詠唱と魔法陣
「てか、きみ、なに?」
手遅れ娘と並んで、体育座り。ふわりとした、金色のショートヘアをもった彼女は、爪を
「誰が?」
「だから、きみだってば」
各グループごとに座ったE・D・Cの生徒たちは、魔術の説明を始めたマリー教員を注視している。上着を肩にかけたマリー教員は、指をぐるんぐるん回しながら、魔術構築について説明していた。
「このひとつ前の授業で、リエナ先生に説明されたと思うけど、この世界の事物はすべて
で、この
「ラウだ、よろしくな。最近、
我ながら偉いな」
「いや、意味わかんないから。さっきから、何語、しゃべってんの?」
「ぐぉらぁ、そこのふたり、私語は慎め~! 首をねじり切るぞ~!」
びしりと、マリー教員は、隣の手遅れ娘を指差す。
「んじゃあ、イロナ!
手遅れ娘(名前は、イロナと言うらしい)は、ぼそりと応える。
「術式」
「そのとおり。
例えば、この
マリー教員は、0.3秒程度で
「
マリー教員の手の中で、
「ありとあらゆる情報が、混在しています。しかも、ココまでが、ただの生成。ココから成形、射出とプロセスを踏む度に情報量は倍増していっちゃう」
指に灯した
「魔術と言うのは、魔物、幻獣、異形への対抗手段のひとつとして、とある人間が考案した戦闘技術です。射出までの各プロセスをいちいち考えてたら、
なので、大抵の魔術師は、脳内で
ぺらぺらと、マリー教員は続ける。
「リエナ先生なんかは、その逆で、各プロセスごとに細かく
はい、では、ラインくん」
指されたウェルズベルト公爵家の長男、ライン・フォン・ウェルズベルトは、自信満々で両腕を組んだまま立ち上がった。
「これらの術式は、使い慣れないうちは、脳内で
なので、古来の魔術師は、誰でも簡単に魔術を発動する手段を生み出しました。それは、一体、なんでしょうか?」
「詠唱と魔法陣だ! 間違いない!!」
「はい、正解
『来たれ、
先生は、
「『
ズォッ――急速に手の内で、収縮した火球は、あたかも
直撃! 爆発、爆炎、爆音!
突っ立っていた
「今のが、詠唱。
「フハハ、だが、デメリットはあるぞ! 速度は速いが、細かい術式を付与することが出来ん!! それに、相手に読まれやすい!」
「その通り。
敵対対象が魔物から人に変わった戦争の時代、魔術師たちは、詠唱によってどの魔術を発動するか読まれることを嫌った。
なので――」
無音――マリー教員の手首に、円形の六芒星が巻き付き――練り上げられた
「事前に、
理論上、どれだけ細かい
「ただ、魔法陣の構築は、かなり難しい。大抵は、魔術師が次代の魔術師へと継いでいき、複数世代を経て完成させるような代物だ。
有力な貴族以外、魔法陣を持つ者はいないだろうな」
「まぁ、リエナ先生とか、頭おかしいヤツは、一世代で複数の魔法陣をもってたりするけどね……はい、では、面倒な座学はコレでおしまい。これから、皆さんには、
それじゃあ、みんな、グループに分かれて!」
俺は、立ち上がって――すたすたと、どこかへと、歩いていく
「付いて来ないでくれる?」
「でも、お前がいないと、魔術の練習が出来ない。困る」
「勝手に困ってれば? 私はサボるから。魔術なんて、やってられないし」
俺は、マリー教員の方を振り返る。
「ちょっとちょっとちょっとぉ!? なにをどうしたら、初撃で、練習相手を
「フハハッ! すまんッ!!」
「…………」
当然のように、イロナは、学院の壁を超えて学外へと出た。
「……練習相手、いないしなぁ」
俺は、跳躍し――彼女を追いかけた。
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