見ず知らずの水入らず
「ねー話くらい聞いてよー!」
「うるさい付いてくるな鬱陶しい」
「そんなこと言わないで!ねー」
学校の廊下。俺は友人に誘われることもなく、淡々と次の授業が行われる教室まで移動していた。
そして俺の横でわちゃわちゃとしている目障りなこいつは自称天使。性別不詳の奇妙な存在。
頭上には何度見ても黄色く光っている輪っかが、頭と一定の距離を保って浮いていた。
「お前さ、どういうつもりなの? てかどうやって俺の部屋に入ってきたわけ?」
「一度に何個も質問しないでよ! いくら天使でも口は一つしかないの」
「やかましい、素直に俺の質問に答えろ。お前はどうやって俺の部屋に入ってきた」
「いい質問だね!」
そういうと自称天使は後ろで手を組むと自慢気な顔で話し出す。
すれ違う人は自称天使と話している俺を気にすることは無かった。驚くほどいつも通りだ。
「僕たち天使はね、『神のご加護』が使えるんだ!」
「『神のご加護」ねぇ」
「あ、今絶対に胡散臭いと思ったでしょ?」
「思ってねぇよ早く話を続けろ」
「ふふん!天使って言うのは神様の使い。つまり神様を社長とすると僕たちは部下ってわけ。その中でも位が低くて人間と接触できる階級が『天使』。分かった?」
「理解したくもねぇな。お前が言うことがほんとならお前は人間じゃないことになるぞ?」
「まぁ僕たちは人間であって人間でないようなもんだし」
「あーもっと意味が分かんね……」
俺は悪態をつくと頭を掻いた。
だが俺の家は鍵がかかってたしこの自称天使も合鍵のようなものは持っていなかった。と言うか手ぶらであった。
頭の輪っかといい今朝のことといい、科学的に証明のできないことがこの三時間ほどで幾度となく目の前で起こっており俺は目覚めから今までずっと機嫌が悪かった。
「ところでお前はなんだ。あれか? その『神のご加護』とやらで姿が見えないようになってるのか?」
「なんで? そんなことないよ?」
「そんなことないの!? え? もしかして俺らが話してる内容」
「全然周りの人聞こえてるし見えてるけど……どうして?」
「こういうのは見えないのが定番じゃないのか……」
俺らの会話の内容は全部聞かれていたようだ。つまりは神がどうやら天使がどうやらと言っている内容が全部筒抜けになっているということで……
また俺の周りから人がいなくなってしまう。俺は前世でどれだけ悪い行いをしてきたというのか。あぁアーメン。ジーザス。
「ん?そうだとしたらお前のその派手な姿はどうして注目されないんだ」
「あぁこれのこと?実はこの天使の輪っかと僕の姿は皆からは違和感のない服装に見えるんだ!」
「そっちだったか……」
「え? なにが?」
どちらにせよ俺らの会話が筒抜けだったのは間違いなさそうだ。
俺は顔を真っ赤にしながら下を向いて、できる限り話さないようにした。
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