第41話
マリンソフィアはおチビちゃんを撃墜させた後も、オペラグラスでパレードを見つめ続けていた。
猫の足跡がついてなお胸を張っている王太子は、王太子然とした態度だが、失笑するしかない状態に陥っている。何故ならば、ぱんつ一丁の裸で、上半身にいっぱい猫の足跡がついていて、しかもぱんつがひよこちゃんブリーフという大変なことになっているからだ。しかも、背中にはタトゥーを入れたかのような『
「あぁ、早くどこかのちみっこが本当のことを言わないかしら………」
マリンソフィアは切に願いながら、僅かに空いた窓から外の音を聞く。
そして、1人の男の子が王太子の事を指差して爆笑している小さな男の子を見つけた。
(あら、いい子そうな子ね。言ってくれないかしら?)
マリンソフィアはその男の子のことをじっと見つめ、そして男の子がすうっと息を吸ったタイミングで満面の笑みを浮かべた。
「王子さま!やっぱり、なんにも着てないよ!!」
男の子が叫び、群衆はざわめめかせる。マリンソフィアは舞い上がり始めていた。
ーーーパチンっ、
「クラリッサ、あの男の子に金貨10枚を」
「かしこまりました」
マリンソフィアの指鳴らしと共に発せられた命令を受け、クラリッサは凛とした足取りで男の子へとお金を渡しに行く。
その間にも、民衆の困惑と疑心暗鬼な声はどんどん高まっていく。
『なんにも着ていらっしゃらないのか?』
『えぇ、そうかもしれないわ。だって何にも見えないもの』
『ひよこぱんつだしな………』
『そうね、流石にあれはダサいわ』
何も布地が見えなかった国民の間にざわめきは広がり、ついに収集不可能なレベルになってしまう。そして、妙にあったタイミングで国民たちが一斉に叫んだ。
『王太子さまは、なんにも着ていらっしゃらない!!』
マリンソフィアはそんな光景を見て、知性を表すと言われるほどに美しいサファイアの目を爛々と、無邪気な子供のように輝かせる。
「うふふふっ、あはははははははっっ!!わたくしに与えた苦しみを味わって、せいぜい憎めばいいわ!!」
「ソフィー!?」
アルフレッドは狂ったように笑い始めた愛しい人のことを見て、ぎょっと目を見開いた。何故なら、マリンソフィアの目から真珠のように美しい涙がぼたぼたと落ちていたからだ。
「ひっく、うふふふっ、っ、あははっ、」
マリンソフィアの精神は疲れ切っていた。持ち前の我慢強さと隠すことの上手さで必死になって隠していたが、もう色々と限界だった。昔からの大好きだった本に頼って精神を安定させていたくらいには、もう精神が疲弊しきっていた。
それから、マリンソフィアはひとしきり泣きながら笑った。マリンソフィアの精神についてをある程度気がついていたアルフレッドは、そんなマリンソフィアのことを抱きしめてただただ『頑張ったね、ソフィーは良い子だ』と言い続けた。いつのまにか、マリンソフィアは普通に泣いていた。
「ん、ずびっ、………ごめん、アル。お洋服ぐちゃぐちゃだ」
マリンソフィアが泣きながらずっとアルフレッドに抱きついていたこともあり、アルフレッドのお洋服はマリンソフィアが泣き止む頃には涙と鼻水でぐずぐずになっていた。
「いいよ、そのかわり着替えを貸してくれるかな?」
「ん、」
マリンソフィアは頷くと、遠慮なくアルフレッドの服で顔を拭いた。優しい彼の口調に顔が赤くなったのを隠すためだ。
「うわっ、おいおい、それはないだろ」
「知らないっ!!アルはそのままここにいて!!」
マリンソフィアは横暴に言うと、彼の胸に身を預けて落ち着いた微笑みを浮かべた。
「………これでやっと馬鹿王侯貴族ども関連のつっかえは取れたかな?」
「うん、………クラリッサはわたくしの全てを肯定することしかしてくれなかったからね。我儘にはなれたけれど、どうしてもアイツらへのイライラがおさまらなくって。………それに、わたくし、ずーっと『王太子のために生きろ、それ以外にお前に生きる価値はない』って言われてきたから、あぁいう風にするのが本当はいいことじゃないってずーっと頭の中で響いて、辛かったの」
王妃からマリンソフィアはずーっと『王太子のために生きろ、それ以外にお前に生きる価値はない』と会うたびに、授業のたびに、お茶をするたびに、洗脳のように言われ続けてきた。
「まあ、いいことではないが、それでスッキリするんだったら、僕はいいと思うよ」
「ん、ありがとう」
やっとマリンソフィアは、
これなら、しっかりと戦えそうだ。
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