ミッシングチルドレン
昔から”十人十色”と言う。人はそれぞれ趣味趣向は異なり考え方も違うものだ。
しかし人は誰でも ひとつだけ共通点を持っている。それは、愛されたいという思いだ。”愛されて認められたい”そこだけは誰も変わらない。人は愛によって満たされ 愛によって傷つき 愛によって苦しみ 愛によって狂うのだ。
精神科医で作家の”なだいなだ”氏は その著書の中でこう言っている 全ての精神病は過去の愛の病だと・・つまり過去の愛のトラウマが人の心を蝕むのだと・・
子供の頃に愛に傷ついた人は愛に臆病になり愛を意識しないようになる。そして 失った”愛の穴”を満たしてくれる別のものに執着するのだ。・・そうやって依存症は生まれる・・
愛の代わりに自分の心の穴を満たしてくれるもの・・ それは人によって様々だ。お金や車 ギャンブルや御酒 スマホや追っかけ ペットやストーカーなど 全てが失った愛の寂しさのなせる業なのだと言える。その”愛の抜け穴”がいつ出来たのかは別として・・
性欲と愛は別物だ。風俗やオナニーがそれを証明しているのだが そこを認めない人はセックスを汚いものだと思うようになる。セックスを嫌い 夫の代わりに息子に執着する女の心理は セックスが無くても 十分に気持ちの悪いものだが・・
誰だって心に傷はある 子供の頃に出来た ”心の穴”の無い人はいないだろう・・ その”心の穴”が 何によって満たされているのか。それによって人格は大きく違ってくるのだ。
私の場合はセックスだ。
惚れっぽくって直ぐに寝たがる・・
恋やセックスに癒しを求めている・・
そのつど私はそれを愛だと思っている・・
こういうのを恋愛依存症と言う・・
婚約したのだから・・
彼の為にも何とかしなくては・・
◇ ◇
年間約8万人・・
この数字は日本全国の警察に届けられる行方不明者の数である。1日当たり200件以上の届け出がされている計算だ。
その女の子は夜中にとぼとぼと国道を歩いていたのだ・・車で通りかかった老人が心配して 車を止めて聞きただすと 年齢は12才だと言う まだ小学生だ。話す事がちぐはぐで 心配になった彼は その子を警察に届け 警察でその子に話を聞くと その子は10ヶ月前に失踪した小学生で有る事が解った。それから保護者に連絡が取られ 感激の親子の対面があり それで めでたしめでたし ・・という分けにはいかない・・
彼女はどうして失踪したのか この10か月間どこで何をしていたのか 誰と居たのか調査しなくてはならない。また調査する前に健康状態・精神状態など 病院での検査も必要になる。もし誰かに保護されていたとしても 届け出ずに保護していれば拉致監禁罪に問われるのだ。
◇ ◇
「それでは初めから聞くからね。言いたくない事は話さなくても良いからね・・あなたは容疑者じゃあ無いんだから・・ 無理して答える事は無いんだよ。」
母親はその子の横に座り、硬い表情で下を向いている。
「
彼女は母親を横目でチラッと見て言う。
「親が煩さ過ぎるからです。私の個人的な事にも干渉するし 部屋の中をかってに検査までするし・・」
「なるほどね。それで・・
「クラスの友達の家です。その子は自分の部屋があってそこに3日いたんですけど・・そこに電話が掛って来て・・友達が部屋を探されると言うから・・それでsnsで知り合った人に車で迎えに来てもらったんです。」
「どんなひと?男の人?」
「あの、私が呼んだんですからね。誘拐じゃあ無いですから。」
「でもあなたはまだ小学生なのよ。あなたを連れ去ったら誘拐になるのよ。」
私が説明すると
「それは知ってます。」
その強い言い方に私に対する敵意のようなものを感じる。
「それで これまでどこで暮らしていたの?」
「その男の人のアパートです。」
「そこはどこの街なの? この近く?」
「それは言いたくありません。」
私は驚いて彼女と母親を見る。母親は下を向いたまま微動だにしない。
「そうなのね・・ じゃあ食事とかはどうしてたの?」
「その人が作ってくれたり・・私も作りました。私が近所の人に見られると彼が逮捕されるから、外には出られなかったんです。」
「じゃあずっとアパートの部屋に居たのね。」
「パソコンでゲームをしたり、勉強もしてましたよ。授業に遅れないぐらいは・・」
「その人は仕事をしていて昼間はいなかったのよね・・退屈では無かったの?」
私がそう聞くと 彼女の表情が変わった。
「退屈だったんです。それで彼がいない昼間に部屋を出てコンビニに行ったり公園を散歩してたんです。そしたらお巡りさんに話を聞かれて・・適当に嘘をついて誤魔化したんだけど・・後で彼に話したら、調べたら嘘はバレるって言うんです。私を見ている人もいるかも知れないって・・」
「それで? それでどうしたの。」
「彼と相談して決めたんです。家に帰って中学を卒業するまで待つって・・嫌だったけど、彼を守りたいから帰って来たんです。」
「そうだったのね・・ どうして夜中に国道を歩いていたの?」
「彼に 私の家の近くまで送ってもらったんだけど・・私が家に帰りずらくて・・それで歩いていたら、へんなオジサンに声を掛けられて。大丈夫だと言ったんだけど、物凄くひつこくて、ほとんど無理やり車に乗せられたんです。しょうがないので家まで送ってもらおうと思って、家に送てって言ったのです。 でも警察に連れていかれたんです。私の考えなんか無視なんですよ。」
「そうなのね・・でもオジサンは善意でなさったことだからね・」
「じゃあ善意なら人の意思は無視して良いのですか?そうですよね、私は子供ですからね。子供の意思なんてどうでも良いんだ。」
「でもあなたの安全の為にそうなさったのだと思うよ。」
「いいえ、違います! 大人は私の考えを無視するんですよ!私が彼を好きでも子供だから認めないんでしょう! 言って置きますけど、私はセックスはしてませんからね。嘘だと思うなら調べて下さいよ。私は処女だから。彼はそういう人では無いよ。壊れそうになっていた私を親から保護してくれたんよ。」
「彼には親権が無いから保護は出来ないのよね・・」
「そんな事は分かってますよ! だから私は家に帰ったんです。このままでは彼が誘拐拉致犯にされてしまうから・・ もし彼が捕まったら・・ あなた達は満足なんでしょうが・・ 私は一生立ち直れなくなる・・ 二度と自分を許せなくなる・・ そんな事になったら私は死にます。絶対に死ぬ・・ 絶対あなた達を許さないから!・・ ずっと恨んでやる!」
言い終わると、彼女は下を向き 肩を震わせながら感情を押し殺しているように見えた。私は彼女の興奮が収まるまで暫く沈黙した。そして少し時間を置いてから静かに話し始めた。
「法律は絶対じゃあない・・ 法律はあくまでも道具なのよ。刃物と同じでね・・道具は 扱う人によって道具になったり凶器のなったりするの。だから法律に携わる者は勉強をして、 賢くなって 人を愛して 人を知らなきゃあいけないのよ。愛の無い人が法律を扱うと あなたの言うように 凶器になって善良な人の人生をめちゃめちゃにしてしまうのよね。」
そこまで話すと
「あなたは賢いわ・・ 彼の車の色とか車種とか、アパートの近くの店の名前とか風景とか 彼に繋がる事は何も言わないでしょうね。そうなれば警察は何も出来ないから・・残念ながら警察は彼をみつけられないでしょうね・・法律は子供のセックスを禁じても愛までは禁じていないから・・ 大丈夫だよ、
そこまで私が話すと
「分かりました・・ありがとうございました。」
「いいえ、こちらこそ。 それではここにサインをしてくれる? あ、お母さんも・・」
私にも12歳の頃は有った。私は大人が見る様な子供では無かった。父親を一人の男として、母親をその父親の女として見ていたのだ。どうして両親は結婚したのか・・どうしてこんな夫婦になったのか・・どうして母は長女に執着するのか・・口には出さずとも考えていたのだ。
大人は子供の思いを 子供だと切り捨てるが それによって私には癒されない傷が残ったのだ。子供だから分からない・・ 子供だから忘れるだろう・・その大人の安易な態度が子供を歪めてしまうのだ。
体の傷は癒えても 心の傷は簡単には癒えない・・
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