第19話 ドロップアイテムについてきいてみた

 気付くと俺はブライトン農場に居た。柵の外側に、だ。どうやら『ツムール』とのバトルが終わってボスフィールドから出たようだ。


 すると一人の少女が俺に駆け寄ってきた。先程腰を抜かしていた少女だ。


「ありがとう! 冒険者さん! あの化け物を倒してくれて! これでウチの農場も救われるわ! でも……」


 少女はそこまで言いかけると、ゆっくりと頭を垂れながら、がくり、と地面に膝をついた。


「バルトスとデネアが……あの化け物に喰われちゃった事実は変わらないわ……」


 少女は顔をあげることはない。全身から悲哀の感情が漏れている。『ツムール』に喰われてしまった者を嘆いているようだ。


「犠牲者が……いるのか……」


 暗い雰囲気にいたたまれなくなった俺はつい、言葉を漏らしてしまう。

 が、次の瞬間に嘆いた少女は勢いよく立ち上がって天に向かって吠えた。


「えーん! 出荷前だったのにぃ! なかなか良いお肉になるはずだったのにぃ……! とと、肉のこと考えたらヨダレが」


 そして、少女はじゅるりと口元から垂れたヨダレを拭った。


 こいつ大丈夫か? 元々その為に飼ってたとはいえ、飼ってた動物を喰われたことよりも、金にならなかったことを嘆いているとは……しかも、ヨダレまで垂らしてやがる。それに食用の家畜に普通は名付けなどしないんじゃないか? 殺す前提なんだから。サイコパスかよ?

 

 いや、頭がおかしいのはこの運営か……『Lunatic brave online』の頃から変わってないわ……いいやら悪いやら……


 俺はまだ何かほざいている少女を後目にドロップアイテムの確認を行うことにした。アイテムボックスの中には『ネバネバの粘液』『蝸牛の殻』というアイテムが増えていた。通常ドロップが『ネバネバの粘液』で部位破壊のドロップが『蝸牛の殻』なのだろうと予想する。どうやら俺は狙い通りに部位破壊を行って特別なアイテムを手に入れることが出来たようだ。とは言っても、『蝸牛の殻』が部位破壊限定でのドロップアイテムかどうかを確認することは現時点では出来ないのだが……


 ふと、柵の中に視線を送ると『ツムール』の姿があった。倒したことは間違いないが、ここはあくまでゲームの中の世界。何度もボスに挑むことは出来るように、なのだろう。メインクエスト上で、そしてストーリー上では『ツムール』は倒したこととして扱われているようだ。それはさっきの少女の言葉から明らかだ。


 その時通知が入ってきた。またアンバーだ。


「おーやっと繋がった! ずっとオンラインだったのに繋がらなくて、なかなかタイミングが合わなかったわね!」


 どうやら俺に通話を何度か申しこんでたっぽいな言い方だな。


「タイミング? ああ、ずっと『ツムール』と戦ってたからだな」


「でしょう? ボスフィールドだと通知は届かない仕組みになってるから。パーティーを組んでる人たちでしか会話は出来ないわ。クランチャットも無理なの」


「なるほど、『Lunatic brave online』とは仕様はちょっと違うのか。まあ、集中して戦ってるときに一々通知が来てもうざったいからな」


『Lunatic brave online』の時はそもそも許可制じゃなかった。チャットウィンドウに流れてくるからな。返す、返さないはそもそも自由だし。と、そうだ。アンバーなら『蝸牛の殻』のことを知ってるかも。


「あ、丁度いい。一つ尋ねていいか? この『蝸牛の殻』ってアイテムは部位破壊限定のアイテムなのか?」


「違うけど、部位破壊をしないと相当ドロップ率は低かったわ」


 なるほど。部位破壊限定ではないのか。ただ、部位破壊をしないと……と言ったな? ってことは……


「ちなみに部位破壊をするとドロップ率は変わるのか?」


「ええ、部位破壊をすると確実に落とすようになるわ。しないと小数点以下の確率じゃないかしら」


 小数点以下の確率か……小数点以下の確率で盗めるぞ! とか本当は盗めないのにそう書いてた黒い攻略本のフレーズにそっくりだ。


「もしかして手に入れたの? 周回してたにしたって、これくらいの時間で手に入るなら相当運がいいわよ」


 ん? 周回? 何を言ってるんだ? 『ツムール』と戦ったのはまだ一回目だぞ?


「あー! もしかしてパーティー組んだんだ! じゃあ邪魔しちゃ悪いか! それかパーティー解散したばっかとか?」


 邪魔も何も、俺はソロなんだが……ってさっきから変なこと言ってるなぁ……


「またまてアンバー。俺はパーティーも組んでないし、周回もしていないぞ?」


「あっはっはー。嘘をつかなくても大丈夫だよ!」


 軽くあしらわれた。俺の言葉を信じてないな。これは。


「いや、嘘じゃない」


 俺は首をゆっくりと横に振ってアンバーの言葉を否定する。


「じゃあ何してたのさ! 三時間も通話するタイミング取れないなんて!」


「アンバーが言ったんじゃないか? ボスフィールドだと通知は届かないって」


 俺の言葉にアンバーは急にトーンダウンしてしまった。アンバーは様々な思い、疑問が駆け巡っているかのような雰囲気になってしまっている。


「……三時間も? ボスフィールドに居たの? なんで?」


「なんでも何も『ツムール』と戦ってたに決まってるだろう」


 当たり前のことを聞くんだな。『ツムール』とのボスフィールドに居たんだ。できることなんて『ツムール』と戦うしかないだろう。ツムツムでもやるのか?


「いくらDEX極だってそんな時間かからないでしょ! 『ツムール』一体倒すのにって……って『蝸牛の殻』? あ、まさか……部位破壊……したの?」


「ああ? したけど?」


 その言葉を最後に長い沈黙が訪れてしまった。先程までのアンバーの姿は何故かそこになかった。まるで、異界の生き物を見つけたかのような、現実を受け入れられない、そんな感じの表情をしている。


「………………ちょっと現実を受け入れる旅に出てきます………………」


 ブツンッ!


 うなだれたアンバーは俺との通話を唐突に切ってしまった。なんか変なこと言ったかな? 俺……

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