第3話 校内恋愛事情
たった一人の平民の女子生徒(私)は、最下位のクラスに分類された。
何しろ事情が事情なので、多分、誰も友達なんかできないだろうなと私は思った。平民だし、悪い実例(婚約破棄事件)があったし。
ただ、よくは知らないが、以前、大問題を引き起こした平民の少女は大変な美少女だったそうである。
そこへ行くと、私は自慢ではないが、平凡極まる茶色の髪と茶色の目、目鼻立ちもはっきりせずぼんやりとした顔立ちだった。
「ちっとも、きれいじゃないわよね」
誰かがそう噂するのを聞いた。
ええ、どうせ不美人ですよ。村でだって、一度も美人だなんて言われたことなかったし。
誰も友達になってやろうと言う者はいなかったが、結構、関心の的になっているらしい。また、やらかすんじゃないかって。
これは下手に刺激しない方がよろしい。
私はそう判断した。
大人しく勉強に専念した。
そして、どうして自分が文官試験にあっさり受かったのか、理由を理解した。
要するに、貴族の子女は勉強をしない。
もちろん例の寄付金入学の平民組も混ざっているが、彼らとて、勉強する必要はない連中だ。
ここへは、社交のために来ているらしい。
婚活も活発らしい。授業の中には、男子生徒と合同の場合があるしね。
さらに学校内で、知り合いになるなら、どうやら親同士で縁談をまとめるよりお安くすむ模様。恋愛結婚となると、親は子供の勝手を嫌々認めるだけの立場なので、見栄を張る必要がなくなるらしい。
そのせいで親の方も、実は、こっそり自由恋愛を推奨しているらしい。ただし、条件が合うことが前提だが。公爵家と平民なんか、もってのほかだろう。
そりゃあ
こんなにユルユルな雰囲気じゃあな。
男女が一緒になる食堂や、男女合同の礼儀作法の教室では、それなりに盛り上がっているらしい。
私だけは平民なので、無関係に勉強に専念していた。
だって、他にやることがないでしょう! 他人の恋愛劇場なんか見てたって面白いわけがない。……面白いけど。……結構、面白いな。
だけど、勉学に励んでいると言っても、
遊びまくっているくせに、成績がいい人物って、結局、地頭がいいんだと思う。
私は成績表が張られた食堂で、順位を見上げながら考えた。
三年生の一位は、第二王子のルーカス王子殿下である。
王子か! 見たこともない。多分、一番上のクラスに在籍しているからだろう。
「国務でお忙しいのに、一位だなんて」
第二王子はそこまで忙しくないのでは?
「勉強なさる時間もないと聞いていますわ」
ため息がちに賛美するご令嬢方が数名。
「お優しくて、容姿も端麗。本当にあこがれてしまいますわ」
へえ。
「あなた、でも、そんなこと、おっしゃってはダメよ?」
聞いていた一人が急いで周りに目を走らせた。
おっ。平民が聞いていて、ターゲット物件にしてはダメだから、早速用心を……ではなかった。
「ベアトリス様やカザリン様に聞かれたらどうするの?」
回れ右して帰ろうとしていたが、つい聞き耳を立てた。もっとも視線は成績順位表に釘付けのままだ。
だが、彼女たちの方が去って行ってしまった。わずかに婚約者候補とか言う言葉が聞き取れただけだ。きっとルーカス王子様の婚約の話なのね。きっとお家柄が、とか相手をおとしめる、とかやってるんでしょうね! 面白そうだけど、怖そう。関係なくて、よーかった。でも、応援はさせてもらいますよ? 面白い方のね。
視線を戻すと、次点は、公爵家の令息、以下伯爵家の令息、たまに女子生徒が混ざり、さすがにポチポチ平民男子の名前も上位クラスに食い込んでいた。
ちなみに私は二十位だった。
強いて言えば優秀に分類されるが、取り立てていう程ではない。
だが、よくやった、私。
平民の特待生として問題なく、しかもできるだけ下の順位。
平民なんかに時間を取られるのを嫌がる例の山羊髭の担任の先生に時間を割いてもらって、どこまでが許容範囲か聞いたのだ。
特待生のくせにバカなのかと、あからさまに軽蔑の表情を浮かべた先生は、「最低でも二十位くらいには入っていてもらわないと」とのたまった。
もちろん、一位だなんて取れるはずがないけど、闇雲に好成績は問題だと思う。
だって、平民だから。平民なんかに、一位乗っ取られたら、プライドの高い貴族の皆様はどう考えるかしら?
この通り、私には立派な平民根性が染み付いているのだ。
しかし、特待生の成績が悪いのは、問題だろう。何のためにお金を出してやっているのかと言われるのは目に見えている。
慎重に考慮を重ねた二十位。
過去問とかいろいろ検討しないと、狙ってこの順位は取れない。
心晴れ晴れと、私は黙ってその場を去った。
二十位! 素晴らしい!
この学校に来てから、一月ほどが過ぎようとしているけれど、私は誰とも話したことがない。(山羊髭の担任の先生を除く)
もちろん、食堂を利用しているので注文の時には声を出すし、アンナさんに文句を言われた時はすみませんとかあやまるけど、先生は絶対に私に当てないし、何かの注意もしない。
私が模範生だからではなくて、出来れば無視したいからだ。
おかげで、ある意味、居心地は良かったが、やっぱりちょっと陰気な気分だった。
クラスの中は、もはや慣れたもので、私なんかいないも同然の扱いになった。
みんな、好き放題にやっている。
そもそも、学校なので、そこまで派手な格好は自粛しているが、女子生徒はやはり華やかなファッションが多い。
男子生徒も、まさか、赤や黄色を着てくる生徒はいなかったが、飾りの銀の紐やボタン、靴の留め金に高価なものを使うとか、袖口にちらっとレースを見せるとか、なかなかおしゃれだった。
見る分には楽しいが、参加するとなると相当お金がかかる。
目は肥やしてもらったが、私は平民。参加する必要もなければ、参加しようものなら、おそらくこの身の程知らずと叱られるだろう。少なくとも、あの山羊髭に。
いえいえ、参加しないですんで、本当に気楽ですわ。
いっつも同じ濃い灰色の服。地味で目立たない。濃緑色とかの方がこの茶色の髪には似合うと思うんだけど、ないものは仕方ない。
そしてお年頃の貴族の皆様の恋バナ。
私は教室の机くらいにしか認識されていないので、内緒話を漏れ聞くことがある。
おおお。
結構、修羅場が形成されているではありませんか。
大変ですね、みなさん。現実は小説より奇なりとか言いますけど、本当ですねっ。
アドバイスや感想をぜひとも言いたくなるが、絶対関わらないようにしなくっちゃ。山羊髭にも念を押されているしな。
ちょっと残念ではあった。何しろ、村に住んでいたころには、アドバイザーとしての地位を確立していましたからね。もっぱら聞き役に徹していましたけど。
ただ、聞き役が聞き役として機能するのは、相槌を打つからである。
相槌を打たない聞き役なんて、ただのモノである。何の値打ちもない。
とは言え、ややこしい人間関係は、観察するだけに留める方がよさそうだ。
村人の噂は、聞き流しても大事には至らない。何しろ、みんな金がないから。
だけど、貴族の結婚は大量の金が動くらしい。金ぐらいならいいが、領地だとか、先祖代々の恨みつらみなんかも結構引きずっているらしい。くわばらくわばら。
黙って、文房具を片付け、私は寮に引き上げた。
何しろ、自分の分だけとは言え、洗濯やふろの準備はやらなくてはならない。本来、どうも、アンナさんがやる仕事らしいのだが、入寮者は一人だけなんだから自分でやってと投げられてしまった。職務怠慢だ。
だが、ここで、生活魔法の授業が役に立った。
入寮者が一人だけだったのは、もはや神に感謝したいレベルだった。
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