第4話 生活魔法ゲット

だって、風呂も洗濯も生活魔法の実践テストに使えるもん。


これで、他に利用者がいたら、好きな時間に勝手に魔力行使して見つかったり、うっかり風呂のシャワーに熱湯を出してしまって惨事が発生する可能性があったが、その心配はない。

アンナさんは、使用人の風上にも置けない不良使用人だったが、この際便利だった。


私は魔力なしの申請を出しているので、魔法学の授業には参加できない。


だが、魔法力の授業には毎回大勢見物人が出る。


魔力のない人間には、面白い見ものなのだ。そのうち、飽きて、誰も見にこなくなるそうだけど。


だが、見物人が多いのは、誠に好都合だった。一人だけ、見学していたら、また何か言われると思う。平民だから。

だけど、大人気の魔法の授業を、遠くから首を長くして見ている平民の娘は、魔力がないくせに気の毒ね、なんて嘲笑されることはあっても、みせびらかしたいのか別に追い払われない。


問い。見学と授業のどこが違うのか。


答え。違いはありません。少なくとも座学には。


ポーション作りや生活魔法の見学者は女生徒が多かった。

女性に向いている魔法だからだろう。

逆に魔剣作りだとか、実際の戦闘魔法の見学には、圧倒的に男子生徒が多かった。


もしかしたら魔剣作りや戦闘にも能力があったかもしれないけれど、アンナさんが職場放棄をしてしまったので、生活魔法は切実だったし、ポーションの方は本来の目的である。


私に魔力はない(ことになっていた)ので、見学しかできない。魔力バレして、どこかの貴族の妾とやらにさせられてしまってはたまらない。だが、見学(受講)だけで十分だった。


それに生活魔法は見学者のほぼ百%が女性だったので、例の平民娘の貴族の子弟狙い疑惑がかからない。

見学に来るのは低位の貴族の娘ばかりだった。そりゃそうだ。高位貴族の娘は侍女か女中に家事なんかやらせればいいんだから。


ポーションはさすがに男女問わず見学者が多く、人気ぶりをうかがわせた。


平民の身の上では、貴族の皆様方を押しのけるわけにはいかず、これはなかなか問題だった。ようやく、授業を受けられるというのは、うちのおばあさまの嘘だったと気がついた。

それはそうだ。そんな細かい内情まで知っているわけないよね。


まずは生活魔法の方は割合簡単に習得できた。

教室で練習しなくても、生活魔法は簡単に実技練習できる。どこの家にも台所やふろはある。寮にもある。


お風呂もお風呂掃除も、水汲みも簡単にクリアできた。アンナさんは魔石を使っていたようだが、私には必要なかった。


魔石使っていいのに、面倒だからってやらないのか。悪役使用人に格下げしようかしら。


洗濯魔法と乾燥魔法も、私には余裕で、更にお湯を沸かす魔法と言うのがあって、これはお風呂以外にも、夜分自室でのんびりする時、お茶を飲むのに便利だった。


更に、全然知らなかったのだが、授業の見学ついでに知った魔法の中に浮遊魔法と言うのがあった。


私はひらめいた。これに秘匿魔法を重ね掛けすると、欲しいものをこっそり持ってくることが出来る。


一言で言うと泥棒魔法である。


なんで授業でこんな魔法を教えるんだろう?


とは思ったが、便利だった。


もっとも、どういう訳か教わっている生徒たちの方は、どちらか一方だけでお手上げ状態の者が多く、いっぺんに使用しようという頭は回っていなかったようだった。


テストの用紙、成績表などと言った重要書類がある部屋には、ガッチリ防護魔法が掛けられていた。

だが、厨房にはかかっていなかったのである。

茶葉や砂糖、お菓子くらい、簡単である。


ただし、敵もさるもの、魔法学の先生は有能で、私みたいな素人と違って多分相当に知識が豊富だ。バリバリの貴族で家柄至上主義者が多く、平民がおこがましく魔力を使用しているだなんてバレたら、どうなるかわからない。何かの罪を着せられそう。そして、きっと競売にかけられて、変な貴族に売られちゃうんだ、私。


ヤバい。


念のため、部屋に直送せず、一旦、別の場所に置いて取りに行くことにした。直送したら、犯人の居場所がバレてしまいそうだ。ここですよーって、お知らせしているようなものじゃないかしら。追尾魔法とか過去ログ魔法があるのかないのか知らないけど。


置き場は人が多い貴族の女子寮にして、教室から帰り際に手で持って帰ることにしていた。これで多分足がつかない。それに量はほんのわずかだ。

頼めば食堂で茶葉や砂糖やミルクは分けてもらえる。

問題はお湯がないので、どうしているの?と言う話になる。面倒くさい。それに、同じ平民同士なのに、貴族が多い食堂や寮で働いている連中は、どうして自分が平民の世話をしなくてはいけないのか?と言う意識があるらしい。


私はしょっちゅう貴族寮の裏の、変な物置みたいな箱の中に手を突っ込んで、くすねて来た茶葉と砂糖を持ち帰っていたが、まさか見られていたとは知らなかった。 

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