拳銃
@that-52912
第1話
おかしい。おれは秋の舗道を散歩していたはずだ。おれは気を失ったのだろう。記憶があいまいだった。気がつくと、何かの残骸ばかりがうずくまっている山道を1人で歩いていたのだ。
おれは画家だった。絵の具と筆を操り、人間の心だろうが、血液だろうが、細胞だろうが、とにかく人間のすべてを書き尽くすことができたのだ。おれは人間というものがとても窮屈に感じられた。だからこそ、イメージの世界で自由に飛び回ることができる絵の世界を愛している。
それより、ここはどこなんだ?
落ちつきを失った心を静めるために、とりあえずおれは考え事をすることにした。おれは生きていても面白くないような世界に1つの解釈を与えてみたいのだ。なぜ人間はどうせ死ぬのに苦しみながら生きているのか?おれはそんな疑問に答える為に絵を書いているのだ。おれの心には着想がとくに無くても胸のなかにあるメロディーが浮かんでくる。そしてそのメロディーが心の眼のなかで青や赤、黒といった色彩に変わってゆく。自然と浮かんでくるのだ。生まれながらにしてこんな力を持っているおれは特別な人間だ。それにしても生きれば生きるほど憂鬱の塊がおれの心を突き刺してゆく。いま、おれは30才だ。おれはカネも恋愛も憎悪している。どちらも人間に満足を与えるどころか、欠乏感を与えるものだ。
そんな事を考えているうちに、おれの体は静かなリズムを取り戻した。呼吸がしだいに安定してきたのだ。だが、歩いているうちに僅かな疲れが体にのしかかってきた。休憩しようと地面に座りこんだ。空を見る。薄墨色の空だった。小雨が静かに降っていた。遠くのほうにバケツを伏せたような、何かの基地のような建物が見えた。おれはどうしてこんな所にいるのだろう?まるで部隊からはぐれた兵隊のようだ。基地は小雨のなかに浮かび上がっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます