第4話 予言の子 ジョン

 大陸歴1770年。モンドと呼ばれる地球とは異なる異世界には6つの大陸が存在した。その地形は地球のそれと全く同じであった。


地球でいうユーラシア大陸がモンドでいうウェストイースト大陸という。


 この大陸の西方には古より多くの遊牧民が生活していた。その遊牧民を統一したカルロ大帝はフランコ大帝国を建国した。カルロには息子が3人いた。


カルロの死後はその息子たちによる後継者争いがおこり、会議の結果、カルロのフランコ大帝国は3分割された。そうしてできたうちの一つがフランツ王国である。


そのフランツ王国が建国されてから1000年近くの時が経過した。遊牧民の末裔の彼ら王族や貴族もいまや先祖の苦労を忘れ、弱き民や奴隷から税や労働を搾取する日々。


そんな中で彼ら王侯貴族たちは飲み、喰らい、寝る。屋敷には華美な装飾と無駄の限りを尽くした服の数々。貴婦人たちの間では一度着た服はもう着ない者もいるほど。


 一方、貧民や奴隷はフランツ王国の人口の8割を構成し、彼らの屍と涙の上に王侯貴族の生活はなりたっていた。


町には秘密警察が闊歩し、治安維持と称する言論弾圧を行う。民たちは考える暇もなく搾取されるしかなかった。それが民としての人生だと皆信じて疑わなかったのだ。


それもそのはず、フランツ王国を始めとする西方諸王国には王権神授説と呼ばれる思想が根付いていたためだ。


王権神授説…それは国王が神の子として君臨するという王政を神格化した思想のことである。


そんな時代にとある片田舎の男爵家に一人の男の子が誕生した。


「ジャック様、イヴォンヌ様。おめでとうございます。男の子様です。」


出産に立ち会った産婆が一組の夫婦に語り掛ける。

 

「うむ。よくやったぞ。イヴォンヌ。」

 

「はい。ありがとうございます。旦那様によく似たお子です。どうかこの子に名前を付けてやってください。」


「そうだな。ジョンというのはどうだ。」


「それはどのような由来がおありで?」


「剣聖として名をはせた我が祖父の名だ。この子にも祖父のようにこの王国で陛下のお役に立てる立派な騎士になってもらいたい。」

 

 その時からジョンの物語が始まった。ジョンの生まれたレンツィオ家はもともとは農夫の3男にすぎなかった初代が兵士として武功を上げ、一代で準男爵にまで成り上がったことに由来する。レンツィオ準男爵は伯爵令嬢と縁を結び、息子の代には男爵となった。


そして、時がたちジョンの父のジャック・レンツィオは4代目当主にあたる。レンツィオ夫妻は自身の息子を大いにかわいがり、ジョンは恵まれた環境で元気に育った。


それから4年の月日が経過した。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 4歳になった僕はいつものように外に出ようとしたときに、メイド長に声をかけられた。


「まあ、今日もジョン坊ちゃまはエリー様と剣の訓練ですか?」


「うん。ぼくも姉さまに勝って、早く立派な騎士になるんだ。」


「まあ、それはご立派な心掛けですね。お怪我だけは気を付けてくださいね。この前も稽古に夢中になって、倒れてしまったのですから。」


「大丈夫よ。メイド長。このエリーが付いているわ。そんな無茶なことは弟には決してさせないわ。」


「そうだよ。姉さまと一緒だから心配いらないよ。」


「わかりました。あと少しで日が暮れます。どうか暗くなる前にはお戻りくださいね。」


「「はーい」」


―――――――――――――


「さて、ジョン。今日は基本の型を教えるわ。」


「はい。わかりました。」


「まず、昨日教えた抜刀をしてみなさい。」


「はい。姉さま。」


そうして僕はサーベルをさやから抜き放ち、正面の姉に剣を構える。


「まだまだね。でもしっかりと上達しているわ。今日教える技はこの抜刀が要になるわ。抜くと同時に相手を斬る技。それは抜刀術と言われているわ。まず、私から手本を見せるわね。」


そう言うと姉さまは納刀のうとうしている状態から鯉口こいくちを切り、つかに手をかけた刹那ひとつの斬撃が目の前のたわらを両断した。   


ドサ!


そんな音が聞こえたのは姉さまが納刀のうとうし終えた時であった。

それから僕も見様見真似で技を練習した。


そうして気が付けば、かなりの時間がたっていたようだ。


「そろそろ屋敷に戻らないとね。また、母様やメイド長に叱られるわ。」


「そうですね。もうすぐ日も暮れます。続きはまた明日お願いします。」


「もちろんよ。」


そして、僕たちは帰路についた。

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