働き盛りの貧しい君
「すみませーん! サツマイモとカボチャ一つずつお願いしまーす!」
「なんでここまで着いてくるんだよ……」
俺は学校を終えるとそのまま一直線でバイト先まで向かった。
だがなぜかこの自称天使は俺から離れることなく、俺が店に入った瞬間からずっと客として居座っていた。
「あのさ、家あるか知らないけど帰ってくれるか? 営業妨害で訴えるぞ?」
「何言ってんの? 僕ちゃんとお客さんしているじゃん! ほら、早くサツマイモとカボチャ揚げてよ!」
「なんで野菜なんだよ……天ぷら屋なんだからエビ天頼めよ」
「そこはつっこまなくてもいいところだよね!? いやーその歳で友達も誘わずにバイトなんてえらいねー!」
「茶々いれてんじゃねぇよ、ほんと出入り禁止にすんぞ」
「ごめんごめんって!」
そんなことを言いながら自称天使は舞茸の天ぷらを頬張ると頬を抑えながら満足そうな顔をしていた。
俺は気に留めずに淡々と野菜を揚げていく。この時間あたりから徐々に人が増えていく。平日とはいえ忙しくない日は無い。俺は後輩に指示を出しながら野菜たちに目を配った。
なんとなく自称天使に集中が阻害されてしまう。あの存在は何なのだろうか?
確かにおとぎ話や寓話のように『天使』の存在は耳にすることが多くあった。知らない人がいないほどのその言い伝えは本当なのか? だとすれば彼はどうして生きている俺の前に現れたのか。
俺は『神』や『天使』と言った非現実的な存在を肯定したくなければ、信じることは絶対にしたくはない。
だがあんな現実を見せられると現実がどんどんと分からなくなってしまう。
生憎彼の存在を認めなくないがゆえに彼の言葉にはほとんど耳を傾けていない。それどころか相槌すら打つことは無かった。
そのせいで俺は彼に対しての情報がほとんどない。彼と言っているが男なのかも不明だ。
これを現実だと認めるなんて死んでも嫌だが彼は俺が「時期に死ぬ」と言っていた。
死をまじかに「死んでも」なんて言葉は皮肉だ。少しくらい耳を傾けてやろうかと考えていたその時。
「あ、あのー……」
「ん? あぁごめん。ボーっとしてたな」
「大丈夫ですか先輩」
「すまん俺は疲れすぎて幻覚を見てるのかもしれないな」
「え!?」
「冗談だ。そっちの鳥、そろそろ上げてもいい頃合いだろう」
「あ、そうですね!」
そういうと男はてきぱきと手を動かし始めた。そこらのバイトと違って真面目に働いてくれる彼はいい後輩だ。自慢の後輩をもったと鼻が高くなる。
「おーい大丈夫ですかー!?」
「うるさい、店員に気軽に声をかけるやつがいるか」
「まぁまぁ落ち着いて? あ、落ち着きすぎてボーっとするのは駄目だよ?なーんて」
自称天使はそういうと口に手を当てて笑い出した。こいつを見ていると非常に煩わしい気分になる。できることならこいつに油をかけてやりたい。
「てかお前そんなに飯頼むのはいいけどお金あんのかよ」
「心配しないで!僕には『神のご加護』がある」
「おい待てそれ犯罪だろ!? 神とか信じてないけどそれ神に失礼だろ!?」
「せっかく『神のご加護』があるんだから使わないと勿体ないでしょ? 天ぷらがいっぱい……もしかして、君がここで働いてるのって天使と天ぷらをかけた高等ジョーク!?」
「うるせぇ黙って食え」
「天真爛漫な性格でごめんねー!天使だけに」
「はいサツマイモとカボチャでーす」
「先輩それまだ揚がってませんよ!?」
店に入ってから一時間くらいが経過した。そんな俺は今すぐこのうざったい存在を消し飛ばしたい欲で駆られていた。
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