君色に染まる

黒金 海月

君色に染まる

 ずっと窓越しに想い続けていた君に、ようやく会えた。


 透き通るようにも感じられるその姿に、しばし見惚れてしまう。ずっと、会いたかった君。触れたら嬉しさと恥ずかしさで溶けてしまうかも。


 君に近づきたい。これが最後でいい。いや、きっとこれが最初で最後なのだろう。突き動かされるまま、宙に浮くようにふわふわと君に近づく。


 すっ、と。

 二人が触れ合う。


 温かいような、冷たいような、包み込むような、それでいて全てを消してしまいそうな──君が私に触れている。

 頬だけじゃなくて、耳まで──どころか全身が真っ赤に染まってしまいそう。

 私はきっと、もう二度と君に会えないだろう。憧れた窓の外も、出たら最後帰ることのできない世界なのだから。

 でも後悔はしない。君に会えたこと、触れ合えたこと、これだけで良かった。


 触れていた手が離れて────体が宙に浮く。

 薄れゆく意識の中、響く金属音。


 私は暗闇の中に落ちていった。



「実験はそこまで。使用済みの青色リトマス紙と塩酸は回収しますよ」


 チャイムが鳴る。強酸性に反応し赤く染まった「彼女」も、ピンセットでつまみ上げられ、理科教師の下に回収されていった。


 薬品の匂いの漂う室内。その壁際に設置された棚の中では、「彼女」と同じ運命を辿るであろう赤と青の紙片たちが、プラスチックの容器の中から隣の薬品棚を見つめている。


  ───────────────────


 お楽しみいただけましたでしょうか。中学校の理科の実験を思い出して書いた初投稿でした。

 良かったら★や応援よろしくお願いします。

 またどこかでお会いしましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君色に染まる 黒金 海月 @kurage_kurogane

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ