夢の中へ4

 給食うめー。感動するほどうめー。

 味は全体的に素朴。けれど、子供の舌にはこれくらいでも十分刺激的。海藻サラダ、好きだったなあ。塩っ気が絶妙なんだ。でも、このコッペパンはちょっと頂けないな。端的に言って不味いわ。ああ、このプロセスチーズにくっ付いてる花の絵が載った紙切れ、集めている女子いたなあ。給食の放送、放送委員の痛い自己主張。痛い選曲。給食当番行き帰り。和気あいあいと机くっつけて頂きます。食うの早い奴は速攻で昼休みの校庭、オア体育館。その全てを懐かしいと感じつつ、俺は内心気付いた!

 ――こんなことやってる場合じゃねえ。

 いや、明日も仕事あるし。

 この世界での時間経過がどういうものになっているのかは不明だが、こっちでも進むけど、あっち――元の世界でも時間は進むよ、みたいな無慈悲な世界観? 設定? だったとしたら如何ともし難い。

 言い訳はなんてすればいい?

「文字通り、童心に帰ってました!」

 いいわけあるか。言い訳にもならねえ。

 再びドッジボールに誘ってくる陸たちに断りを入れつつ、元町先生に渾身の演技で「腹が痛いんで、五時間目様子見ていいですか」と告げ、俺は保健室へと向かった。

 五時間目は時間割によると図工で、図工、という言葉に後ろ髪を引かれたものの、決死の思いで振り切った。図工、もう一度してみたいんだよ。してみたくない?

「でも、そんなわけにいかないじゃないか」

 ガラリと扉を開ける。保健室の先生はいない。席を外しているらしい。室内にはベッドが三つ置かれていて、その一つにカーテンが掛かっていた。

 たぶん、寝るのがトリガーだと思うのだ。……そう、思いたい。……そうじゃなかったら次にどうしていいかわからん。

 寝て起きて、ここ、この世界にいたのだけは、はっきりとしているのだ。だったら寝るのが手っ取り早い。この世界で俺がやらなければならない使命でもあるんじゃなければ、だが。

 カーテンをさっと引いた。

 そうして、ベッドに入った。

 瞼を瞑り、五回深呼吸し、ゆっくりと数字を数える。長い人生掛けて編み出した俺の入眠サイクル。即寝れるんだな、これが。十数えた辺りで俺の意識は遠のく。




「違ったか。世界はそう簡単に変わらないんだな。分かっちゃいたんだ」

 天井はさっきと同じままだ。

 体感的に一時間。ちゃんと寝られているはず。

 何となく分かっちゃいたけど、分かりたくなかった。

 帰れない。

「けど、思い出した。やっぱりあの夢か」

 もう一度見たわけじゃない。

 ここに来る前に見たあの夢。あの夢を思い出した。目覚めてからの周囲の状況の変化に今まで綺麗さっぱり頭から抜け落ちていたけれど、寝て起きて、すっきりして、すっかり思い出していた。

 教室内での銃発射。これだ。恐らく、これがトリガーなんだ。

「違うか。トリガーかどうかは分からない。今のところはだが。しかし、何らかの鍵であることは確かだ。それか、使命か。これを未然に防がなきゃならないとか、そういう」

 よくあるだろう。そういうの。

 物語。

 タイムリープ、タイムスリップものの映画や漫画なんかでよくあるじゃないか。

 予め起きようとしている危機を防ぐ、その為に俺は未来からやってきたんだ、そういうさ。

「そうか。つまり、俺は今、トランクスなんだな!」

 国民的漫画のキャラクターを頭に浮かべた。

「が、俺の知ってる限り、過去でそんなこと、起こっていないんだが」

 知ってる限りだが。

 しかし、同級生の小学生が銃ぶっ放していたら、いくら数十年前の出来事でも、俺の頭が自分の思っている以上にぽんこつだったとしても、今日の夢みたいに綺麗さっぱり忘れる、というようなことはないはずなんだが。じゃあ、


「うるさいねえ」


 隣のベッドから、先程聞いた声が聞こえてきた。

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