・第9集【超人と人との分断~組織の陰謀が対立と戦乱の時代を生んだ~】

 ベトナム戦争への日本正義の味方の投入要求、在日米軍に加え在日人類防衛軍HDF基地の増設による基地として接収される土地と供出させられる予算の倍増、加えて常に米ソが互いに言い合っていたように、在日人類防衛軍HDFが東西陣営の軍事費に流用されているのではないかという疑惑。


 それはそもそも米軍の不始末から始まった破壊怪獣ガグラ出現以来怪獣災害の最前線の一つであり、東側勢力による粗製巨大超人の濫用と低脅威度怪獣の乱獲によるハイパーマン・ネガによる人類側隊怪獣防衛行動の妨害、これまでの怪獣とは行動パターンの違う、後に組織本部ソサエティ・アクシズの戦力と判明するまでどちらも正体不明、目的不明のテロ兵器として駆動する機械仕掛けの怪獣である械獣カイジュウ、けばけばしく異常な色や目や口に変わる正体不明の無機質な器官、全身に埋め込まれた兵器、腕と頭の転倒など生物として成立する筈のない程の異形、周囲の物理法則を歪める程の異常能力から終末論的な脅威として恐れられた改獣カイジュウの出現などと併せ様々な議論を呼びました。


(フィリピンを襲う騎士と毒蛾が合体したような姿の械獣カイジュウ、富士裾野の人類防衛軍HDF研究所を襲う髑髏の頭を持つ双頭竜の姿をした械獣カイジュウ、東欧を蹂躙する病んだ赤色に世界を塗り替え幽霊のように生命を非物質化させていく両目から角を生やし口のあるべき所に呪術的紋様を刻み四肢と尾全ての末端が武器と化した狂える武神・獣神めいた姿の改獣カイジュウ、ケープ・カナベラルを破壊する黒くのっぺりとした古墳が立ち上がったようなシルエットの宇宙船とも宇宙怪獣ともつかない改獣カイジュウ、ドミニカに出現した多数の色と生物の形がまるでソフビ人形を溶かして混ぜ合わせたように溶け合った全身に備えた発光体の明滅で人間の精神を破壊し狂戦士化させる改獣カイジュウ、ザンビアに出現したあらゆるものを石化させる灰色の石に螺鈿めいて発光体をはめ込んだような肌をした竜と巻貝を融合させたような姿の改獣カイジュウ、アラル海に出現した抽象化した般若面じみた仮面を付けた屍の女神じみた姿のあらゆる生物を脱水乾燥させる未知の病を媒介する改獣カイジュウ、ペルーに出現した生態系を改変し生物を怪獣化する黒い棘と目と角と口が体中に存在する改獣カイジュウ


「人類が防衛されたとして、そこに日本人が存在しないとしたら日本人が人類防衛に参加する意味はあるのか。日本人は奴隷として使い潰されながら奴隷ではないと自己欺瞞と事故冒涜の道の先に歩んで魂を腐らせるのか。魂の死んだ巨大な超人武器庫になって、日本人は存在すると言えるのか」

「人間が人間であるという以外の特徴を空虚とし連帯する時、初めて政治が無意味になり、人類の統一が可能となり、核のボタンを押さなくなる。何故なら、その在り方こそが生命としての人間を、嘗て一つの群れとして無心に獣を追っていた頃の純粋さにするからだ。国家や軍隊や政治思想や人類対人類を戦う超人は夾雑物に過ぎない」


 当時の大学での論争映像での一部抜粋ですが、このように様々な論が戦わされ、日本は再び政治の季節を迎えます。


 正義は一つだと語る者は公正な一つの正義は国家や民族を超越するものと考え正義の味方をヒーローに隷従させようとし、国際法と民主主義を守るべきと語る者はそもそも人間から心や感情をそぎ落とし政治の法則に従って動く真社会性昆虫めいた存在たるべしと言わんばかりに正義の味方を違法と拘束しようとする。日本支部ジャパンブランチとの最終決戦時に横殴りにより正義・悪を問わぬ日本全ての超人の支配を企んだチームファイブの裏で結成されていた秘密組織【黒従事軍】など、政府の中にさえ政治的陰謀が存在しました。


(チームファイブの色とりどりで形も少しづつ異なる装束をアレンジした、完全に同一の形で黒一色の機械鎧人パワードスーツの兵士達。四島事変時の映像)


「人間は自分を家畜小屋に押し込んだ奇形の猿に堕落した。どうせ必ず無くなる命を、生きる理由より優先するようになってしまった。人権以外の神を認めず、心では無く命の為、意味では無く富の為の世界を作った。私達と世界では優先順位と判断基準が違う。故に相容れぬ。だから殺し合う。殺すが、私達を殺す事も認める。共存はしない。だが、だからこそ恨みっこ無しだ。等しく言葉より拳を、権利より剣を選んだ我等は敵同士だが友達だ。私は皆を愛している。お前達、正義の味方も」

組織日本支部長ソサエティ・ジャパンブランチオーダー【バラセンガラス】四島君緒の言葉)


 皮肉にも、政治的左右を問わず悪の側に属する者こそが、全身全霊の勝負を行う好敵手として、正義の味方の存在を尊んでいた。そんな、奇妙な時代でした。


(ハイパーマンと丁々発止の問答をする好敵手であった別星人フェイスト、キジンダーにお前を倒すのは俺だ他の奴の手にはかけさせぬと言い切るブレイダー、侍シシハヤテGに助太刀するエースタイガー、デビライザーに愛を囁く禍藤護憲かとうもりのり、サイオマンを勧誘するベール二世などの当時の光景)


 その結果、英国から人類防衛軍HDFに参加していた万能軍艦SC号が日本の人類防衛軍HDF基地・東京防衛戦線TDLに寄港した時、事件が起きました。


 万能軍艦SC号はかつて火星人と戦った戦艦サンダークラップ号の名を引き継ぐ、空中飛行と潜水能力を有し更にバードオブサンダーと呼ばれる特殊艦載機と多数のミサイル兵器を搭載する艦で、ロイヤルネイビー最後の主力艦と言われた英国の誇りでもあり、英国の超人英雄スパイ、【アルファベット】達の母艦でもありました。


(観艦式において水面がら空へ飛び上がる、極めて洗練された灰色と白を基調に塗装された未来的で翼と一体化した流線型の船体を持つ万能戦艦の姿。ミサイル砲塔や航空機カタパルトは格納式となっている)


 そしてまたベトナム戦争に於いては非公式に米軍に協力し、アメリカの艦隊航空戦力と並んで北爆を行っていました。


 そのSC号が、当時は国際スパイ組織という認識だった闇の怨霊ダークスペクターに対する対策会議の為として補給を行う為に来日していたのですが、これが在日米軍の第七艦隊と共に北ベトナムとの連隊を宣言した日本支部長ジャパンブランチオーダー直属の下位組織アンダーユニット・無音建武隊が有する旧大日本帝国海軍の万能戦艦・高天原に襲撃され撃沈されたのです。


(洗練された流線型でミサイルを主武装としていたが主機関が原子炉の言わば艦船に潜水艦と地面効果翼機を高度にしたような機能を付与したものであるSC号に対し、大和級四番艦を改装した船体だが主機関が高天原ラ・ムー・リアで発掘された反重力炉で揚力と慣性に縛られない機動性を持ち地中潜行も可能な高天原が凄まじい機動性の差で食らいつき、艦首地底潜行衝角でSC号を両断する映像)


「我々はこの万能戦艦高天原を領土とする一個の独立国家として、先に宣戦を布告した。対象は米、英、日本現行体制。その理由は、我々が現行の国際社会体制に同意しないが故、武力を持ってそれと交戦し変更せんとする事を選択した為である。これは先に独立し自主を貫かんとしながら東西両陣営が引き起こす戦火に巻き込まれることに抗い続けるマラヤやインドネシア、大陸に対して自立を守らんとする台湾、そして今正に独立せんとしまた隣国民主カンプチアに対する異常な陰謀に抵抗するベトナムなどの諸国と同様の、手を繋ぎうる願いである。それらと敵対する国家や勢力が我々と同盟を求めるのであれば、我々は我々の基準を持って判断し可否を返答する。これを戯れ言と言うも、国際法違反というも、我々を唯のテロリストと言うもよし。好きにせよ、我々は好きにする。そして、結果はどちらにせよ軍事力が決める事になる。個々の考えの正誤とは無関係だ。故に結果が定まったとしても、定まった結果を認めぬ事もまた自由だ。何人も、己の信じるところを曲げずに己の命より優先する自由はあるのだから」


 対北ベトナム共闘のみならず東南アジアに存在していた旧大日本帝国超人兵士のネットワークを通じそれら諸国と気脈を通じていることを露にし西側陣営によるベトナム戦争と、東側陣営ひいては組織ソサエティによる民主カンプチアへの浸食、その双方と戦う事を宣言した電波ジャックで日本全土に放送された無音建武隊司令官・照都十三てらつ・じゅうぞう中将の宣戦布告演説です。


「この核弾頭は頂いていく! 貴様等アメリカの条約違反を暴く為に、そして、大日本帝国の再興の為に!」

(傾き行く空母カールビンソンの飛行甲板上、搭載されていた核弾頭を担ぎ上げる無音建武隊・真武超鋼殻陸戦隊隊長、賀東進がとう・すすむ少佐)


「今日の為に、昨日まで我々は屈辱を耐えてきた。今、闘って闘って、一つでも多くの敵を倒して死ぬ為の今日が来た。この東南アジアの海は、何もかも懐かしい」

(照都十三大将のものとされる言葉)


(東南アジア諸国を襲う怪獣や械獣カイジュウ改獣カイジュウ・宇宙人・粗製巨大超人を撃退し防衛する万能戦艦高天原の勇姿。当時東南アジア諸国が残した映像。高天原は並みの怪獣や巨大超人なら凌駕する程の性能を持ち、この時代の兵器の中では後に実用化される巨大人型機動兵器と比べても間違い無くトップクラスの戦闘力を持っていた)


 米第七艦隊も空母カールビンソン撃沈など多大な損害を出し、更にその際第七艦隊が非核三原則を無視し多数の核兵器を持ち込んでいた事が暴露され、日米安保に巨大な亀裂が走りました。


 唯でさえこの時期、ベトナム戦争に対する反対運動があれば南北朝鮮間における第三次朝鮮戦争に対してプエブロ号事件とベトナム戦争によってアメリカが介入を見送った事もあれば、ベトナム戦争に派兵される事を厭った何人かの在日米軍所属アメリカン・ヒーロー達が脱走ヴィラン化、日本で暴れ正義の味方と組織日本支部ソサエティジャパンブランチに討伐される事案が多発し、この際に「不殺で捕らえる」アメリカンヒーロー文化と「必殺技を打ち込む」日本正義の味方文化の違いから逮捕して貰える服役すれば戦争に行かずに済むと考えた脱走ヒーローが多数死亡し日米対立が激化し、それに対し日本政府は米政府の主張に従いチームファイブら公的正義の味方に私的正義の味方との敵対を命令、無音建武隊の主張は一定の説得力を持って受け止められました。


 更に人類の進歩と調和を歌う大阪万博もまた、進歩の証として人類が打倒した怪獣や妖怪の剥製を展示した事から日本支部ジャパンブランチの幹部として外郭支局アウターユニット【まつろわぬもの】に出向していた芸術家にして縄文呪術の近い手、岡元太郎おか・げんたろう生機霊合体サイバイオカルトヒトデボンバーの怒りを買い、彼が縄文呪術で生み出した芸術怪獣サンフィロトンに自然破壊・妖怪権弾圧・怪獣乱獲・文明過剰発展抗議運動により破壊される、大坂万博芸術爆発事件が起こります。


「何が進歩だ、何が調和だ。何処も同じ近代化で世界を埋め尽くし異なるものを刈り尽くす進歩と、他人と同じで無くなる事を恐れる調和など死んでしまえ。同じ事を繰り返すこの世界に、べらぼうなものを叩き付けてやる!」

組織日本支部幹部ソサエティ・ジャパンブランチサブオーダーにして【まつろわぬもの】副首領、【ヒトデボンバー】岡元太郎の言葉)


「ゲイ・ジュツ……(ZDOOOM)……ジュ・ジュツ……(DOOOM)……バク・ハツ……(ZDGAAAANN!!)」

(金と黒と白と三つの顔を持つ怪獣が歩み万博パビリオン群を踏み潰す。体内から様々な生物の相を帯びる赤血色の触手を繰り出して軍隊を薙ぎ払う。目が光り、凝視した対象が爆発する)


 正に危機の時代でした。後に改獣カイジュウと呼ばれる正体不明の新しい怪獣の出現や宇宙人の暗躍も激化し、組織ソサエティは巨大獣型機動兵器械獣カイジュウをも運用。巨大超人はそれらにかかりきりとなり、西側諸国は東側の粗製巨大超人に対抗する為スチールキング、ジャンボA9、ビッグメガ、マッハレッド、シタデルZ、ゴールドムーン、ライオンヘッド、ライトニングVといった独逸総統帝国ドイチェスフューラーライヒのルデルG37と同じかつての火星人型機動兵器の人類版、巨大人型機動兵器の開発に狂奔。


(巨大超人に近い灰色で細身の巨大人型機動兵器、赤と白に塗られた同じく細身だが可変能力を持つ巨大人型機動兵器、逆に非常にがっしりとした太い体と古代のファラオじみた頭部を持つ巨大人型機動兵器、紅の装甲を持つ均整の取れた頑丈な体を持つ巨大人型機動兵器、多数の兵器を内蔵し特殊金属の装甲を持つ黒鉄の巨大ロボット兵器、円盤型宇宙船への変形が可能な黄金の角を持つ巨大人型機動兵器、獅子のような頭を持つ巨大人型機動兵器、五機の戦闘機が合体する剣と内蔵火器で武装したカラフルでマッシヴな巨大人型機動兵器。国際博覧会での映像)


 バロンA、デビライザー、ジュエルセブン、キジンダー、サイオマン、プラチナマスク、必殺ザ・バッド、ダブルシャドー、UFOブラザーといった正義の味方達は、多数の外郭組織アウターユニット相手にそれぞれ孤軍奮闘を強いられており、チームファイブやコーアンナインといった政府所属の正義の味方は、時にそういった個別の正義の味方を監視に回らねばならない程混乱した指示を受けていました。


(少年少女が合体し鳥と古代ギリシャ鎧を合わせたような姿の超人に変身する光景。魔法の剣を掲げ悪魔の剣士に変身する少女。額に宝玉を連ねた冠をつけ精神の力を解放する事で古代インドの戦士を思わせる姿に変身する男。赤と青の髪を持つ機械の体を持つ女性の跳躍。超能力の糸で編み上げた繭から蝶を思わせる姿の超人の姿を現す青年。白銀の仮面を被る事で騎士の如き姿となる女性。白黒二色で本来救助活動用のものを戦闘用に改造したソリッドなガンマンを思わせる姿の機械鎧人パワードスーツが名乗りを上げる。自分の影に身を投じる事で光の渦と影を纏った大きな目を持つ姿となる超人。身を翻すUFOを思わせるフルフェイスヘルムと宇宙模様のマントを羽織った超人。それらに相対するチームファイブ、コーアンナイン。とある戦いでの記録)


 この状況こそ矛の会スピアーズの、そして四島君緒の目論見通りの状況でした。


「滅んでも残るものにこそ、本当に残るに値する価値がある。残るに値す祖国はありや……『復活の日』作戦、開始」

組織日本支部幹部ソサエティ・ジャパンブランチサブオーダーにして超人類帝国宰相・日本イロコイ族鉄喰/IRON-KUI族長、【アイアント】小杉右京の言葉)


 黄滅の刃ゴブリンスラッシャーや挑戦連合や曼荼羅団や奪一家といった日本進出を狙う組織ソサエティ支部ブランチ支局アンダーユニットを叩き潰す事で日本国防という自分達の大義を主張し、新左翼や超人類帝国・【まつろわぬもの】等の本来主張的に相容れずまた日本に有害と見切っていた勢力にあえて戦力を与える事で実験材料・世情不安醸成手段として使い潰す事で自分達が望む日本に存在してはならないものとして正義の味方と戦わせ粛清し、その課程を実験として自分達の戦力を整え、また他の組織ソサエティ支部ブランチや正義の味方との戦いを行い自らの力を誇示し、自分達の力こそが日本国を守るに最も有用なのだと示す。


 闘争が戦力を作り、戦力が更なる闘争を作り、それが更なる戦力を必要とさせる。多数の外郭組織アウターユニットや他支部ブランチをまるで別の組織のように見せかけ、善の如く政府に近づき、戦力の供出を提案して内部に入る、組織ソサエティの縮図のような手法による侵略。


 ……その目論見を崩したのは、半ば四島君緒自身が予想していたように、この陰謀の中で発生する、陰謀の存在を見通し抗う程に強い例外たりうる正義の味方でした。


「行くぞマスクドラグーン! お前も、お前が味方する正義が通る道を拳と蹴りで切り開く身なら、法に従うのでは無く、己が流した血で敷く道を貫き通せ!」

組織日本支部長ソサエティ・ジャパンブランチオーダー【バラセンガラス】四島君緒の言葉)

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