83日目

割り振りの作業は、想像以上に時間と労力のかかるものだった。ここを出る日取りやその後の手続き、お客様への説明などなど、しなくてはいけないことは山のようにある。

もちろんほとんどは女将さんの仕事であり、俺はただ「この子はこの家がよさそう」と考えるだけ。断られる可能性もあるから一人の陰間に対して三軒以上の候補をあげなくてはいけないが、それも周が用意してくれていたから難しいものではなかった。

「夜鷹は仕事が早いね」

「そうか? 種類ごとに分けているだけだぞ」

周が持ってくる書類は、とにかく膨大にある。それらをまずは仕事の種類で分けていく

その後、帝都から近い順に仕分ける。

ただそれだけのことなのに、周はとても褒めてくれた。

「早いし、しかも正確だ。本当に助かるよ」

「そんなに褒めても、なにも出ないぞ」

「おだてているわけじゃない。本音だ」

「んぅ……」

今まであまり褒められることがなかった。陰間としても舞うことも床入りすることも出来なかったから、褒められることなんかあるわけない。

それなのに、周から、陰間としてではなく褒められると擽ったくなってしまう。

「も、もういいから、貴方はそろそろ横になれ。また寝ていないだろう」

「でも、君はまだ」

「気にするな。俺は昼間に眠れるから」

「そう。じゃあ、甘えさせてもらうよ」

そう言って周が横になったのは、一昨日と同じで俺の膝上だった。なぜか昨日も膝枕を求めてきて、そんなに寝やすかったのかと驚いてしまった。

そして、今日も。昨日よりもますます当然と言った顔で俺の膝に頭を乗せてくる。しかも、ほんの少しだけこちらを伺うように見つめてきて。

くそ、可愛いな。そんな顔をされたら拒めるわけないだろう!

「周、他にして欲しいことはないのか」

「んー……そうだなぁ……あるにはある、けど」

「けど?」

語尾が眠たげに揺れている。そのまま寝ろ、と言わんばかりに髪を撫でると、瞼が耐えきれずに落ちていく。

「けど、なに?」

「……いまは、まだ、だから」

だから、我慢するんだ、と。

ぽつりと零したあと周はぐっすりと眠り込んでしまった。部屋には一人、顔を真っ赤にした俺だけが残される。

ただの寝言に過ぎない戯言に、こんなにも振り回されるなんて。

「……どうかしてる!」

こんなことで一々時間を取られてはいけないのに。今日もこうして、筆を握っていた手が周の髪に伸びていく。

どうか起きてくれるなと祈りながら、すやすや眠る周の髪をゆっくりと撫でた。

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