に思った。
確かにライガー家の生まれであるにもかかわらず、八歳にもなって槍技のスキルを習得出来ない。
これは致命的な点ではあるが、武器を扱う才能に関しては周囲より頭一つ、二つ上。
魔法の才は乏しいが、全く使えないという訳ではない。
騎士の見立てでは、このまま成長すれば騎士団に入団する可能性は十分にある。
(ライガー家の生まれ……それが、縛りとなってしまったのですね)
槍の名家の出でありながら、槍技のスキルを習得していないに、騎士団に入団する。
そこでクランドがどんな結果を残そうとも、横からや下から……上から色々と言われるのは目に見えている。
元々冒険者という自由の代名詞の様な職業に就きたいと思っていたこともあり、クランドはその思いに舵を切った。
「……フーネス兄さんには、思いっきり嫌われてしまったな」
「そうなのですか?」
「えぇ。元々好かれてはいなかったんですけど、先日の一件から……ちょいちょい睨まれてて」
おおよそ勝てると思い、自ら挑んだ勝負。
その勝負にあっさりと負けてしまい、再戦しようとしたら、父親から「何度やっても同じだから諦めろ」的なことを言われ、それらの怒りが全てクランドに向けられていた。
「まっ、仕方ないんですけどね」
「クランド様は、やはり聡明ですね」
「そんなことないですよ。ただ……少し、気持ちが解らなくもないので」
前世ではアンダーの国際大会への出場経験がある。
コミュニケーションは苦手ではないので、下手くそな外国語でレイドの感覚などを尋ねた時……思わず「はぁ!?」と言いたくなるような答えを返されたことが何度かあった。
天才や、一部の例外にしか解らない感覚という者がある。
クランド……大河が彼らに大きく劣っていた訳ではないが、それでもその特別とも思える感覚に嫉妬したことがあった。
「そう、なんですね?」
クランドが誰に対して妬みや嫉妬を抱いているのか解らず、騎士は首を傾げた。
(とりあえず、午後からは短剣の二刀流で訓練してみるか)
武器を持っていても、カバディの効果が発動しなくなることはない。
本質が狩りであるため、そこは特に問題はない。
そして、クランド的には短剣による二刀流が、既によるレイドの延長戦に似ていると感じ、既に木製の短剣を二振り用意している。
(それが終わったら、魔法の訓練もしないとな)
ぶっちゃけ……魔法の才はない。
それはクランドも自覚している。
現在習得出来た魔法スキルは生活魔法、火魔法、土魔法の三つ。
十分ではないか? そう思うかもしれないが、習得してから火と土魔法は一レベルも上がっていない。
槍の時と同じく、これじゃない。という感覚が強い。
しかし……どの部分がこれじゃないと感じているのか。
そこをある程度把握してきたクラウドは、前向きに魔法の訓練も続けている。
(ロ二アス様を見た時も恐ろしいと感じましたが……クランド様は、更にその上をいきますね)
三時過ぎまで訓練を終えてからは、騎士との模擬戦タイム。
槍、素手、短剣の二刀流、ロングソードを使った模擬戦を何度も繰り返し行い、経験値を積んで積んで積みまくる。
当然、騎士が全て勝利するが……レベルもランクも低いモンスターであれば、確実に一人で倒せる実力を持っていると感じた。
「クランド様なら、低ランクのモンスターであればお一人で倒せそうですね」
「……本当ですか!?」
「え、えぇ。勿論です。嘘やお世辞ではありませんよ」
クランドの眼が光り輝いているのを見て、騎士は薄っすらと嫌な予感がした。
そして翌日、その予感は見事的中してしまった。
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