第8話 貧民街での生活①
それから僕はコレットが住むという王都のはずれにある貧民街の一角まで案内してもらった。
「ここよ。」
目の前には腐りかけた板張りの小屋がそびえ立っていた。今にも壊れそうな備え付けのドアを彼女はノックする。
「おばさん。ランセットおばさん。私です。コレットです。」
するとドアがゆっくりと開く。
「おや、コレット遅かったね。ええと、そちらの子はどうしたの?」
「紹介します。この子はジョン。記憶喪失なんですって。行く当てもないので、ジョンを住まわせてあげてもいいですか?」
「それは大変ね。わかったわ。好きなだけここにいなさい。私はランセットよ。よろしくね。」
「ジョンです。ありがとうございます。」
「あら、ジョンは礼儀正しいのね。今、いくつなのかしら?」
「すみません。わかりません。このペンダントに書いてある日付がそうなのでしょうか?」
「たぶん。それがジョンの誕生日なのよ。ええと、これによると、4歳ってことになるわね。ということは私より2歳下ね。」
「4歳。まだ子供じゃない!わかったわ。ジョン、これからは私があなたのお母さんよ。」
「じゃあ、私はお姉ちゃんと思いなさい ジョン。」
「よろしく。ランセットお母さん。コレットお姉ちゃん。」
「「きゃー かわいい」」
それから、僕と彼女たちとの生活が始まった。ランセットさんは本当に僕を息子のように育ててくれた。そんな彼女も重税と過労、栄養失調から2年前に亡くなった。彼女が亡くなった時は本当に悲しかったし、ろくな葬儀もできない自分たちの無力さに苦しんだりもした。僕とコレットは日雇いギルドの仕事をこなしながら二人で力を合わせて生きてきた。僕はコレットを姉のように慕っていたが、成長するにつれ、異性として意識するようになった。年月は過ぎ、僕は15歳、コレットは17歳になっていた。
「じゃあ、行ってくるよ。コレット。」
「ええ。行ってらっしゃい ジョン。 そ・れ・と ! コレットじゃなくて、 お・ね・え・ちゃ・ん でしょ!」
「いつまでも子ども扱いしないでよ。僕はもう15歳なんだよ。」
「恥ずかしがらなくてもいいのよ。あなたはいつまでも私のかわいいジョンなんだから。」
「・・・こっちの気も知らないで。」
「ん?今、何か言った?」
「何でもない。行ってきます!」
そう言って恥ずかしさを紛らわせるように僕は家を出ようとする。
「待って!」
「・・・・・・・!」
「今日は母さんの命日よ。お互い仕事から帰ったら、いつもの場所集合ね。」
「そうだね。もう2年もたつのか。」
僕たちは母さんが亡くなってから、命日の墓参りを欠かさない。それはろくな親孝行もできなかった僕たちのせめてもの気持ちだった。立派な墓も立てられなかった僕たちは、町のはずれの山に母さんの墓を建てた。川で拾った石や伐採した木で作った簡易な墓だ。僕たちはこの時期になると、お互いの仕事が終わった後に町で供え物を買って、母さんに会いに行っていた。
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