第7話 DEXについて聞いてみた

「あれ? DEXは? あのモヒカン野郎もDEX極のことは馬鹿にしてたけど……」


「えっと、DEXは命中率と生産スキルの成功率に関係あるわ……」


 ふむふむ。なるほど。って他に説明はないの? まさかもうお終い? ってことはないよね?


「……ってそれだけ? 弓系統の攻撃力補正は?」


「???? 何を言ってるの? そんなものある訳ないじゃない」


 アンバーはポカンとした表情で答えた。どうやら嘘は言っていないようだ。


「マジか……前はあったのに……」


 俺はガックリと肩を落として嘆きの言葉を吐いてしまった。

 と、その言葉をアンバーは何か不思議に思ったようだった。


「前って? アオイは『Lunatic brave online IV』やるのは初めてって言ってたわよね? でも、私はアルファテストの時から参加してるけど、ただの一度も無かったわよ? だから前もなにもそんな補正はこのゲームに一度も無かったんだけど……」


「ああ、ごめん。『Lunatic brave online IV』の話じゃなくて、『Lunatic brave online』の時の話だよ」


 確かに誤解を生むような表現だったかもしれない。と、俺は謝罪をしながら説明をした。


「『Lunatic brave online』の時って随分と懐かしい話してるわね……確かにあの時はそんな感じで補正はあったけど、後期にその補正は修正されてから今までずっとよ。それか他のゲームと混同しちゃったんじゃない? だって私はこのシリーズずっとやってるけど、それから一度もそんな機能実装されてないわよ」


「そっかぁ。見慣れたステータス画面だったからって説明もすっ飛ばしちゃったけど、そんなことになってるなんてなぁ……それに、ゲーム自体やってないんだよ。『Lunatic brave online』を引退してから全くね」


 アンバーは俺の言葉に驚きの表情を示した。


「『Lunatic brave online』から他のゲームもやってないの? まるで化石みたいな人ねぇ」


「ちょっと仕事が忙しくてね……あはは……」


 アンバーの呆れた顔に俺も乾いた笑いを返すことしか出来なかった。


「あ、でも、命中率に補正あるならDEX極にも生きる道はあるんじゃ……?」


 ふと俺は思い出したかのようにアンバーに尋ねた。アンバーは命中率に補正があるって言ってた。それ自体は『Lunatic brave online』の時と一緒だ。そもそも武器と言うのは当たらなければ意味は無い。なら必要なステータスのはず……


「命中率補正自体は悪くないけど、そもそも極にしなくても普通はある程度の命中率を確保出来れば問題ないし、武器によっては命中率に補正がある武器もある。何しろダメージが通らないからモンスターを倒すのも大変。極にする必要ある?」


 アンバーの言葉に俺はぐうの音も出ない。


「そう言われればそうなんだけど……じゃあ、生産に関しては?」


「そっちは正直良く分からないわ。確かに生きる道はゼロじゃないだろうけど、そもそも街の鍛冶屋や調合屋で事足りるんだし、わざわざそっちの道に進もうとする人なんていないわ。鍛冶にしろ調合にしろ素材はいるんだし、その素材を集めるのにもモンスターを倒す必要がある。素材を買い集めるにしてもお金は必要。お金を稼ぐためにはモンスターを倒す必要がある。これ以上説明必要?」


「……いや……もういいです……」


 論破された俺は黙ることしか出来なかった。そんな重苦しい雰囲気を察してか、アンバーが明るい声で俺に言葉をかけた。


「ま、まあアカウントの作り直しも出来るし、してきなよ? まだ初めたばかりだし影響も少ないでしょ? ね?」


 それ自体はそうなんだけど、やはりかつてのゲーマーとしてのプライドが邪魔してか、そんな気分に俺はならなかった。せっかく初めたこの『Lunatic brave online IV』だ。一度決めたプレイスタイルを試してみてからでも、アカウントの作り直しをするのは遅すぎるということは無いはず。それに少しやってみたいことも出来た。


「いや、とりあえずこのDEX極でやってみるよ。ありがとね、アンバー」


「いえいえ、どういたしまして。じゃあ私は行くね!」


 そう言って立ち去ろうとするアンバーに俺は急いでこう頼んだのだった。


「あ、メニュー画面の開き方の変え方も教えてくれない?」


 と。

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