第25話 『ビー』を狩ってみた
「ふむ。『ビー』はあの辺か」
セフト平原に入った俺は早速マップを開く。マップには大体のモンスターの出現場所がアイコンで表示されている。どうやら『ビー』はアルデス山への入口から少し逸れたところにある花畑のような場所に湧くようだった。場所が分かったので、俺はすぐにその場所へ向かう。
まずは試しに……と適当な『ビー』に向けて矢を放った。
トスッ! トスッ! トスッ! スゥ……
「あ、あれ?」
『ビー』は三発の矢が刺さるとスゥっと消える。今まで感じたことが無いほどの手応えの無さだ。
「も、もう一度……」
俺は再度『ビー』に矢を放つ。
トスッ! トスッ! スゥ……
「や、やっぱり……よわ!」
今度は二発だった。そう、『ビー』は弱かった。俺の矢が数本当たっただけで倒せるほどに。
「こりゃ、楽だな! そうだ!」
俺はふと思い立ったことを試してみる。矢を三本ほど番えて放ってみる。
トトトスッ! スゥ……
予想通りだ。三本の矢が刺さると一回で倒せる。《多段撃ちの極意 》
があるからもしかして……と思ったけど、狙い通りだな。これでもっと楽を……いや、待てよ……
と、思った俺は、十本の矢を番えて適当に放った。
トトトスッ! スゥ……
トトトスッ! スゥ……
トトトトスッ! スゥ……
今度は三体の『ビー』にそれぞれ矢が突き刺さって倒れていく。別に余った一本が外れるという訳でもなさそう。一体で三本の矢があれば確実に倒せるようだ。
「こっちの方が楽か。まあ、十本くらいが限界だけど、一回で三体倒せるのはかなり効率が良くなったな」
ドロップアイテムを確認すると見事に『はちみつ』が六個ある。ドロップ率も悪くなさそう。
「こりゃ、『ラビィ』を倒して『冒険者の服』を売るより全然楽だな」
俺はアイテムを確認したついでに何の気なしにフレンドリストを確認する。アンバーはオフラインだが、マリンはオンラインだった。
たまにはこっちから話しかけてみるか……
と、俺はマリンにコールを申し込むと、すぐに反応が返ってきた。
「おー! マリン! 今何してるんだ?」
「えっと……アオイさんこそ何してるんですか?」
「俺か? 俺はセフト平原で『ビー』狩りだ。『リバイブ』の材料になる『はちみつ』集めでな。暇なら一緒にどうかなと思ったんだけど……」
まあ、何かしてるならそっち優先でいいんだけど……と続ける間もなくマリンは食い気味に答えてきた。
「え! 行きます行きます!」
「じゃあパーティー申請送っとく」
と、すぐに通知が切れる。と同時に俺はマリンにパーティー申請を送った。
そして俺はマリンが来るまで集まった『はちみつ』で『リバイブⅠ』を作ったりして待っていた。が、マリンは近くに居たのかほどなくやって来た。
「お待たせしました!」
「全然待ってないよ。じゃあ早速……」
俺はまたも十本の矢を番えて『ビー』に向かって放った。後ろではマリンが大剣を振るう音が聞こえる。
ブンッ! ブンッ!
トトトスッ! スゥ……
トトトスッ! スゥ……
トトトトスッ! スゥ……
ブンッ! ブンッ!
トトトスッ! スゥ……
トトトスッ! スゥ……
トトトトスッ! スゥ……
ブンッ! ブンッ!
トトトスッ! スゥ……
トトトスッ! スゥ……
トトトトスッ! スゥ……
「えーん……全然当たりませーん」
「は?」
俺の背後でマリンの泣きそうな声が聞こえた。
「アオイさんから装備を貰う前の『ラビィ』くらい当たりませーん」
「は?」
俺はそんなこと無いのだが……マリンは《千発千中》付きの『殻の鎧』は装備してるっぽいし……
「な、なんでこんなに当たらないの……」
少し涙声でマリンはブンブンと大剣を振るっている。が、確かに全く『ビー』に当たらない。
「あー! なんでだー!」
マリンの叫ぶ声も虚しく、『ビー』はその場を飛び続けている。攻撃が当たりさえしないので、『ビー』のターゲットにされずに攻撃されないのは救いなのだが……
「ま、まあ……焦らずに。ほら、パーティー組んでれば、俺が倒した『ビー』のドロップアイテムは手に入るでしょ? それで我慢して」
「我慢も何も……せっかく少しは役に立てると思ったのに……またもおんぶにだっこ……」
マリンはガックリと肩を落として地に膝をついて倒れこんでしまった。俺の役に立てると喜び勇んでやってきた結果がこれで落ち込んでしまったのだろう。ま、まあ俺は別にそういうつもりで呼んだ訳じゃないのだが……
「気、気にしないでよ。マリンに頼ることも今度出てくるだろうから……」
「ほ、ほんとですか! 絶対ですよ! あ、そうだ! 今日の『はちみつ』は後で全部差し上げます! そうすればアオイさんは私とパーティーを組んだ意味があります!」
「いや、それは悪いよ」
「じゃ、じゃあせめて半分だけでも!」
マリンは必死に食い下がる。既に泣きそうな雰囲気だ。まあ、これ以上断るのもなんだか悪いか……
「わかったよ。じゃあ後で貰うからその辺で花でも摘んでてよ」
と、俺の言葉にマリンの顔が紅く染まり俯いてしまう。しまった! と思ったが時既に遅し……花畑のような場所だったし、冗談交じりの言葉でそういう意味で言った言葉じゃないけど、迂闊だった……あー女性経験の少なさがこんな所で出ちゃうとは……
「あ……ごめん……」
「いえ……気にしないで下さい……ちょっとビックリしただけです……」
俺は一言謝ることだけしか出来ない。そしてすぐに黙って『ビー』狩りを再開した。
トトトスッ! スゥ……
トトトスッ! スゥ……
トトトトスッ! スゥ……
辺りにはただ矢が刺さる音だけが響くのであった。
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