迎合しよう!
「第十四柱の召喚に成功した事に」
宝くじの当選を耳にしたかのような、ざわめきが波打つ中、俺はただ独り青い顔をして立ち尽くす。
「この城の外へ出る事は、私が許さない。どのような手を使っても決して許されない」
能天気に「号令」に従った結果がこれだ。自ら赴くように両足へ「命令」を下した浅薄な頭を盛大に抱えて、後悔をそのまま象りたい気分だったが、一縷の望みをかけて沈黙を決め込んだ。
「さあ、前に出てこい。私の声は届いたんだろう?」
火の付いた鉄板の上に立たされているようである。呼吸は自然に浅くなり、虫も殺さぬような無害な雰囲気を湛えて、気配を絶った。それでも、
「自身の意思で前に出た方がいい。今後の処遇にも繋がる」
あくまでも個人の意思決定を尊重するコイツは、俺を支配下に置くという目算をもとに、選択肢を与える事によって、より強固な侍従関係を結びたいと考えているのだろう。その手にまんまと乗って、踊るような道化を演じるつもりはない。
「そうか……なら、仕方ない」
まるで避け難い事象を起こす一つの決心を今をもって決したかのような語気に俺はおののいた。
「道をあけなさい」
示しを合わせるように人垣が割れて、俺の前に赤い絨毯が敷かれたのを空目した。もう逃れられない。諦観が歩を進ませる。
「……」
揃いも揃って、神妙な顔付きで俺を注視する。彫刻のように目鼻立ちがハッキリした外国人に囲まれれば、日本人の俺は珍妙な生物である事に変わりないし、第十四柱と呼ばれて持て囃されるような機運も感じられないとくれば、もはやこの場に於ける異物そのものだ。そんな周囲の動静から逃れるようにして、視線を真っ直ぐに定める。
一人の男が毅然と立っている。茶褐色の髪を後ろになで上げて、皿のように平な額を出す清潔感に、整えられた顎髭は人としての貫禄を演出している。ローブの隙間から垣間見える碇とよく似た身体の形は、鍛錬に基づいた流線型だと分かる。皆が礼節を弁えて整然と並んだのも無理のない容貌は、初対面であるはずの俺ですら敬意を抱かざるを得ない。
「レラジェ」
男はそう俺に投げかける。
「はい?」
「君の名前はレラジェだ」
尽く人を操作するつもりでいるようだ。男の遠慮会釈ない指図をそのまま、あっけらかんと受け入れるのか?
「顔と名前が不釣り合いだなぁ」
「どういう意味だ?」
男は世にも珍しそうな顔付きで俺をまじまじと見つめた。どの角度から探ろうとしても、混じり気のない黄色人種たる顔をしている。カタカナを並べた名前に合致する風采ではないのだ。
「君がどう受け取るかは問題じゃないんだ。第十四柱のレラジェとして召喚されたのだから」
「第十四柱」、「レラジェ」聞き慣れない呼称を俺に授けて何がしたい。無理解は甚だしく、こんこんと思い詰めれば全てが虚飾めいた。だが、自暴自棄となってなりふり構わず態度に現すと首を括るのと変わらない。ならばいっそ態度は身軽に、いっそ軽佻浮薄でいよう。
「そうですか……なら、それでいいです」
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