第43話
「それでは、みなさま、わたくしについて何かお気づきになることはありまして?」
マリンソフィアはそう言うと、くるんと1回転して見せた。だが、クラウス以外は皆胡乱気な表情をして首を傾げている。マリンソフィアは、はあーっとあからさまにため息をつくと、次の瞬間にヘアピンを1つ外した。さらりと白髪が背中に流れ落ちて、王太子の婚約者にして侯爵令嬢時代にいつもしていた髪型に早変わりする。
だが、誰も、反応をしなかった。否、王妃だけがピクリと真っ赤な髪の毛と同じ眉を上げるという反応を示した。
「あらあら、王妃さまはお気づきのようですわね。王妃さま、もう男どもはわたくしに気付けないようですので、クラウスさまと一緒に答え合わせをしてくれます?せーの、」
マリンソフィアは楽しげに手を叩いて2人に促した。2人は渋々顔を見合わせた後、声を揃えてその名を呼ぶ。
「マリンソフィア」「マリンソフィアさま」
「はい、わたくしです」
マリンソフィアの麗しい笑みと共に紡がれた言葉に、王太子と国王、そして第2王子が言葉を失う。特に、王太子は顔色が真っ青になって震え始めている。
「なっ、なっ、う、嘘だ!!嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!嘘だ!!」
ーーーガンガンガンガンガンガンガンガン!!
「いえ、本当ですわ。というか、現実逃避するのはやめてくださいまし。見苦しいですわ」
唐突に頭を壁にぶつけて叫び出したというか、発狂し始めた王太子に、マリンソフィアは冷たい視線を浴びせかける。
「わたくし、本当はあんなこと、する気がありませんでしたのよ?ですのに、あなたがわたくしを怒らせたからあぁなったのですわ」
マリンソフィアは歌うように言葉を紡いでいく。彼女の右手は胸元に当てられ、シャラシャラと薔薇のネックレスが弄ばれる。
「………何故あなたはあんなにも簡単にわたくしを捨て、あんなにも簡単に添い遂げると宣言した女性を捨て!あまつさえ、またわたくしに求婚するのですっ!!わたくしには理解不能ですわ………」
昨日のアルフレッドのおかげで、精神が安定したと思っていたが、どうやら間違いだったと思ったマリンソフィアは、それでも感情の吐露を続ける。
「わたくし、あなたが憎くて仕方がありませんの。触れられるたびに悪寒が走って、吐き気がする。本当に、あなたは人間ですの?」
「なっ、」
驚愕と怒り、今にも飛び出してきそうな王太子のことを見つけて、マリンソフィアは冷たい瞳を王太子へと向ける。
「わたくし、あなたが非人道的すぎて、もう気味が悪いんですの」
「………王太子殿下、本当に彼女に求婚なさったのですか?」
「………………」
王太子はクラウスの質問に答えない。だが、クラウスはどうしても無言を肯定と取りたくなかった。王位を争う身としてはいけないことかもしれないが、彼は長年王太子に仕えていたこともあり、王太子への情があった。さすがに婚約破棄については意見が分かれ、対立してしまったが、そこそこいい関係を築いていたはずだ。
だからこそ、彼のやったことが許せなかった。
「皆の前で堂々と罵詈雑言を吐きながら婚約破棄を行った彼女に対して、本当に求婚を行ったのですか!?」
マリンソフィアは自分のために怒る男を慈愛の瞳で見つめた後、ふわりと微笑んで言葉を発する。
「………無駄ですわよ。求婚を行ったことは事実だし、証拠を出せる人間はたくさんいますわ。それに、その男は最低なことに、わたくしに婚約破棄を叩きつけた2日後のお昼過ぎに、わたくしに求婚してきたのですから」
「なっ、………う、うそ、ですよね………?」
「嘘を言ってい何になりますの?それに、クラウス殿下はわたくしのことを、よーくご存知のはずですわよ」
長年の無能な王太子を支えるという重職を共に担ってきた相棒に対して、マリンソフィアは気色が悪いくらいに満面の笑みを浮かべる。
「こんのっ、馬鹿殿下っ!!何を血迷っているのですかあ!?」
「なっ、馬鹿とはなんだ!馬鹿とは!!この完璧王子と名高いテナートさまに対して。馬鹿というのは間違っているだろう!!」
不毛な叫び合いに、マリンソフィアの怒りは増していくが、ここで怒鳴っても後から必要になるであろう体力から考えて、しんどくなってしまうことが目に見えているマリンソフィアは、ただ静かに口論を見守っていた。
「あなたさまが馬鹿じゃなかったことなんてありませんよっ!!そもそも!誰のおかげで並みの人間を演じられていたと思っているのですかっ!!公務は全て私とマリンソフィアさまとで分担して行い!そして、社交の場での活動は全てマリンソフィアさまの圧倒的な手腕と情報力によってどうにかなっていただけなのですよ!?誰があれだけの貴族の情報をまとめ上げていたと思っているのですかっ!!」
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