第四章 マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン 4
「良夫くん。わたしは怒っている。勿論今回のこれについてだ。前と違って忘れてましたじゃ済ませないよ。印象的に過ぎるし、日付は分かりやすくバレンタインデーと指定されている。おまけにタイミングも図りやすいときた。止めようと思えばいくらでも止められたはずだ」
場所はおなじみ保健室。ベッドの上。ベッドの上で腕組し、憤然とする愛のもっともな言い分に対して俺はひとりごちるように言った。
「こんなこと。起こってないんだよ」
「え?」
保健室の先生は相も変わらず不在。担任でも持っているんだろうか。その為、ベッド周りのカーテンは一部除いて開け放し。窓からは午後の日差しが保健室内を照らしている。とはいえ寒い。校庭の脇に残雪が積み上げられている。この時間帯、校庭を使用しているのは高学年のようだ。寒いだろうに、サッカーをやっていた。中には半袖もいる。
「拓真がバレンタインデーにチョコを貰ったこと自体は起きた。けれど、今回みたいにチョコを食べ、アレルギーを起こし病院に運ばれる、なんてことは起こらなかった」
タイムスリップ。
三十一歳から九歳へ。社会人から小学生へと逆戻り。リターンしてリスタート。
馬鹿みたいな話だが、俺の勘違いじゃなければ実際に自分の身に起こったことなんだ。その証拠にここ一ヶ月の間、俺の知っている通りの経験した通りの出来事が起こっている。歴史をなぞっている。俺が行動を起こしたことによって、そこに差異は生じたものの、差異は行動を起こしたことにより生まれた結果だ。
今回のことも俺が行動を起こしたことによる差異だとも言える、が、今までと違っている。俺というよりむしろ――
「それは、何故?」
端的に愛が訊いた。責めるような雰囲気は一瞬にして引っ込んでいた。
「そっか。元町先生がいたからそんなことする時間がなかったんだ」
気付いたように愛が呟く。俺は眉間を押さえ揉み、当時を思い出すようにした。細かいことまでは出てこなかった。
「いや。そのへんは思い出せない。でも、チョコレートを見た記憶はある……から、朝でなくて時間が前後したのかもしれない。先生がやって来て、授業を終えていなくなって、休み時間になってまた拓真の机に集まる、とかな」
「ふうん。みんな子供だし、そのくらいのことはありそうだね」
自分はみんなとは違って子供じゃないと云わんばかりだ。
「でもそれだったらなんで?」
「絵里が止めたんだ」
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