第48話
▫︎◇▫︎
「ただいまー」「お邪魔しまーす」
『
「つ、疲れた………」
「僕も………」
真っ赤なドレスが着崩れるのも気にせず、マリンソフィアは思い思いに羽を伸ばし、アルフレッドも首元をくつろげてワックスで固めていた髪をぐしゃぐしゃと崩す。
「………アルって皇太子だったんだね」
「………………今そこ深掘りする?」
「するわよ。だって、わたくし、今こんなにも不遜な態度をとっているもの」
言いながらも、マリンソフィアはソファーでごろごろと羽を伸ばす。
「ねえ、ソフィー」
「なあに?」
マリンソフィアは視線だけをアルフレッドに向けて、ふにゃりと笑った。アルフレッドはそんなマリンソフィアのくつろいだ態度に少しだけ顔を赤くして、ふんわりと笑った。
「ちょっと窓際行かない?」
「いいよ、バルコニーに出る?」
「それもありかも」
「じゃあ、お酒と軽食を持ってきてもらおう」
「そうだね」
2日酔いで散々朝から頭痛に悩まされていたはずのマリンソフィアは、そんなことも忘れて、ベルで呼び出したクラリッサにお酒と軽食を持ってこさせてバルコニーで酒盛りができるように準備させた。
「じゃあ、行こっか」
「うん、エスコートさせてくれる?ソフィー」
「いいよ」
マリンソフィアはソファーで寝っ転がっていた自分の前に膝をついたアルフレッドに笑いかけ、そして彼のエスコートで9階の自室についているバルコニーの外へと出た。もうすっかり夜になった空には、月と星が輝いている。
「ん、」
薄いドレスを着ていたがために、身体を抱いて震えたマリンソフィアに、アルフレッドが自分の着ていた軍服ぼジャケットをかぶせた。
「………重い」
「仕方がないよ。少しだけ我慢して」
ジャラジャラと勲章が揺れるジャケットに文句を言ったマリンソフィアに、アルフレッドはルビー色の瞳を優しく細めた。
「ん、仕方がない。あるが言うのなら、わたくしは我慢してあげるわ。なんて言ったって、あなたは今日1番の功労者だもの」
マリンソフィアは優しく笑って、右手でジャケットを握りしめ、左手で大事な薔薇のネックレスを弄んだ。
「わたくしね、今日はずーっと断罪しながらも、あなたのことが頭にチラついていたのよ」
マリンソフィアはネックレスを弄んでいた手をグラスの方に持っていき、美しい夜空を見上げてシャンパンを口に含みながら、彼の方を見ることなく、囁くように言った。
「それにね、今思えばわたくし、このネックレスに、ずっとずーっと救われていたの。このネックレスをあなたにもらってから、わたくし1日たりとも、このネックレスを外したことがないわ。寝る時やお風呂の時は外していたけれど、その時以外はずっと身につけていた。この国のルールに、王太子の時期妃としてお手本となれるように、絶対に従うようにしてたのに、このネックレスだけはずーっとルールを破ってた」
(………なんでこんなこと言っているのかしら)
マリンソフィアは自分のお口が勝手に喋り出してしまったのをどこか遠くのことのように思いながら、なおも、クラリッサが用意したものすごく強いシャンパンをごくっと煽った。身体がとても暑くてふわふわしているのが、寒い外に出ていると、とてもちょうど良くて心地いい。軽食に用意されていたチョコレートボンボンをぱくっと食べると、甘さと強いお酒によって心と身体のふわふわ度が一気に増す。
「ずっと勇気をもらっていた。だからね、何か不安なことがあった時、苦しい時、悲しい時、虚しい時、他にも嬉しい時や楽しい時、幸せな時、どんな時にも、わたくしはこのネックレスを触っていたの。気づいてた?アル」
「ーーー………………」
「ふふふっ、わたくしね、アルが驚いた顔を見るのが大好きなの。思い返してみて気がついてびっくりしている顔とか、特に好き。だって、アルはいっつも澄まし顔だもん」
マリンソフィアはジャケットを手に持ったまま、アルフレッドの方をみて、にっこり笑った。
「今日、助けてもらってからね、わたくし、新しい感情を学んだの。真っ赤な燃え上がるようなものじゃないけれど、わたくしはこの温かなお日さまの光のような、あったかさが好き」
マリンソフィアはふわっと満月を見上げて優しい微笑みを浮かべながら、こてんとアルフレッドの肩に頭を預けて自分でも自覚できるくらいに真っ赤な顔で、甘く甘えるようにつぶやいた。
「月が、とっても綺麗ですね」
「ーーーー………………………、」
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