愛を込めて花束を

杏杜 楼凪(あんず るな)

side:A

「本当に久しぶり……全然来られなくてごめんね」

 

『謝るなよ、忙しいんだろ?』

 

「ほら、こんなご時世だからさ。あまり東京から帰ってくるのも良くないかなと」

 

『あぁそうか、そっちは大変なんだよな』

 

「おば様に迷惑かける訳にもいかないしね」

 

『気遣ってくれてありがとうな、でもお前に会えたら母ちゃんもきっと喜ぶよ』


「それにしてもこの町も変わっちゃったねぇ」


『そうか?』


「いつも遊んでた空き地は知らない人の家になったし」


『あぁそうだったっけ』


「駅前のラーメン屋さんは潰れちゃったし」


『あそこの店、ボロいけど安くて美味かったのになぁ』


「まぁ帰ってくるのも3年ぶりだからそりゃ色々と変わるよね」


『そうか、もう3年も経ったのか……あっという間だなぁ』

 

「ねぇ、そっちはどんな感じ? そっちも冬は寒いのかな」

 

『いや、こっちは寒くはないよ。そっちよりだいぶ過ごしやすいと思う』

 

「東京は……雪も降らないし気温もそんなに下がらないけど、ビル風のせいかとても寒く感じるんだよね」

 

『お前は寒がりだもんなぁ』

 

「でも今度いつものメンバーでランドに行くのよ。貴方が行きたいって言ってた所」


『知ってる知ってる。あいつらこないだわざわざ俺に言いに来たんだよ』


「自分のお金で関東まで旅行してランドに行くだなんて、大人になっちゃったなぁ!」


『そうだよな、皆もう社会人だもんなぁ』


「良かったらついておいでよ、皆で行けた方が楽しいでしょ?」


『そうだな……うん、そうするよ』


「……本当は2人で行きたかったんだけど」


『……そうだよな』


「なーんて、今言っても仕方ないけどさ!」


『ごめん……』


「……大丈夫よ、ちゃんと楽しくできるから」


『でも――』


「心配しないで」


『……分かった、ありがとう』


「……」


『……』


「あの、さ」


『ん?』


「私、ご時世とか仕事とか言い訳にしてたけど、本当は来るのが怖かったんだよね」


『と言うと?』


「知らない間にこの町が、生活が変わっていってる事を実感してしまうから」


『……』


「皆はここにいる間ずっと変化と向き合っているからこそ、変化を受け入れて次に進まざるを得ないんだよね」


『そうかもな……』


「でも私だけ……私だけ現実から逃げて逃げて、逃げ続けて、1人だけあの頃に囚われてるの」


『……』


「おば様に会うのもここに来るのも怖くて仕方なかったんだよ、本当はね。でもさ……」


『うん』


「今は来られて良かったと思ってる」


『……そうか』


「……なんて、自分の言いたい事ばっか喋っててごめんね」


『良いよ、というかそれはもう仕方ない』


「まだたくさん話したい事はあるんだけどさ、それは次会えた時の為にとっておくよ」


『分かった、あんまり急いでこっちに来るなよな。時間はいっぱいあるんだから』


「……そろそろ行かなきゃ」


『うん……幸せになれよ』


「話聞いてくれてありがとう。またね」


 女は墓石にもう1度だけ手を合わせ、去った。

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