眠らない街 ルイン

Leiren Storathijs

プロローグ

 俺の名はヴェイル・ルーク。教会が管理する街ルインの南部生まれで、育ちも二十八歳まで暮らし、今までの人生で街の外に出たことは無い。

 そして今日は二十四回目の鐘が鳴る日。生贄の日だ。


 生贄の儀式は中央部の広場で行われる。今回も誰かが殺される。

 教会は神に捧げるとかなんとか言ってるけど、全くくだらない。

 俺は誰が殺されるのか。中央部の広場へ向かった。


「我らの神は今回も一つの生贄を選んだ! この街に光を、太陽を与えてくださるのだ! 皆のもの天を仰げ、神を崇めよッ!」


 広場には既に多くの人だかりと、広場の真ん中に立つ石像に括り付けられた人の前で、教会の信徒が声を上げていた。

 今日の生贄は……あぁ。西部の児童公園で子供の遊び相手を良くしていたジョンおじさんか。災難だったな。


「駄目だ! 私にはまだ五歳にも満たない子供がいるんだ! だれか! 信徒を止めてくれ! 私はまだ死ぬべきでは無い!!」


「いいや死ぬべきである。神がお前を選んだのだ。感謝し心も身も捧げるのだッ!」


「やめろやめろやめろ! うあ"あ"あ"あぁ!!」


 信徒が一本の松明に火を灯すと、ゆっくりとジョンおじさんの足から焼き、たちまちジョンおじさんは断末魔と共に火達磨と化する。

 子供の世話は募集しておこう。


「よ、ヴェイル。ここにいたのか。また惜しい人が死んだな」


「お前、子供の世話できるか?」


「いいや、俺は生憎子供が苦手でね」


「そっか」


 この男は知らない。見たこともない。でも相手は俺のことを知っているがこれが普通。

 俺はただの一般人を装いながら、自警団をこの街に作った。

 ただ街中に『自警団募集中』と張り紙を至る所に貼っただけ。


 だから自警団が今街の中にどれだけいるのか全く分からないが、この男は俺の名前をわざわざ覚え、知っているということは自警団の一人なんだろう。


 自警団はこの街を掌握する教会に対抗するために作った。

 自警団の情報は全部噂。彼が見たもの、聞いたものを元に、ただ広まっていく。俺の名前もきっとそれを頼りに広まった。

 噂はみんな信憑性が低いが、下手に探れば信徒に殺される。

 だから噂はもっとも安全で良い情報となる。


 また何故教会に対抗するか?

 それはこの街を少しでも快適にするためで、それには教会の幻想をやめさせなくちゃならない。


 太陽なんてものは無く、知らないし。

 『夜』の反対は『朝』なんて意味がわからないし、興味もない。

 だからこれを壊す。この街の目を覚まさせるんだ。いつまでも夢を見ていないで、現実を受け止めろと。

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