サボった後の飯が美味い
学院に戻ると、校門の前で、マリー教員が仁王立ちしていた。
「授業サボって、なにしてたのかなぁ~?」
額には、青筋が立っている。くしゃくしゃの髪が、魔力を帯びて、ぱちぱちと音を立てていた。
どうやら、怒っているようだ。
「散歩」
マリー教員の後ろには、イロナが立っていて、安堵の表情を浮かべていた。どうやら、彼女が、ゼンと遊んでいた俺のことを先生に伝えたらしい。半ば、絡まれるような形だったから、心配だったのだろう。
「ゼンは?」
「
俺は、結構、アイツのことは好きだぞ」
マリー教員は、大きくため息を吐いた。
「あのね、どうやって、ゼンから逃げられたかわからないけど……あの子と関わるのはやめときなさい。
さすがは、アグロシア家と言うべきか、魔術の
「その割には、大分、火力を絞った
「ともかく、先生のいないところで、ゼンには関わらないように。もし、ちょっかいかけられるようなら、直ぐに私のことを呼びなさい。
この後、お説教フルコースするつもりだけど、ああいうタイプのバカはなに言っても言うこと聞かないんだから」
「説教か。取り巻きのふたりは、寮に送り返してしまったが必要なら持ってくるぞ。俺も、説教してやってもいい」
「はいはい、ありがとありがと。ともかく、無事でなによりよ。アグロシア家に手を出すと、後々、面倒だったから穏便に片付けてくれて助かった」
頭を撫でられる。
まぁ、優秀な教師として、どうにかするだろう。
俺は、教員から、イロナへと目線を移す。彼女は、慌てて、俺から目を逸らした。
「き、きみを置いて逃げたのは悪かったけど……し、仕方ないじゃん……あ、アイツ、ヤバいし……そ、それに、元々、きみが勝手に……」
「なにを言ってるかわからんが、あの公園は良い場所だな。散歩には最適だ。世界には、ああいった場所もあるのか。
世界からは、学ぶべきことがたくさんある。
「残念だけど、授業は、とっくの昔に終わっちゃったわよ~。グールとラインが、心配してたから声かけてあげなさい」
「えっ」
「あと、ラウ君は、後でイロナと一緒にお説教。イロナをひとりにさせておけないって、君の優しい心は理解するけど、授業中に校外に出るのは校則違反。然るべき処置を加えるのは当然です。
まぁ、まんまと、校外に出るのを見過ごした私も校長に怒られんだけど」
がっくりと、肩を落としたマリー教員に微笑みかける。
「あまり、気を落とすな。大丈夫だ。世界には、
「テクニカルな慰めの言葉をありがとう」
少々のお小言の後に、マリー教員に解放される。その間に、イロナは、そそくさと立ち去っていた。
日は暮れて、夕食時。
本日の授業は、すべて、終わってしまっていた。香ばしい匂いが立ち込め、生徒たちが、食堂へと入っていく光景が目に入る。匂いに釣られるようにして、俺も、食堂へと向かうことにした。
俺が入った食堂は、なぜか朝の時とは、様相が異なっていた。
天井には綺羅びやかな
謎の食堂は、三階建てになっていた。
どうせなら、眺めの良いところで食うかと、三階まで上がっていく。
階段には、赤色のカーペットがかけられていて、高級感が漂っていた。金色の手すりは、ツルツルに磨き上げられていて、穏やかな音楽が流れる広間には絵画がかけられている。
三階は、無人だった。
奥には、テラスがあって、ひとつのテーブルが置かれている。あそこで食べれば、なかなかに気分が良さそうだ。
「ん?」
テラス席に腰掛けると、見慣れない少女に見つめられる。
足下にまで伸びている長髪。右と左の袖口からは、金鎖が伸び出ていた。緋色の
視たことのない制服だ。
「やぁ、少年。こんなところに迷い込んでどうした?」
いつの間にか、周囲が静まり返っている。誰もが食事を止めて、こちらを注視していた。彼女の一挙手一投足に見惚れているのか、惹きつけられているのか、怯えているのか。
周囲を観察してみれば、彼女の周りには俺以外、誰も座っていなかった。
「ふふん、なんだ、オレが怖くないのか。よくよく視れば、カワイイ顔をしてる」
前髪を掻き分けられて、顔を見つめられる。
「いや、お前の方が、カワイイ顔をしてると思うが」
彼女は、ぽかんとして――大笑いした。
「ありがとう。その物言いには、一瞬の快感を覚えるな。なかなか、貴様は、見所のある男だ。
どうだ、一緒に食事でも? ここの食事は、他の食堂とは一味違うぞ」
「最初から、ココで食うつもりだが」
再度、少女は、笑い声を上げる。組んでいた両足を下ろしてから、ワイングラスに入っていた赤色の飲み物を煽った。
「あーっ!!」
大声。
振り向くと、緋色の制服を着た少女が、こちらを指差していた。
彼女の背中からは、
「ベーちゃんが、新入生の男の子、
「いちいち、うるさいのが来たな……失せろ、爬虫類もどき。今宵のオレは、興が乗じて気分が良いんだ。貴様の
「ベーちゃんが、新入生の男の子とスケベしてるーっ!! この人、顔からして、間違いなくスケベでーっす!!」
「殺すぞ」
蝙蝠少女は、テラスから、乗り出して叫んだ。満足気に微笑み、俺の横にやって来て、椅子に腰掛ける。
当然のように、彼女は、俺の腕を組んで自身の胸元へと引き寄せた。
「ね? 新入生くん、キスしてもいい? おけ?」
そして、彼女は、俺へと口を寄せてきて――鎖少女の手で、顔面を掴まれ、押しのけられる。
「新入生相手にやめろ、爬虫類もどき」
「えーっ、だって、わたし、この子、欲しーんだもん!! なんか、レア物の香りするんだよねーっ!! 顔、カワイイしー!! ほしーほしーほしーっ!!」
「チッ」
舌打ちの音がして、俺の前の席に、ひとりの少女が腰掛ける。
緋色の制服。女神像かと見紛う程の美しさ、両耳の先端が尖っている。白みを帯びた金色の髪の毛が、肩にかかっていた。切れ長の両目は、黄金のように光り輝き、あたかも宝石のようだ。
腕を組んで足も組んだ彼女は、吐き捨てるように言った。
「なぜ、この私が、下賤な劣等種どもと食事を共にしなければならないのですか。
それに、そこのゴミはなんですか? 食事時なのだから、とっとと片付けてください」
「オレが拾った」
「いや、わたしのだから~!!」
俺は、わいわい騒いでいる女子連中を横目に、
「……コレ、大きすぎるぞ」
「いや、取り分けるに決まってるだろう」
「よくわからんが。ひとりで、食事が出来んからな」
「えーっ!? なにそれ、どういうキャラー!? なに、カワイイんだけど、キュン死にしそーっ!!」
「チッ」
蝙蝠少女は、歓声を上げながら、切り分けた鳥の丸焼きを俺の口元に運ぶ。食いつくと、色めき立った声が上がった。
「なにこの生物、ちょーカワイイんだけどぉ!!」
「バカ、退け。それは、オレのだ」
両脇から、口に、料理を突っ込まれる。
「今日は、男連中はどうしたんですか?」
「知らん。オレの興味の範囲外だ」
散々に、餌付けされた俺は、満腹になったので立ち上がる。
「帰る」
「えーっ!? もうちょっと、一緒にいよーよー!? この後、わたしの部屋来る~? めちゃくちゃ、良いことしてあげるよ~?」
「眠いからいい」
見送られた俺は、その場を後にして――唖然としているフロンと出くわした。
「き、キミ……どこにも居ないと思ったら……」
彼女は、その場で、へなへなと崩れ落ちる。
「なんてことしてんの……」
「すまん、そんなに鳥の丸焼きが好きだったか?
今から、もらって来――」
首根っこを掴まれた俺は、ずるずるとフロンに引きずられていった。
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