カルクウエン~絶縁パーク~

こうけん

第一章:縁

第1話 目覚め

<WARNING!>

 この物語は<フィクション>です。

 実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。

 ただし、作中に登場する人物や地域の名称に類図するものは現実に存在する可能性があろうと、<フィクション>として割り切り、現実から切り離してお楽しみください。

 この物語には残酷模写・暴力模写・性模写が含まれています。

 人によっては気分を害する恐れがあります。

 暴力行為が含まれていますが、現実で人に暴力を振るってはいけません。

 武器・劇物製造や罠設置の模写がありますが、現実において無許可製造及び無資格での設置は犯罪行為となり、この物語は犯罪を推奨するものではありません。

 また動物愛護に反する表現が含まれていますが、現実の動物には一切危害は加えられておりません。

 実在の動物が登場します。

 この物語は<フィクション>故、現実の動物と相違ある活動シーンがありますが、実在の動物を冒涜している訳ではございません。

 建造物爆破及び器物破損の表現が含まれていますが、現実での破壊活動を推奨するものではありません。

 家族・恋人・子供・カップルに対して残酷な模写があります。家族持ちには気分を害する恐れがあります。

 この物語があなたに何らかの影響を与えたとしても、作者及び掲載サイトは一切の責任を負いません。


「うっ、うっうう」

 十田陽仁とだはるとは呻き声と共に目を覚ました。

 瞼を開けたはずが瞳に景色は映ることなく薄暗い。

 呼吸も喉に枷をつけられたように重く、圧迫感がある。

 四肢を動かすも辛うじて動かせるのは左人差し指一つ。

 思い出そうとも記憶に靄がかかり何かが思い出せない。

 把握できたのは、規則的な電子音を左耳だけが拾うこと、自分の身体が仰向けになっていることだ。

 背面は柔らかい何かに沈んでいるも鈍った感覚が正確に把握させない。

 ふとガチャリと左耳が右側から何かが開く音を拾う。

 誰かいるのか、呼びかけようと強く締め付けるような激痛が喉に走り、上手く発せられない。

「せ、先生! 先生!」

 女性らしき声は陽仁に駆け寄ることなくきびすを返すような音と共に慌てた声で立ち去っていた。

「んんっ! ううっ!(だ、誰かいないの!)」

 激痛の中、陽仁は呼びかけるも声無き声は届かない。

 間を置かずして急ぎ足の靴音を左耳だけが拾う。

 ここで気づく。右耳が一切聞こえていないことを。

「ご家族に連絡は!」

「はい、目覚めたと既に連絡済みです!」

 男性と女性の慌ただしいやりとり。

 目覚めた、それが何を意味するのか、陽仁には分からなかった。

 何かが陽仁の、右手首に触れる。

 鈍化した感覚がまたしても、それが何か判別させない。

「十田陽仁さん、聞こえますか。ああ、返事は結構です」

「ぐううっうんっ!(ここは! あなたは誰!)」

 左側から男性の声がする。

 声を発したくとも陽仁から発声はされない。

 聞くに耐えない呻き声だ。

「落ち着いてください。私はあなたの担当医です。あなたの喉は炎に焼かれています。幸いにも声を失うことはないですが、無理に声を出そうとすれば症状が悪化します。火傷も酷く、全身の骨が折れており、下手に動かそうとしないでください。鼓膜も破れていますが左側は無事です。ですからゆっくり説明しますのでまずは落ち着いてください」

 炎、と陽仁は身を強ばらせる。

 まさか度重なるいじめに耐えかね、焼身自殺に及んだのか。

 そして失敗し、全身火傷の重篤患者として病院に搬送された。

 全身が動かせないのも説明がつくが、焼身で骨折は矛盾があった。

「いいですか、落ち着いて聞いてください。あなたはトリニティーパークのプレオープンに参加していました」

 トリニティーパーク。

 その名を聞いた瞬間、閉じられた記憶が濁流となって陽仁を飲み込んだ。

 駆け抜ける記憶。

 脱走した動物に襲われる人々。

 記憶にこびりついた血潮と生肉の匂い。

 抵抗しようと、知恵を絞ろうと野生の前に人間は無力であった。

「そしてみなさんから伝言です。みんな無事だと、あなたと一緒に脱出した人たちは全員無事です。もちろんあなたの愛犬たちもです」

 無事の発言は陽仁を落ち着かせるのに十分であった。

(み、みんな、無事……)

 身体が、心が緩み、記憶が蘇る。

 あの時、救助を待つほど余裕はなかった。

 パーク内の敷地は時間と共に少しずつ傾き続け、崩落は時間の問題。

 自力で脱出しようと異常なまでに興奮した動物たちが外を闊歩し、人間を餌と見なして襲いかかる。

 出入り口ゲートから脱出したくとも、環境保護団体と動物愛護団体が徒党と組んで築いたバリケードが待ちかまえ脱出を妨げる。

 安全な部屋に引きこもったまま崩落に巻き込まれるか、死地を突破するか、一か八かの賭けでしかなかった。

 そして、陽仁たちは一人の犠牲を出すことなく賭けに勝った。

 勝ち――生き残った。

(そうだ。思い出してきた、僕は……)

 状況を把握するに連れて陽仁の記憶が再起していく。

 何故、焼身自殺と判断したのか。

 何故、トリニティーパークに行ったのか。

 何故、全身を骨折しているのか。

(ほんの少し前まで死にたがっていた自分が今こうして生きているのを喜ぶなんて……)

 縁とは否も味なものだと自嘲する。

 思い出すのは一年前の記憶。

 死を願うばかり参拝し続けた社。

(縁切り神社で縁切りを願った代価が、これなのか)

 病院のベッドで全身包帯のミイラなのは安易に想像できた。

(だけど……)

 自分が生きていることよりも、共に死地をくぐり抜けた者たちが無事である事実に、心は落ち着いていた。

 その落ち着きはもう一度、陽仁を深い眠りに落とし込む。

「せ、先生……」

「大丈夫だ。バイタルは安定している。皆の安否を聞いて安心したのだろう。ただ眠っているだけだ」

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