地へと堕ちた天使
「情なんて持ったら駄目なんだ」
「……」
「俺なんてここに来なければ」
「黙れ」
俺はため息をつくと声のする方を向いた。
そこには汚れたスーツを着ている一人の人間。その背中には大きな翼が生えていた。だがその翼は灰色。
「お前、なぜ俺を殺さなかった?」
「……」
「どうして俺を殺そうとしてこなかった?」
「……」
「なんでその翼を初めから見せなかった」
「黙れっ!!」
そういうと彼は一瞬で姿を消す。
俺が正面を見るとそこにはベッドに座った彼がいた。
流石の俺も認めざるを得ない。これが現実だと。
「いくら天使でも口は一つしかないの……分かってる?」
そう口ずさんだ彼の目元は普段の彼からは想像もできないものを垂らしている。
唇も細かく震えており一瞬で状況を理解する。
「分かる?俺の翼、白くない」
「あぁ」
「俺はもう駄目だ……」
「……堕天使ってやつか」
「そういうこと」
堕天使は笑った表情をすると小さくため息をついた。だがそのため息でさえもまともではない。
堕天使は翼を撫でるとベッドに倒れた。
「なんでなんだろ、これまでの人間は皆一瞬で死んでった」
「……」
「だけど一度も悲しいなんて思えなかった」
「……」
「けどお前は死ななかった。ずっと生きてた」
「……」
「死んでほしくなかった」
「……」
「君が死んだら……悲しいと思ったんだ」
そういってまた堕天使は笑う。
俺は表情を変えずに彼の目から視線を外さない。
「俺、どうなっちゃうんだろ? 神に殺されるのかな? 追放されるのかな?」
「残念だが」
「……」
「お前が職場に戻ることは当分先になるだろうな」
「は……?」
「俺は死なないんだ。そんで死ねない」
「……」
俺はそういうと少しだけ微笑んだ。
堕天使は手で顔を隠した。その行動にどんな感情を抱いているか。分かりたくないが分かってしまう。
その翼の色をこの目で見たから。
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