第17話 一回生VS二回生

 模擬戦までの二日間、優奈とタクは他のメンバーから二回生の戦法を確認していた。


 まず、サルの精霊であるココミとその契約巫女のキヌについては、今まで参加していないので情報が無いという。

 そしてシロヘビの精霊であるウタと契約巫女、イトのコンビは、強力な幻術を使ってくるらしい。

 結構トラウマになるようなえげつない技で、その時点でハルカは少し怯えているようにも思えた。


 クジャクの精霊であるカリンと契約巫女のエノは、まるで鳥の羽のような小型の刀を一度に複数、連続で飛ばしてくるので厄介だという。

 幻術で目眩ましを行い、その影から手裏剣のように中距離攻撃を行ってくる。

 タクにとっても、なるほど、厄介そうだと思えた。


 そして今回の模擬戦は訓練場ではなく、林の中で行われることになった。

 これは、実際の魔獣との戦いが普通の平地より森林地帯、山岳地帯である場合が多いのでそうした方が良いという二回生の提案らしかった。

 理にかなっているのだが、これは相性的に二回生の方が有利だ。


 一回生は長距離攻撃を得意とするナツミが全力を出せず、また、相手にはサルの精霊もいる。

 能力的に、木に登ったり、そこからの攻撃が考えられる。

 クジャクの精霊巫女も、高く飛び上がることができるということだったので、そのような能力を持つ者がいない一回生はやはり不利だ。


 とはいえ、今まで一人少ない状況で、相手にも同じ人数で対戦をお願いしてきた手前、今回は向こうの要求を飲むのが筋だし、上級生を立てる必要もある。

 なにより、本物の魔獣が相手だった場合、こちらの都合が良い対戦場所まで出てきてくれるはずが無いのだ。

 そのように教官である茜に説得されると、今まで精霊巫女になれなかった優奈は申し訳なさそうにしてしまう。

 それをかばうのが強気なナツミで、そんなこと関係なく一矢報いてやろうとやる気を出す。

 普段大人しいハルカも、竜の精霊であるユキアと共に、今度こそ勝つんだ、と意気込んでいる。

 そんな二人を見て、優奈も、落ち込んではいられない、二人の足を引っ張らないように精一杯頑張りますと宣言した。


 そうは言っても、実戦経験も、実力も二回生が格上で、地の利も向こうが持っており、さらに初参加するサルの精霊巫女の攻撃方法が読めない点が厄介だ。

 なお、今回も攻撃力を五分の一に減らし、生命力が三分の二になった時点でその参加者はリタイアとなるルールだ。

 リタイヤした者が出ると、笛の音でどちらのチームに何人目の脱落者が出たのかが知らされることになっている。

 命までは奪われることない模擬戦とはいえ、全員真剣に取り組んでいるな……と、タクが感心していると、そこにキツネ型の精霊、リンが近寄ってきて告げる。


「二回生、結構本気で一回生を打ちのめしに来るのですよ。模擬戦を甘く見ない方が良いです」


「えっ……そうなのですか? 同じように藩内で魔獣や妖魔を倒す、仲間なのですよね?」


「ええ。でも、同時にライバルでもあるのです。二回生は、さらに上級生からこっぴどくやられているものですし、そうやって強くなっていくという側面もあります。ましてや、今回は一回生が幸運も手伝ったとはいえ、四つ星ランクを討伐しているのです。徹底的にかかってくるでしょうね」


「なるほど……食堂でちょっと挑発的だったのは、そういう理由もあるのですね……ちなみに、リンさんは勝てると思いますか?」


「正直、厳しいとは思いますが、勝算はあると思いますよ。私たちが立てた作戦……シロヘビの幻術に屈すること無く意識を強く持って、乱れ飛ぶクジャクの羽を耐えしのぎ、今まで見たことのないサルの攻撃を躱して反撃することができれば」


「うーん……なかなか厳しそうですね……」


「でも、私たちは妖狐に竜、そしてオオカミなのですよ。潜在能力では決して劣るはずはありません」


 彼女の言葉に、タクは深く頷いた。


 二回生との模擬戦当日。

 まだ早朝だが、この日はよく晴れていた。

 とはいえ、模擬戦の舞台となる林の中は、大小様々な種類の木々が乱立しており、薄暗い。

 しかし、密集しているというほどでは無く、優奈としても長刀でも十分戦えると感じていた。


 ルールとしては、訓練場と同じぐらいの広さ、つまり前世の野球場ぐらいの広さが戦闘地となり、その周囲は三本の目立つ色の縄で囲われている。

 ここを故意に出てしまうと反則負け、その他は通常通り、攻撃力五分の一と設定し、生命力三分の一以上を失う(残り生命力が三分の二以下になる)と自動的に退場となる。

 あとは、降参をしたものも退場となるが、二人退場しても、最後に一人でも残っていたチームが勝ちとなる。


 なお、武装化した精霊巫女が持つ能力以外での攻撃、例えば外部から鉄砲や刀剣を持ち込んでの攻撃も、もちろん反則で退場となる。

 このルールで、まずはお互いのチームが見えない位置、つまり戦闘地の両端に近い位置から模擬戦がスタートされた。

 もちろん、すでに戦闘形態に変化している。


 一回生が取った作戦は、バラバラになるのでは無く、ある程度まとまって行動することだった。

 個々の能力では、特にこの林の中では相手の方が有利だ。

 ハルカの「水流壁」や「氷壁」で攻撃を防ぎ、「氷結」呪法で捕え、ナツミや優奈が攻撃をする。

 単純だが、優奈が加わったことで直接攻撃能力は大きく向上していた。


「濃霧」の呪術は相手に既に知られ、対抗策も練られているとのことなので不意打ちはできない。

 相手の位置さえ掴むことができたら、ハルカの呪力量は決して二回生に劣るものではないとのことだった。


 慎重にに進むこと、約五分。

 すこし開けた場所に出てきて、ここに相手を誘い込むことができたなら、ナツミの矢が効果的に使用できる……小声でそんな話をしているときだった。


 突然目の前に、3メートル以上の鎌首をもたげる大蛇が現れ、全員を飲み込む勢いで巨大な顎を開いたのだ。

 初めて見るタクもパニックに陥りかねないほどのリアルな光景で、ハルカも「ひいいっ!」と悲鳴を上げた。


「騙されるな、幻術だっ!」


 ナツミが叫ぶ。

 とはいえ、今にも食いつかんとばかりに、まずはナツミに対してその上下の牙が迫ってきて、その迫力に一回生全員恐れおののく。

 ナツミはその幻影を精神力で耐え抜き、その奥にいるはずの幻術使い、ウタを弓で狙うことを考えていた。


 と、次の瞬間、優奈がその上下の牙を長刀で弾いた。

 キィィン、という甲高い音が二回響いて、幻影の大蛇から一人の少女が飛び出した。


「へえ、やるじゃない、見破るなんて!」


 楽しそうに笑ってそう声にしたのは、短剣を両手にそれぞれ持つサルの精霊巫女、キヌだった。


「ナツミちゃん、気をつけて! 幻影の牙に見せかけて、本物の刃使いを仕込んでいたわ!」


 優奈の指摘に、ナツミはぞっとしながらも、短く感謝の言葉を伝えた。

 一回生VS二回生の直接戦闘が、本格的に始まった。

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