異界見聞録〜〜転生先の異世界にはどうやら謎が多いようだ

河村大風

始まり

 この世は不平等だ。どれだけ努力しても報われない者、努力せずとも成功する者、両方が存在するのがこの世界である。

 この場合においてこの俺、龍川煌たつかわひかるは前者である。子どものころから17歳になる今まで謎の病に侵され、病院のベッドからは出られず、どれだけ本を読んで知識を得たとしても、それを使う場面がない、どこにも行けない。そんなつまらない生活が俺の人生だった。そんな人生ももうすぐ終わりを迎えようとしている。

 ただ、別にひがむつもりはない。やりようによっては知識を生かすことができただろうし、俺よりも努力してる人なんていくらでもいるだろう。ただ俺は……


 ファンタジーみたいなわくわくすることがしたい。


 ただそれだけだ。


「はあ、もうすぐ終わりか……。こんなことだったら無理してでも何かするんだった」


 俺がため息をついてそう言うと、ベッドの傍らで顔を伏せていた女性が涙を流しながらこちらを見る。俺の母親である。


「煌、大丈夫よ。きっと、きっと治るから!」


 母が涙をぬぐって笑顔を作ってそう言った。今更そんなこと不可能だとわかっていながら。


「母さん……」


 母の気持ちを考えて、俺は胸がいっぱいになって涙がこぼれそうになったが、悲しい顔はしまいと何とかこらえる。もうこれ以上両親を悲しませたくはない。

 父はベッドから少し離れたところで腕を組みながらこちらを静かにみている。いつも優しい顔で俺と話してくれている父の顔は、とても悲しそうなものだった。


「母さん、父さん。今までありがとう。俺、幸せだったよ」

「そんなこと言わないで、煌!」

「二人とも、そん、なに、悲しまないでくれよ……俺、ほんとに、しぁ……」


 口がだんだんと動かなくなる。まぶたも少しずつ重くなっていくのを感じた。俺は耐えきれず、ずっしりとしたそのまぶたを閉じる。


「煌? 煌!」

「早すぎる……こんな事、くそっ!」


 閉じられた目とは裏腹に、2人の声がよく聞こえた。しかしそれもだんだんと薄れてくる。

 ああ、もっといろんなこと……、したかったなあ。

 そう思いつつ、俺の意識は遠のいていった。――――




(力が欲しいか?)

 は? 誰だ? ってか、ここどこだ。俺死んだ、よな? どうなってんだ?

(力が欲しいか?)

 だから力ってなんだよ?

力だ)

 は? 生きる、力……。なんだよそれ!? ……いや、でも生きる力……、欲しい、欲しい!! まだ死にたくなんかない!! もし、まだ生きれるんだったら……。力をくれ! 生きる力を!!

(フフフ、契約だぞ。我は貴様に力をやろう、その代わり、貴様は我の役に立て。としてもな)

 は? 何言ってんだお前!? 世界を滅ぼすってどういう……。ああ、ダメだ。また……。

 突然、急激な眠気を感じて、俺はまた眠りについてしまった。――――



「うっ。こ、ここはどこだ? 確か暗闇で誰かに声をかけられてそれで……。ああ、だめだ! 思い出せねえ」


 気がつくと俺は石畳の上に寝そべっていた。手や足がなんの不自由もなく動くことに少し驚きつつ、俺は辺りを見回して状況を整理する。


「一旦落ち着け。周りは石壁、知らない場所。それにさっきまで痺れを感じてた手足は自由に動く。それにこの変な服……。これってもしや……」


 !?


 いやそれこそ落ち着け! んなことあるわけねえだろ! いや、でもなんか変な声聞こえたし、天国っていうにはイメージと違いすぎるし。本当にそうなのか……。

 俺は小さな部屋の中をくるくると回りながらそんなことを考える。


「考えても分かんねえし、よし! とりあえずここを出よう! もし異世界ならモンスターとかいるかもだし!」


 そう思って、俺は薄暗く細い道を歩き始めた。


 壁をつたいつつ歩いていて、俺はふとあることに気付く。空間をモヤモヤとした透明な何かが覆っていたのである。壁、自分の体、空気にさへも。そして俺は大事なことを思い出した。

 使えるんじゃね?


「そうだ! 一番大事なこと忘れてた! 異世界って言ったらド派手な魔法だろ! このモヤモヤ絶対魔力的ななんかだろ!」


 そう思って俺は大声でファイアボール、と叫んだ。


 ……


 しかしなにも出ない。しばし流れる静寂。

 何もねえ。あれ? じゃあやっぱり異世界とかじゃないのか? いやそれか、魔法が使えないからだとか!?

 魔法が使えないかもしれないという不安に駆られてそんなことを考える。すると後ろから奇妙な声が聞こえてきた。


「それでは

「っ、誰だ!?」


 振り返るとそこには黒い羽毛でおおわれた鳥が床に立っていた。


「か、カラスゥ?」

「カラスではありません。僕にはグウルという名がありますカアら」


 俺が驚きながらその鳥に向かって言うと、グウルと名乗ったそのカラスは落ち着いた口調で返してきた。

 な、な、なにが起こってんだ? カラスがしゃべるってどういうことだよ。 でも、俄然やっぱり普通の世界じゃなさそうだな。


「お前は何者なんだ? なんでここにいる? それになんで言葉を喋れて俺に話しかけてきた? あと……」

「質問は1つずつにしてくださいっ!」


 まくし立てるように俺が質問すると、グウルは少しキレ気味で俺にそう言ってきた。

 そんなに怒んなくても良くね? まあでも確かに一気に聴きすぎたな、少しずつ聴いてこ。

 そう思って俺は1つ1つ話を聞いていくことにした。


「じゃあまず、お前何者だ?」

「何者かですか? でしょうか?」

「導く? 意味わかんねえ。異世界転生のオペレーターってことか?」

「いせかいてんせい、というのはわかりませんが、まあ言う通りオペレーターのようなものです。正しくは万が一あなたに何かがあったときにこの世界のことを伝えることが私の使命です。そして今あなたはこの世界についてなにも知らなそうだ。つまりは私の出番というわけです」


 万が一、何かがって……、ううん、分からん。さっきの謎の声の主が俺のために用意してくれたってことか?

 そう疑問に思いつつも俺はそういうことだと納得して次の質問をした。


「次、さっきの発生しないってどういうことだよ?」

「そのままの意味です。ただ言葉で発するだけでは魔法は発動しない」

「やっぱりあるのか!?」

「そこまで覚えていないとは……」


 グウルは落胆の表情をしつつ大きなため息をついた。

 いやそんなこと言われても知らねえよ。

 内心そんなことを思いながら、俺はグウルの説明を聞いた。


「いいですカア? 魔法はただ言葉にするだけではいけません。魔法とはこの世の全てを構成する粒子エネルギーなのです。それを自分が操り火や水、風や雷へと変換することをイメージする。いわば想像が力となるのです。」


 なんか思ってたより難しそうだぞ。ううん、この世界では原子の代わりに魔法が物質を形作ってるってことか?


「まず前提としてこの世界のことを話さなくてはなりません」


 あれ? 結構長くなりそう? まあしょうがねえか。この世界のこと知っときたいし。

 そう思って俺はグウルの言葉に耳を傾けた。


「人の大地―アレグリア。それがこの世界の名前です」


 アレグリア、ねえ。やっぱり異世界なのか……。

 そう思って俺はグウルに一つ質問をした。


「へえ、じゃあさ、地球って聞いたことあるか?」

「地球? 聞いたことないですね」

「そうか、多分俺はその地球ってところからこのアレグリア? に転生したんだ」

「転生? 一度死んだと?」

「え? 知らなかったのか?」

「はい」

「なんかお互い情報があやふやだな……。なあ! いったんお互いのこと話さないか?」

「そうですね」


 と、いうわけで俺は自分のことをグウルに伝えた。


「……っと、まあ俺のことはこれぐらいかな」

「なるほど、その地球という世界で一度死亡し、目が覚めたらここにいた、と」

「ああ、じゃあ次はグウルだ」

「カア、わかりました。と、言っても私がお伝えできるのはさっきのオペレーターであるということだけです」

「なんでだよ」

「記憶が無いのです……」


 ああ、なるほど。そういうこと……。


「先ほどの話も、記憶の断片を全て話したのみ。私の覚えていないことも数多あります。そのことをお忘れなきように」

「分かっ……た」


 また一つ謎が増えたな。あの謎の声、俺がここにきた理由それにグウルの存在。色々調べていかなくちゃな。

 そう考えつつ、俺は早くこの世界を見たいという気持ちに駆られていた。グウルに対し早く行こう、と言って歩き出す。そしてその間にグウルはこの世界のことについて少し教えてくれるのだった――――


 そうこうしているうちに当たりが少しずつ明るくなっていく。どうやら出口が近いようだ。しかし、それと共に前からうめき声のようなものが聞こえて来る。


「この唸り声……」


 と俺が言うと、前から巨大な四足獣が現れる。

 やばっ!!

 そう思って、咄嗟に近くにあった柱の裏に隠れた。


「まずい、あいつをどかさなくちゃ通れねえ」

「あれは……恐らくキングレオールですね。動物界・脊索動物門・哺乳網・四足目・レオ科・キングレオ属で、普通の人間では到底敵いませんが、魔法を使えれば倒せます! さあ、魔法を!」

「なんだその図鑑説明みたいなの!? それにあんなデカブツ倒す魔法なんてできるわけねえだろ! さっき教えられたばっかだぞ!」


 そんな教わってすぐにできるわけ……

 と、俺は疑いつつも一応声に出す。


「ファイアボール」


 すると俺の指先から大きな火の弾がぼうっと天井に向かって放たれた。


「まじか! すげえ、これな……」


―――――――――――――――――――――――――――


 ドコッ!!


 鈍い音と共に煌の体全体に衝撃が走る。かと思うと煌の視線は宙へと向いていた。

 (って、は? なにが起こった。とにかく体が痛え)

 宙に浮いた煌の体はそのまま地面へと叩きつけられた。そして視線の先には動かなくなったグウルが映る。

(くそっ、どうなってんだ? 体が動かねえ。あ、やばい、なんか寒くなってきた。ってえ? これ血か? 誰の? 俺の? おい、ふざけんなって。せっかくファンタジーの世界に転生できたのに……。健斗と優香けんと ゆうかももしかしたらこっちにきてるかもしれないってのに……。一度もしっかりした魔法使えずに死ぬなんて冗談じゃ……ねえ……)


 ドクン! ドクン! ドクン、ドクン。ド、クン、ど……

 くん……。

 そして煌の鼓動は完全に停止した。


 ブワッ!


 それと同時に煌の体をが包んでいった。




 閉じられていた煌の眼が開く。すると、すっと立ち上がって大きくため息をつく。しかし、その見た目は元の煌とは異なり、黒かった髪は真白となり、黒い瞳は赤いルビーのように染まっていた。


「ハア……。小僧め、早々に死ぬとは。おかげで出て来る羽目になったぞ」


 煌?はそういうと突然笑い出す。


「フフフ、こんな魔獣に負けるとは、愚かな。」

「グルアアア!!」


 魔獣は叫びながら煌?へと飛びかかった。しかし、その大きな顎にそろった鋭い牙は衣服を貫通するものの煌?の体に傷ひとつつけられない。


「何だ? 仔犬が……。チッ、面倒だ。消え去れ」


 そう言うと右手を魔獣の体に当てる。


 崩壊乃波動イビルフラクタス


 するとその魔獣の身体はみるみると崩れ去りあっという間に跡形も無くなってしまった。

 煌?は手を払い、首を鳴らしてふとグウルの方を見た。


「これは……たしか……。うっ!? 小僧め!! 意志だけは、固い……か……」


 そういうとそのまま倒れ込み眠りについてしまった。


―――――――――――――――――――――――――――


「……てください、起きてください!!」


 グウルの声で俺は目を覚ました。どうやら気絶してしまったらしい。

 頭いてえ、ええと、確か……。モンスターに攻撃されて……。


「って、あれ? モンスターは?」

「モンスターではなく魔獣です。……それがいなくなってるんです。跡形もなく」


 跡形もなく!? 何が起こったんだ、まったく思い出せない。

 俺がそう考えていると、グウルが一言、


「煌さん、目が赤くなってますよ、それに髪も半分ぐらい白く……」

「まじ? どういうことだ? 見た目が変わるって……」

「……今は情報がありません、とりあえず外に出てみてはいかがですカア?」

「まあ、確かに。わからないことをいくら考えても分からないままだしな……」


 そう言う訳で俺たちはこの建物を出ることにした。


「こ、これは……」


 建物を出て目にした景色は鬱蒼とした森林。建物はおろか人の気配すらない。その代わりに魔獣たちの雄たけびや悲鳴のようなものが轟々と鳴り響く。

 あ、これ……死ぬな。

 半ばあきらめたように俺はそう思った。しかし、


「さあ、行きましょう!!」


 とグウルが俺に向かって言ってくる。


「いや、無理だろ! こんな森抜けるって!? 絶ってえ死ぬ!!」

「大丈夫です」


 大丈夫って何がだよ、と俺がツッコむとグウルは俺に遺跡の壁を殴るよう言った。不思議に思いつつも言われた通り壁の前に立ってこぶしをふるう。

 ただ、ちょっと怖いから気持ち抑え目でっ!


 バキィッッッ!!


 俺のこぶしはその石壁にヒビを入れた。


「うへ!? まじかよ!? なんだよこれ?」

「これも魔法の力です」


 グウルの話によると魔法は俺の思っていたようなファンタジーな代物ではなく、結構物理的なもののようだ。


 遡ること十数分前……。


 俺はグウルに魔法の話を説明してもらっていた。

 基本的には魔法、もとい魔力は万能エネルギー。炎や水、光や音エネルギー、さらには破壊エネルギーなどに変質されることができる。だがしかし、変換するだけではただのカオス、なんのコントロールも効かずにエネルギーが霧散し無駄になる。そこで必要なのが、


「イメージと詠唱です!!」


 グウルは声を大にしてそういう。


「詠唱することで自分の行いたいことを明確化する。そして、エネルギーを効率よく、自身の思ったとそりに発動するためにどのようにエネルギーが変換され、どのように放たれ、周りにどんな影響を及ぼすのかをイメージするのです! そうすることで魔法は絶大な威力を発揮する! 複雑で巨大な魔法ほど消費する魔力は多いし、習得するのも難しいのです!」――――


 と、いうことだそうだ。今俺がやったのが魔力を破壊のエネルギーに変えてイメージもなにもせず攻撃した場合。


「そして、これが……」


 魔拳撃まけんげき!!


 俺は壁が崩れる様子をイメージしつつそう叫ぶ。するとその壁はさっきの数段大きいヒビが入りそのまま崩れてしまった。

 す、すげえ!! これでドラクエとか、FFの魔法みたいなやつが打てるのか!!


「どうですカア? ワクワクしてきました?」

「ああ! これならいけるか……」


 と俺が言いかけると、突然俺たちの周りが暗くなる。

 ん、雲? いや、この形……まさか!?

 と俺とグウルが上を向くとそこには絵に描いたような……。


 「「ドラゴン!?」」


 そのドラゴンはコオを下に向けてこちらへ急降下して来る。


「やべえ!! どうすんだよ!?」

「落ち着いてください! あれはプティワイバーン! 動物界・脊索動物門・爬虫網・龍目・飛龍科・ワイバーン属です!」

「だからその図鑑みたいな説明いいって!!」

「とりあえず逃げしょう! 跳飛脚ハイジャンプと言って、高く跳躍するのを想像してください!」


 早速かよ!? くっそ!! 跳飛脚ハイジャンプ!!

 膝を曲げてジャンプする瞬間にそういう。すると俺の体は前方40度ほどに10メートルほど跳んだ。


 ドゴーン、とワイバーンが遺跡に突っ込む。

 なんでこんなドタバタになんだよお!!ーーーー




「はあ、はあ、はあ!! っ、ここまで、はあ、来れば流石に大丈夫、だろ!!」

「大丈夫ですカア?」


 グウルは俺に何事もなかったかのように問いかけてきた。

 自分だけ跳びやがって、ムカつくっ!! だがまあしかし、結構遠くくまできちまったなあ。もう遺跡見えねえし、って言うかこんだけ走れるとは……。前じゃ考えらんねえな。

 俺は病院にいた頃を思い出しながらそう思った。するとグウルが突然上空へと飛び上がっていく。そしてしばらくするとまた戻ってきた。


「カア、どうやらここは森の中心部のようですね、しかもかなり広い。これは魔法を使ったとしてもかなりかかりそうです」

「そうか……。どうするべきだ……」

「まあ、急いでも仕方がないですし、のんびり行きませんカア?」

「それもそうだな! 見た感じ、地球にはない植物とかもいっぱいありそうだし……」


 俺がそういうとガサゴソと前の草むらから音がする。

 !? またかよ!! 今度はなんだ!?

 するとその草むらから腰ぐらいの高さの狼のような生物が出てきた。


「なんだこいつ!?」

「この生物はフォレストウルフですね。動物界・脊索動物……」

「それはいいから生態とかさ!?」

「ああ、基本は単体で行動し、繁殖のシーズンには群れになります。人を襲いますが、一般人でも油断さえしなければ簡単にできますよ」


 なるほどな、と俺が言いかけると早速その魔獣は俺に襲いかかって来る。

 ヤベツ!! 倒せるとは言っても、多分俺一般人以下だろ!!

 俺は咄嗟に横に倒れ込む。するとグウルは魔法を使うように俺に言ってくる。


「魔法っつても何を!?」

「とりあえずは炎爆フレアボムを!! 三級下位魔法なのですぐにできます!!」


 フレアボムね、オッケーっ! 炎が爆発するイメージ……。


炎爆フレアボム!!」


 ボワアッッ!!

 フォレストウルフの姿が激しい爆発音と共に炎に包まれる。そしてその炎が消えると体が焦げ焦げになったフォレストウルフが出て来る。


「よっしゃ! 初討伐ってか!?」

「すごい……」


 俺が喜んでいるとグウルがそう呟く。どういうことだ、と俺が問うと、魔法の威力が想定よりも高かったらしい。


「正直なところ、失敗すると思ってました。詠唱失敗でも相手を逃げ帰らせるぐらいはできますから。でもまさか、完璧にこなすとは……」


 ま、まさかこれは……。来たか!?


 異世界転生者が圧倒的実力で他を薙ぎ払っていく!! 異世界転生の定番!! これはきたんじゃ……、


「1000人に一人ほどの才能なのでは!? カア」

「せ、せんかぁ……」


 俺は勝手に期待して、勝手に裏切られてしまった。

 1000じゃあそれほどじゃないよなあ……。

(千だと、我はこの世に一人の存在だぞ、この鳥!!)


「!? 誰だ!?」


 俺がそういうとグウルが不思議そうな顔をして俺に問いかける。

 だ、誰だ? どっから聞こえてきた!? っていうかこの声……。


「大丈夫ですカア?」

「あ、ああ。ごめん、何でもないよ」


 やっぱり情報が必要だ、さっきのことに関しても、この声に関しても!!

 俺はそう思って、一刻も早くこの森を抜けて、人と出会うと決意した。しかし……、


 今度は後ろからドドドド、と地響きのようなものが聞こえる。そうして後ろを振り返ると今度はさっきの魔獣とは比べようもないほど巨大な生物が現れた。体長は15メートルほど、大きな顎に鋭い牙、前足には巨大なかぎづめが3本ずつに後ろ脚はまるで巨木のような感じだ。


「恐竜!? この世界には恐竜もいるのかよ!?」

「恐竜? この生物はデイノクラヴァスです!! 巨体ではありますがそこまで素早くはなく威力の高い魔法を一発当てればすぐに倒せます。でも、」

「でも?」

「煌さんにそれほどの威力の魔法はまだ撃てません!!」


 ですよねえ。

 魔獣は大きな咆哮をすると俺たちめがけて突進してくる。俺は魔法を使って加速し何とか避け切り、グウルは空へと回避した。

 こりゃあ、一直線で森の出口に向かうのは無理そうだなあ……。


 俺とグウルはそれからしばらくの間森の中でサバイバルする羽目になった。森の外に出ようにもも巨大な魔獣がそこらじゅうをうろうろしているからである。本当に気が気じゃない。

 それに衣食住もあってないようなものだった。グウルと協力して魔獣を狩り、調理する。それも別に美味しくない。米もない、パンもない、野菜もほぼ山菜。食の楽しさなんて皆無だ。服は最初に来ていたものを川で洗って使い回す。テントを作る技術もないから焚き火をしたり、魔獣に襲われないよう木の上で眠った。

 だけどメリットもあった。まずはいろいろ魔法を覚えられたこと。魔獣たちを倒すために攻撃魔法を色々知った。それに武器や倒した魔獣のを捌くための調理道具などを作り出す創造魔法。軽い怪我ではあるが傷を癒せる回復魔法など。

 と、言ってもグウルの覚えてる範囲なんだけど……。


 だけどまあ、そうして強くなった。今ならここにいる魔獣の四分の三ぐらいは倒せる!!

 という事で、そろそろ森を出られるんじゃねえかなあ。


「もう、森、出ないか? グウル?」

「そうですね、魔法も結構教えましたし、そろそろいいかもしれません」

「よし!! じゃあ、行くか!!」

「カア!!」


 そうして、それたちは改めて森を脱出することにした。――――


 魔獣を倒しながら、俺たちは既に結構な距離を歩いていた。グウルは空から森が開ける方向を俺に教えてくれている。

 というか、そういえばワイバーン……、あの一回きり見ねえなあ……。

 そんなことを考えていると、前から人の声が聞こえて来る。どうやらグウルもその声に気がついたらしく俺の肩に乗って小声で俺に語りかけて来る。


「何やら人の声が……」

「ああ、わかってる。今まで人の気配すらなかったのになんでいきなり……」


 俺とグウルは念の為に、木の上にのぼりその声が近づいて来るのを待つ。少しするとガシャガシャと音を立てながら鎧を着た兵士?たちが話をしながらこちらへ歩いてきた。

 7、8、9……、10人か? 兵隊? 何のために?

 俺がそんなことを考えていると兵士たちの声が話が聞こえて来る。

「こんだけ探しても、いないってことはもうここにはいねえんじゃねえか? もう何日探してる?」

「20日、ですかね。それと、そんなこと言ったらナルタスさんに叱られますよ」

「聞こえやしねえって!」

「それにしてもどこにいっちゃったんでしょ、いきなり飛び出していきましたけど……」


 森に探し物か? お宝とか? ってことはトレジャーハンター?


「やあ、君たち! 木の上なんかで何してんの?」


 突然、後ろから話しかけられる。俺は反射で後ろに殴りかかるが、その声をかけた奴は俺の拳を受け止めてにぃ、と笑った。


「いきなり何するんだよ。ただ声をかけただけじゃないか?」

「くっ!? お前誰だ!?」


 俺がそう尋ねるとその男は俺の拳を話して木から降りる。俺もその男に続いて木を降りて、小声でグウルに、


「ちょっと離れて見ててくれ」


 と言った。グウルもどうやら意図を理解してくれたらしくなるほど、わかりました、と言って離れていった。


「んで、あんた誰だ?」

「私はマトヒール王国の兵士長、ナルタス・デヴァンだ!」


 マルヒート王国? いきなり国の兵士長が出てきた……。なんで!?


「なんでこんなところにいるんだよ?」

「国王様の命令でね、この森で邪悪な魔力、それも強大な魔力が発生したってんで調査隊としてこの森に来たんだよ。他の奴らは……、多分そろそろ来ると思う」


 ナルタスと名乗った男がそういうと、前からさっきの鎧を着た奴らが走ってきた。


「いきなり飛び出してなんなんです? 何か見つけました?」

「ああ、彼をね!!」

「いや、ただの子供じゃないっすか」

「そうですよ! やっと手がかりを見つけたと思ったのニー!!」


 ナルタスが部下たちのブーイングを浴びている間に俺はしばらく考え込んでいた。

 邪悪な魔力う? なんだそれ? っていうか魔力に邪悪とかあるのか? でもまあ、とりあえず敵じゃあなさそうだな。

 そう思っていがみ合っているナルタス達に声をかける。


「ああと、じゃあ俺行っていいかな?」

「ああ、ごめんごめん。大丈夫だよ。あっ、でもこれも何かの縁だし名前くらい教えてくれないかな?」

「おう! 俺は……ぐっ!?」


 突然、頭痛がする。目の前がぐわんぐわんと歪み、頭の中で大きな声がした。

(ルシフ・デウレクス)

 ぐああっ!! な……ん、だよ!?


「ル、シフ・デウ……レクス」


 俺は朦朧とする意識の中で突然そう口走った。俺の意思ではない。にそう言わされた。

 するとナルタス達は咄嗟に俺のことを抑え込む。


「なんださっきの!? こいつやばいぞ!!」

「きっとこいつですよ!! 邪悪な魔力って!!」

「一旦落ち着くんだ、とりあえず拘束して……」


 段々と声が遠のいていく。

 ああ、三度目だぞこれ……。もういい加減飽きた……。

 そうして俺は意識を失った。ーーーー



「ぐっ!」


 俺が目を覚ますとそこは鉄柵に囲まれた小さな部屋だった。どうやら投獄されてしまったらしい。

 くっそ!! 檻? どこだここ? っ、手足もなんかはめられて動かせねえし、なんでこんなにうまくいかねえんだよ!!

 そう取り乱したが一旦落ち着いて深呼吸をした。

 ふう、落ち着け俺。全く知らない場所に放り出されたんだ。うまくいかなくて普通! 大丈夫!

 自分にそう言い聞かせて辺りを見渡してみる。別の牢屋に入れられていた誰かが話しかけてくる。


「おい! お前!」


 薄暗くて見えづらいがたぶん男。声的にも。それに髪は青色、って青!? うわあ、すげえ……。ザ・ISEKAIって感じ。誰だこいつ?


「そこに入れられてる奴なんて始めてみたぞ。どんだけすげえことしたんだ?」

「何もしてない! 冤罪だ! 名前を言おうとしただけで地面に押し込んできやがったんだあいつら! 俺はただ、冒険したいだけなのに!!」


 そう言いうとその男は突然笑い出した。


「ハハハッ!! お前面白いな、なんか悪いやつに見えないし、気に入ったぞ!」


 お前は普通につかまってるから悪いやつだろ、と言いそうになったがキレられたらいやなのでやめといた。

 その男は鉄柵のすぐ近くまできて、俺にはっきりと姿を見せた。身長は俺と同じ175ぐらい、見た目的にも年齢も近そうだ。囚人らしいぼろい服を着ていながらも、その表情は柔らかく、あまり罪人には見えない。


「お前名前は!?」

「ああ、俺はひ……、ぐっ! ルシフ・デウレクス……。お前は?」

「俺ぁ、シディル・ダリエーラ。なあ、俺と一緒に脱獄しねえか?」

「え、あ、ああ。って、はあ!?」


 突然のことで声が裏返る。いやだって、驚くだろ!! 初対面だぞ! 会って1分だぞ!? なんでいきなり……。

 そう思って訳を尋ねた。


「ううん、まあ、そろそろかなって」

「そろそろって?」

「俺、何回か捕まってんだ。ここらへんじゃ結構有名なんだぜ! 捕まるたびにより厳重なところに入れられるんだけど、そんなんじゃ無理だっての! それでそろそろ飽きてきたからまた出ようかなって」


 極悪人、なのか? どうもこいつがどういうやつかわからねえ。まあでも逃げられるに越したことはないか!


「ああ、いいぜ! 乗った!」

「よっし。じゃあ行くか!」


 おうし! 俺もこんな手枷足枷じゃ捕まらねえっての! 魔法でぇ……。ってあれ? 魔法が使えない。どうなってんだ!?


「魔法が使えない!」

「何言ってんだ? 魔障陣が張ってあるじゃねえか」


 そう言って俺の折の周りを指す。よく見ると檻を囲うように大きな魔法陣が描かれていた。

 なんじゃこれ? でもさっきシディルが魔障陣とかなんとか……魔法使用を阻害するなんかかな。

 俺はそう思いつつシディルの檻の方を見る。するとその檻の周りにも魔法陣が描かれていた。


「って、そっちにも描いてあるじゃん!」

「そりゃ、そうだろ。犯罪者だぜ? 魔法なんか使えたら簡単に脱出できちまう」


 確かに……。

 自分の考え無さに少し悲しくなった。

 そんな俺の気持ちを気にせず、シディルは自慢げに俺に語りかけて来る。


「そこで俺が編み出したのが!」


 と、言いかけて口をゴモゴモとし出す。そうして口の中から小さな針金を出した。

 はあ、なるほど。この世界だと金属探知機とかもなさそうだしな。


「どうだ! 驚いたか! だけどまだこれだけじゃ出られないじゃないか、そう思ってるだろ! ふふふ、これをこうして……」


 ガチャ!


「なんと鍵を開けられるんだなあ。どうだ!もっと驚いたろ!」

「え? いや、ただのピッキングだろ?」

「ぴっ、え? そんなに驚いてねえ? ま、まあいいや!」


 少し残念そうな顔をしつつもシディルは気を取り直して俺の檻を開けてくれた。

 よし! これで自由! とは言ってもこれからどうすればいいんだろう? 冒険はしてみたいけど、このままじゃおたずねものだし、行くあてもないし、ううん……。

 俺が悩んでいるとシディルが少し焦ったように口を開く。


「おい! 考え事は出てからだ! ここで捕まっちまったら元もこもねえ!」


 俺はああ、と頷いてシディルについて行こうとする。しかし、牢獄を出て街の中を忍びつつ歩いていると、


「感知魔法に変化があったと思ったらまさか脱獄とは、どうやって出たんだい?」


 目の前にナルタスが現れた。

 チッ! またこいつか! どうする前の動き的に俺じゃあ絶対勝てない。シディルはどれぐらい強いんだ? っていうかグウルはどこいっちまったんだ? この近くに入ると思うけど……。

 俺がそんなことを考えているとシディルは俺の服を掴んでナルタスとは逆方向に走り出す。


「グェッ!! お、おい! 何してんだ?」

「お前知らねえのか!? あいつはこの王国の兵士長だ! 俺たちじゃあ勝てねえ!」

「そんなにすごいやつだったのかよ?」

「ルシフはここらへんのやつじゃないのか、結構有名だぞ、あいつ!」


 そんな会話をしつつ全速力でかけていく。しかしすぐにナルタスに回り込まれてしまった。


「残念だったね、ルシフくん。それにシディルくん。君たちは、特にルシフ君は逃すわけにはいかない」


 どうする!? シディルの口ぶりからすると相当強そうだけど、二人がかりなら?


 ドゴッ!!


 突然、ナルタスの姿が消え、隣から鈍い音がした。振り向くとシディルが地面に伏していた。


「ま、まじかよ。」

「じゃあ次は君だ」

「ちくしょう!!」


 カッ!!

 俺がそういった瞬間、俺の体を眩い光が包み込んだ。それはまるで神の後光のように……。


「くっ! 何がっ!? この光は!?」


 ナルタスが目を覆いながらそういった。その光は辺り一面を包み込み、ナルタスの動きを完全に停止させる。俺はその好きにシディルの襟を掴んで全速力で街中を走り出した。

 

「もう、どうなってんだよ!? いきなり体が光出すってなんだ!? 訳分かんねえ!!」


 文句を垂れつつ、街の中の裏路地に行き着き、そこで一度立ち止まった。


 バシバシバシバシ!!


 シディルを下ろし、往復ビンタで叩き起こそうとする。


「痛ってえなおい!! ってなにすんだよルシフ!?」

「ああ、起きたか」

「あれ? ここどこだ? ナルタスは……」


 と、いうわけで俺はシディルに対し、光が突然発せられ逃げ出したことを伝えた。


「突然体が光出すって、お前、ふっ」


 シディルはくすくすと笑いながらそう言った。俺だって好きで光ったわけじゃない、そう言おうとも思ったがなんだか虚しくなったのでやめた。


「? お前、その額のなんだ?」


 突然真剣な顔をしてシディルがそう問いかけて来る。


「額? なんか付いてるか?」

「いや、なんか変な紋様みたいな……」


 魔法で剣を創り出し、その剣の反射自分の額を見る。そこには全く見たことのない複雑な紋様が描かれていた。


「うわっ! なんだこれ!?」

「もしかしてよお、その光が関係あんじゃねえか?」


 光、ひかり、ヒカリ……。関係性が全く掴めない。また謎が一つ増えた。


「くぅ、気になる! でも早く逃げねえとまた見つかる」

「あ、そうだ。中央図書館へ行かないか? あそこなら人もたくさんいるし見つかりにくいだろ、調べ物もできるし」

「大丈夫なのかよ? さっき感知魔法とかいってたけど……」

「それは大丈夫です、カア!」


 俺がそういうと上から聞き馴染みのある高い声が聞こえる。


「グウル!」

「あの感知魔法は範囲設置型の魔法。せいぜい四級下位魔法程度の能力。一定範囲に人がいるかいないかぐらいしかわかりませんよ」


 グウルがそう説明するとシディルが大声でカラスう、と驚きの声をあげる。そのまま俺の肩を揺さぶり説明を求めて来るが、俺は一旦シディルを落ち着かせて今までの経緯を説明する。


「お、お前この国の人間どころか、この世界の人間でもないって……」

「まあ、そういう事! とにかく、安全だってわかったしお前の言ってた図書館ってのに行こう! 俺も気になることが山ほどある!」


 するとシディルは少し困惑しながらも俺とグウルに道案内を始めた。

 もうちょっとちゃんと説明した方がよかったかな? まあどっちにしろ早く知りたい! この世界を!――――


 周囲に気を配りながら、少し走って俺たちはシディルの言っていた図書館に着いた。

 マルヒート中央図書館。その名の通りこのマルヒートという国の中央首都に位置し、国内最大級の蔵書数を誇る。ここならば謎の声や光についての手がかりが見つかるかもしれない。

 ということで、図書館に入り本を漁ることとなった。


 図書館内部……


「あそうだ、グウルは外へ出とけよ、騒ぎになるから」

「なんですかカア! 私はペットですカア!? ハイハイ、わかりましたよ!」

「そんなに怒んなって」

「なあルシフ、手分けして探さないか? その方が効率いいだろ?」


 シディルの言葉に同意して俺たちは別れた。ふうと一つため息をつき、辺りを見渡す。


 ……本本本本本本本!! 多すぎだろお!!

 いや、図書館ってこんなもんなのか?一回も自分で行ったことねえからわからん!!


「この中から特定の現象に関することを書いた本を見つけるって、無理だろ」


 基本魔法指南、マルヒート王国史、魔獣図鑑、アレグリア語分解書……。色々気になるけどそれらしい記述はない。早く手がかりだけでも見つけたいな、灯台下暗しといえども建物の中に兵士たちが入ってこないとも限らないし……。いやあ、でもやっぱきついよなあ、こんだけある中から……、


 トスッ。


 そう考えていると突然俺の視界の端で本が落ちた。神解教、という名前の本を片手に持ちつつ俺はその落ちた本に駆け寄る。するとそこには、


「英雄紋の歴史?」


 と題された表紙があった。少し気になり中を見始める。


「『人類の歴史の中で英雄、偉人といわれる人物は皆、身体のどこかに不思議な紋様が刻まれている。その印は英雄紋と言われ、世界を変革するものに現れるのだ。現れる場所も時期も不確定ではあるが、歴史に名を残すものたちの多くはこの紋を持っていた。この本ではこの文様について読み解いていこうと思う。……』か。」


 これは……急展開!! いくらなんでも都合良すぎじゃあねえか? なんだ、神の導きか? まあ嬉しいけど……

 それにしても英雄紋かー。これで一つ疑問は晴れたな。あとはあの声と謎の光だな……。光は紋様と関係してそうだけどあの声は一体?

 俺がその本を読みつつ考え込んでいると少し離れたところから小さな声をあげてシディルが近寄って来る。


「おい! これ見ろよ、すげえぞ!」

「なんかあったか!?」

「これ! 俺のことが新聞に載ってるぞ! ほら、『首都内で甚大なる被害を及ぼした盗賊を逮捕』だってよ!」


 がくっ!!


「真面目に探してくれよ!」


 つい大声を出す。慌てて口を塞ぐが、周りからかなり視線を感じる。目立ちたくはないので俺たちは図書館内の隅に移動した。


「でもすごくね? 俺?」

「ああ、ああ、すごいよ」

「いやあ、俺ももうこんな有名人かあ。しかし、新聞なんて読んだことなかったけど面白えな! ほら!」


 シディルはそう言うと新聞を開いて俺の目の前に持ってくる。俺はすぐに押し返そうとしたがある記事が目に止まった。


『魔王討伐後一ヶ月経過、魔獣発生も安定化』


 魔王?

 疑問に思ってシディルに問いかける。


「え? ああ、この記事か? よくは知らないけど北東のテラオスクラって言う大陸ですんげえ強い悪魔が生まれたらしくてな。俺が生まれる前からだから結構経つんだけどさ。そんで討伐隊を編成してその悪魔を倒したらしいんだ。まあ興味ないからあんまり知らねえけど」


 魔王って、ますますRPGだな……。

 俺は気になって少しその記事を読んでみた。その記事の中にはさまざまな記述があった。討伐隊、俗に勇者軍と呼んでいるらしいが。その勇者たちの紹介や魔王の詳細など……。そんな中、ある内容が俺の目に飛び込んでくる。魔王の容姿だ。漆黒の服を身に纏い、それとは対照的に髪は白く瞳は血塗られたような赤色だったらしい。


 いや、ちょっと待て、ちょっと待てって……。あれ? これ……俺みたいじゃね? 


 いやいやいやいや!! そんなわけねえって。たまたま似てるだけだろ。こんな世界だ! 髪が白くて、目が赤いやつなんていくらでも……

 そう思ってシディルに問いかける。


「いや、髪が白いやつならいないこともないけど髪色と目の色が違うやつは見たことねえなあ」


 まじ、かよ……。違う、それでもおかしい。俺には記憶がある。地球での記憶が。シディルが生まれる前からいるってことは計算が合わない!! でも、この見た目は何かある……。何かのつながりが……。

 気になる、俺が何者なのか、そもそも異世界転生ってなんだ? なんでそんなことが起こる? 俺はなんだ……。

 そうだその大陸だ。そのテラオスクラってとこに行けば何かわかるかも知れねえ。


「なあシディル……、お前、旅とか興味あるか?」

「旅? ああ、確かにいいかもな。ここもそろそろ飽きてきたしな。旅してみてえかも」


 その言葉を聞いて俺は本や新聞を元の場所に戻し、シディルの手を引いて図書館を出た。

 出口にはグウルが待っておりグウルを呼び寄せて俺の考えを伝える。


「俺は、テラオスクラに行く!」

「い、いきなりなんですカア?」

「俺、自分が何者か気になるんだ、異世界転生って聞いたことないんだろ?」


 俺がそう問いかけるとグウルとシディルはうんと頷く。さらに俺が魔王と関係があるかもしれないことを伝えると2人は驚きの表情を見せた。

 しばらく2人は黙りこくったがシディルが口を開く。


「ああ、俺はいいぜ! 確かにお前が何者か俺も気になる! それに……」


 あいつらに……。


 シディルがそんなことを言ったのが聞こえた気がした。


「なんて?」

「いや、なんでもね!! お前との旅も楽しそうだしな!」


 シディルは頭の後ろで腕を組みながらそう言った。俺はグウルにももう一度問いかける。


「ええ、私はあなたのナビゲーターですからね。あなたの旅を助けますよ」

「2人とも……ありがとな」


 俺がそう言うと2人は照れ臭そうな仕草を見せた。するとシディルが突然少し小さな本を取り出した。


「ほいこれ」

「なんだ? これ」

「日記、なのかな? さっき図書館であったんだよ。」

「図書館に白紙の日記があったんですカア?」

「ああ、珍しそうだから盗ったんだけどさ。どうせ旅するんなら日記とかつけた方が楽しくね?」

「確かに……。いいなそれ!」


 俺はシディルからその日記を受け取った。

 どうせつけるんなら題名でもつけときたいな……。ううん異世界、冒険、いや探検か? あ、なんかきた。


 異界見聞録。


 よしこれだ! 俺はシディルにペンを借りて日記の表紙にそう書いた。

 こうして俺たちの旅は始まったのだった。

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異界見聞録〜〜転生先の異世界にはどうやら謎が多いようだ 河村大風 @otakky

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