第44話 クランダンジョンに潜ってみた

「僕はこっちに行きます!」


「私はこっち!」


 新しい階層に入るとマリンとファーストは言葉を残して思い思いの方向へ散っていった。


 ここは新しく追加されたクランメンバー専用のコンテンツ『クランダンジョン』の第三階層。俺たちは三人で早速お試しで潜っているという訳だ。


 マリンとファーストが調べたという情報によると、出てくるモンスターは階層を重ねる毎に強くなっていくということ。あとは、『クランダンジョン』内で倒したモンスターからは経験値は手に入らないが、アイテムはドロップするということ。

 このコンテンツで成績によって課金アイテムが手に入るらしいのだが、その成績の算出方法はまだ不明らしい。


「というよりもそういう情報はどっから仕入れてくるんだろ。にちゃんねるを見た時にもスレ無かったしな……」


 最近はチェックしてないが、にちゃんねるにはスレが立ってなかった。というか、ここ数年、にちゃんねる自体にスレが立ってないみたい。あれだけの巨大掲示板も廃れるってことはあるんだな……

 でも、書いてるブログはまぁまぁ人気だ。『Lunatic brave online』に書いていたブログの時のPV数よりも数十倍は軽くあるし、その分アドセンスの収入も……


「アオイさんのところどうですか?」


 っとそんなこと考えてる場合じゃないな! ファーストの声が頭に響いてきた。


「おう! こっちはそんなにモンスターの量は多くない!」


「じゃ、お願いします!」


 この階層に降りたった部屋から俺は二人の進まなかった正面の道を進んでいると、見つけたのは数匹の『ワイルドボア』の群れ。『ワイルドボア』自体は『アルデス山』にも出てくるくらいの弱いモンスターだ。それが数体。さすがの俺でもこの程度のモンスターなら何の問題もない。


「ま、この程度ならさっさと倒せるな」


 俺は一本の矢を番えて『ワイルドボア』たちの頭上に解き放つ。


 パァン!


 と大きな音を立てて矢が弾けると、破片が光の矢となり雨のように降り注いだ。


「全弾命中っと」


 この《シャインスコール》は範囲攻撃。敵の頭上から光の矢が雨のように降り注ぐ技だ。通常は範囲内に無差別に降り注ぐだけの技だが、俺の場合は少し違う。その雨のような光の矢が全て敵に向かって降り注ぐのだ。DEX極のおかげで外れることはない。火力に難のある俺でもある程度のダメージを叩き出せる範囲攻撃の主力だ。


「こっちはOKだぞ!」


「あ! ワープ見つけたわ!」


 マリンの声が聞こえると同時に視界が暗転する……気が付くと、三人とも同じ部屋に立っていた。


「じゃ、次は私はこっちね!」


「僕はこっちに行きます!」


 またも散って行く二人……まだ数階層しか潜っていないがどうやらこれの繰り返しのようだ。敵を倒しながら新しい階層へのワープを探す。そして、新しい階層に降り立ったら、また同様に……

 ここで四つ目の階層だが、ここまで来た感じだとこんな感じだ。


「あ! 今回はワープが近いです! すぐ降りますね!」


 頭の中にファーストの声が響く……とすぐに目の前が暗転した。

 次に気が付くと広い部屋に三人で立っていた。


「あれ?」


 今までと様子違う部屋だ。広さが数十倍がある……となると可能性が高いな……

 もしかしたらボス階層なのかもしれない。ちょうど五階だし、可能性は高い。


 そう思って警戒していると目の前の空間が揺らめく……


 段々と姿を現して来たのは『ツムール』のようだ。まだ、完全を具現化していない『ツムール』に警戒し、俺は声をあげる。


「『ツムール』だ! 気をつけろ! もしかしたら強化……」


 バシュ!


 俺が言い終わる前に真っ赤な光線が閃いた。


 そして、間もなく姿を現そうとしていた『ツムール』のような存在が霧散していく……


「あれ? 倒しちゃいました」


 俺が言い終わる前にファーストが放った《バニシング・レイ》が倒してしまったようだ……ってなんだそれ?


「おいおい、マジかよ。専用で強化されたりとかするかなって思ったけど、そうでもなかったのか?」


『クランダンジョン』専用とかでボスは強化されてるかもしれない……と思ったのも束の間ファーストが一瞬で倒してしまった。俺の懸念は警戒しすぎだったのかもしれない。


「アオイさん! こっちのワープは戻れるみたいです! こっちは次の階層に進むみたいです!」


 俺が少し考えていると、マリンの声が聞こえる。どうやら二つのワープが現れたようだ。ボスマップなら戻ることも出来るだろう。今回は試しに潜っただけだ。戻るにはちょうどいいタイミングかもしれないな。


「じゃ、一旦戻るか」


 マリンはコクリと一つ頷くいて、ワープに触れると辺りが闇に包まれていった。

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