第44話
案の定クラウスは、『はあ、はあ』と息を乱してその後に舌打ちをしてから扉を蹴った。
「………ーーーなあ、あんたは誰のおかげで、オウジサマができてたのか、分かってんのか?このクソボケがっ!!」
「っ、」
クラウスの叫びを聞き届けたマリンソフィアは、ふわりと微笑んでこっそりとナイフを握り込んでいる第2王子へと視線を向けた。暗器の類を謁見の間に持って入るという行為は、国王への反逆を意味する行為だ。
マリンソフィアは、愚かな第2王子に冷たい視線を向けて、口元を隠していた扇子をパチンと閉じた。空気がピリリと引き締まり、マリンソフィアは心地の良い緊張感にふんわり微笑む。
「今、ここで殺人が行われた場合、新聞社によって、この国はもちろんのこと、周辺諸国へわたくしの持つ第2王子殿下の『闇』が全て表に出るようになっています。血迷ったこと、なさらないでくださいましね」
「っ、………俺に知られて問題のあることなんて存在しない」
一瞬息を呑みながらも、彼は気丈にも知らぬふりをする。マリンソフィアはそんな愚かな彼を冷たい目で見つめながらも、微笑みを崩さない。
「あら、そうですの?なら、トライ公爵家の傀儡となって5年前から王位簒奪を企てていることも、今現在国王陛下並びに、王太子殿下とクラウス殿下を殺そうとしていることも、何も問題ないのですわね。あぁ、ちなみに、王位簒奪を企てていることに関する書類は、実際の文章の写しを新聞社に届くようにしていましてよ?」
マリンソフィアは余裕たっぷりに微笑んでみせる。
その瞬間、第2王子の顔面崩壊が起きる。マリンソフィアは呆れかえって、思わず溜め息をついてしまう。王家はもう崩壊しているのではないかと、マリンソフィアは本気で疑ってしまう。
「!? な、何故それを貴様が持っているというのだ!!」
「あら、こんな簡単な誘導尋問に引っ掛かりますのね。つまらないこと」
「だ、騙したのか!?」
(騙されるあなたが悪いと思うけれど?)
マリンソフィアはどうしようもなく救えない第2王子を憐憫のこもった瞳で、ただただ見つめるのだった。だって6つ下の彼は、5歳の時に王位に目が眩んで、トライ公爵の元に下ったのだから、まともに教育をされていないのは分かりきっていることなのだ。けれど、王子としての責務を放り出した第2王子にかける慈悲など、マリンソフィアには持ち合わせていないのだった。
「まあ、それはさておき、新聞社の件は本当ですわよ。ちなみに、わたくしが今日中に生きて『
「………お前は、ずっと王家へと迷惑をかけ続けたという前科を持つお前が、王家を裏切るのですか」
マリンソフィアが歌うようにくるくると指を弄びながら言うと、王妃が信じられないものを見るよいうな顔つきでマリンソフィアのことを見つめた。彼女は自分よりも名女優であるなと思いながら、マリンソフィアはクスッと嘲笑い、王妃に向けて扇子を振りかざす。
「あら、それ、王妃さまがおっしゃいます?他の誰でもない、第2王子殿下が
「っ、」
「第2王子殿下は宰相さま、つまり王弟殿下であらせられるトライ公爵さまとの子ですわよね?当時の状況と現状から考えて、それ以外には到底考えられませんけれど、もしかしなくとも他の方がお父君ですか?まあ、そうなると国外から探してくるしかありませんわね。さすがにわたくしも、そこまでの情報は持ち合わせておりませんわ。異国にいる、国王陛下と同じ、金髪に王家の象徴たるエメラルドの瞳を持った人間の情報だなんて」
今現在、この国の中で王家の象徴たる太陽のような黄金の髪に、エメラルドのような碧眼を持っているのは国王と王弟のみだ。異国へ嫁いだ姫君のことを考えれば、異国の王族の中にいるローレンツ王国の王家の象徴を持った人間が他にいないとは考えにくいが、王妃には基本自国外での自由がない。それは不可能に近いだろう。
「ち、ちがっ、へ、陛下っ!!出鱈目です!!この子はテナートとの婚約破棄でショックを受け、精神が混濁して出鱈目しか言えなくなっているのですわ!!そう、きっとそうですわ!!」
「………見苦しいですわね、王妃。なんなら、証拠でも持ってきましょうか?」
王妃の仮面はすぐにぼろぼろと崩れ落ちてしまった。こんな金切り声のような悲痛な叫びで訴えれば、嘘を言っていることは丸わかりだろうに、それでも王妃は必死なままだ。それもこれも簡単なこと。王妃と宰相の中は昔から噂されていて、そして国王も1度真偽を問うているから。
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