竜皇女、番《つがい》に出会う。

「やってやったぜええ」

 龍太が大きな声を出した。


「ははは、ですなあ」

 副長だ。


 ゴゴゴゴゴゴ


 駆逐艦、”豆狸まめたぬきとドラゴンと紅い宇宙船は、ただいま惑星に墜落中だ。 

 大気圏突入の熱で周りは真っ赤。


 バキバキイ


 何かのパーツがはげる音がした。


 ドラゴンと紅い宇宙船が離れた。

 違う場所によたよたと堕ちていく。


「何とか降下姿勢に持っていきますぞお」

 操縦士が必死に操作する。


 ドオオン


 後ろの方から爆音がした。

 大気圏突入は何とか耐えたが、なおも降下中。


「海岸だっ」

「全員対ショック姿勢っ」


「堕ちるっ」


 ズドオオオン


 砂浜に後を残し、駆逐艦、”豆狸まめたぬき”が、胴体着陸した。



「いたたたた」

 傾いた艦のブリッジだ。

 バチバチと所々でショートしている。

「被害報告っ」

「怪我人はいないかっ」


「あいたたた、腰がっ」


「全員かすり傷程度です」

 副長が応える。


「艦はっ」


「駄目だっ、メインジェネレーター破損」

「もう飛べんっ」

 機関長のゲンさんが悔しそうに言った。

 元々古いジェネレーターに、強引にダークマター推進機関を繋いでいたのだ。


「救難信号を出しますか?」

 副長が聞く。


「むうう」

 出しても名前もつけられてもいない辺境惑星だ。

 早くて二カ月。

 遅くて半年は救援が来るのにかかるだろう。

 食料は何とか持ちそうだ。


 ちなみに、移民たちの最初の仕事は、この惑星に名前をつけることである。


 しかも、信号を出すとドラゴンたちにも位置を教えることになる。


「小林艦長」


「出そう」

 

 敵宇宙船の故障……には期待できないよなあ。


 シュパアアア


 救難信号を出す信号弾が、衛星軌道上まで打ち上げられた。


「とりあえず、修理できるところは修理だっ」

 ゲンさんが大きな声を出した。


「おうっ」


 各自作業に入る。



 青い空。

 青い海に白い砂浜。

 一瞬、日が陰った。


「くっ、……総員、小銃装備……」

 龍太が苦し気に声を出した。

「艦長」 


 バサア、バサア


 少し離れた海の上に、ドラゴンと紅い宇宙船が浮いていた。


 グルルルル


 ドラゴンが低い声で唸る 

 紅い宇宙船が近づいてきた。

 

「さっきはよくもやってくれたな」

 宇宙共通語が聞こえる。


 宇宙共通語は、”ヒューマンオーダー”に参加した種族は全て習得が義務付けられている。

 

 紅い宇宙船の上部甲板に美しい女性が立っていた。


 金色の竜眼。

 白い肌。

 燃えるような赤い髪。


「この艦の艦長は誰だっ」


 威厳に満ちた美しい声。


 ざっ


 龍太を初老の乗組員たちが隠すように囲む。

「……ゲンさん……」

「しっ、艦長はまだ若いんだ」 

「こんなところで死んじゃだめだよ」

「みんな」


「俺だあ」

 ゲンさんが前に出た。


「嘘だな」


 頭には白いつるりとした二本の角。

 後ろ向きに生えている。


 グルウッ


 ドラゴンが軽く唸る。


「……自分だ……」

「人類統合軍少佐、駆逐艦、”豆狸まめたぬき”艦長、小林龍太こばやしりゅうただ」


「……ほほう、お前か」

「なかなかに立派な指揮官ではないか」

 低いバリトンボイス。

 

「ドラゴンがしゃべるっ!?」

「まさかっ?」

「ほんとにっ?」 

 初老の乗り組み員たちがざわついた。


「お前かっ」

 ドラゴ―ニャが龍太を見た。

「ナニッッ」

 切れ長の竜眼が大きく見開かれる。


 ピシャアッ


 背景にベタフラッシュが走る。


「なっっ」

 ドラゴ―ニャと視線を合わせた龍太が固まった。

 ドラゴ―ニャが、軽い感じで紅い宇宙船から、龍太の前にジャンプしてきた。

 大体二階建てくらいの高さである。


 見つめ合う二人。


「んん」

「なんだなんだ?」

「どうしたんだ?」

 初老の乗組員たちが顔を見合わせた。


「ラーニャ?」

 ドラゴンが怪訝な声を出した。


「……名前を教えて欲しい」

 龍太はドラゴ―ニャから視線を離さない。

 ドラゴーニャも見つめ返す。

「……ドラゴ―ニャだ」

「ラーニャと呼んでほしい」


「ラーニャ、……結婚してくれるねっ」

 龍太がドラゴ―ニャの手を両手でつかむ。

「ははっ、龍太っ、お前は私のつがいだっ」

「もちろんだともっ」


 二人が同時に言った。


「えっっ」

「ちょっと待ったあああ」

「おいおいおい」

「ええええ」


「あああっ、ラーニャの角が桜色に」

 バリトンボイス。

 つがいを見つけた竜の女性は、に染まる。


「だ、大丈夫ですかっ、艦長っ」

 副長だ。 


「ははっ、当然大丈夫だっ」

「真実の愛を見つけたからなっ」

 龍太が力一杯に言う。


「そうだなっ、見つけたっ」

「お兄様っ、龍太を巣に連れて帰りますっ」

 ドラゴーニャも力一杯である。


「えっ、お兄様って」

 初老の航法士が聞いた。


「あ、ああ、私の名前は、”ドラグナー”」

「ドランドランの第一皇子だ」

「ちなみに妹は第二皇女」


「ドランドランに男性はいないって」

 初老のソナー士だ。


「ああ、男性は普段はドラゴンの姿だよ」

 つがいを見つけると人型に形態変化トランスフォームするのだ。


「艦長の様子は?」

 龍太とドラゴ―ニャは、見つめ合って視線を離さない。


「ん? つがい双方向インタラクティブだよ」

 竜も人もお互いにメロメロだ。


「え~と、ドランドランに行った人が帰ってこないのは?」

 初老の操舵士である。


「”幸せです”と返信したはずだが」

 特に、竜と人類の相性は最高らしい。


「竜の習性を知っているか?」

 バリトンボイス。


「え~と、金銀財宝を巣にため込んで守る……?」

 初老の雷撃手だ。


「なんだ知ってるじゃないか。 昔、同族が地球にいたのかな」

 事実である。


「じゃあ、戦争になったのは?」

 初老の副長だ。


「そりゃあそうだろう、金銀財宝よりもはるかに大事なつがいを奪いに来たのだぞ」

 その時の竜は軽い狂乱状態だ。

 その都度、人類のつがいなだめるのだが。


「じゃあ人を殺さないのは?」


つがいになる可能性があるのだぞ、殺せるものか」

 実際、人類と竜のつがい率は百パーセントに近い。

 

「うむ、そうだな、龍太……」

「子供を作ろうっっ」

 ドラゴ―ニャが顔を赤く染めながら、力強く言った。

「よしっっ、何人欲しいっっ」

 龍太も顔を赤く染めながら、力強く言う。

「たくさんだっっ」

「分かったっっ」

 二人して船の中に入ろうとした。


「艦長おおお」

「ラーニャアアア」

「分かっちゃ駄目えええ」

 

 乗組員とドラグナーが力を合わせて二人を止めた。

 戦争が始まって以来、つがいではない人と竜の久しぶりの共同作業となった。

 

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