第51話 寝取られ彼女と新しい世界(伊東家・咲良自室)[2023/1/18 Wed]
湯上がりの咲良からシャンプーの香りが匂い立つ。
女の子の髪から立ち上るそんな芳香は、健全なようで、扇情的だ。
そういう女の子の自然さや、無防備さにこそ、僕ら男子は欲情する。
「――どうしたの? ――誠大くん?」
至近距離で僕を見上げる、咲良の瞳。
僕は生唾を飲み込んだ。
その澄んだ褐色の目の煌めきに、吸い込まれながら。
僕の左手を握っていた両手を、彼女は解く。
その手を再び掴むと、彼女は僕の五本指を、その太腿に添わせた。
スウェットのパンツ越しに、感じる柔らかな弾力。
彼女の上腿の上、思わず左手を微かに滑らせてしまった。
その触感を、久しぶりに愉しむみたいに。
まるで乾ききった旅人が、湧き水に喉を鳴らすみたいに。
「――くすぐったいよ、もう。……話が、あるんでしょ?」
「あ、――ごめん」
彼女が悪戯っぽく微笑む。――どこか少し嬉しそうに。
そんな表情は、初めて彼女を抱いた日のことを、思い出させる。
毎日のように身体を重ね合った夏の日々を、思い出させる。
高校一年生の終わり、僕は彼女に救われた。
僕はその体に包まれて幸せだった。
そんな日々のことを思い出すと胸が締め付けられる。
そして股間が膨れる。さっきからずっと立ちっぱなしだ。
柔らかなスウェットのパンツだから、外からも丸わかりだ。
「分かってるよ? 誠大が話したいこと」
「――え?」
――まさか別れ話のことが感づかれているのだろうか?
驚いて彼女を見ると、咲良は不思議そうに首を傾げた。
「恋人
「あ、ああ。……まぁ、そうだな。――うん広い意味では」
「――広い意味って?」
それはある意味で恒久的な恋人
僕は咲良に別れを告げて、伊織と恋人同士になるのだ。
頭ではそう思っている。でも下半身は真逆だった。
下半身だけでなく、僕の胸も高鳴っていた。
咲良の手に包まれて、その太腿に触れて。
隣で咲良が僕を見上げる。
その誘惑的に開かれる唇。
白いパーカーを持ち上げる胸の膨らみ。
昼の美術室のシーンが、脳内で鮮烈にフラッシュバックした。
咲良の唇を塞ぎ、双丘を揉みしだいた、橘遥輝の姿。
そのイメージが、僕の分身を痛いくらいに膨張させた。
腰の筋肉が疲労の悲鳴をあげるくらいに。
「実は見たんだ。今日の昼休み。――咲良と橘が、美術室に居るところ」
「――え?」
咲良が驚きで目を見開く。
「……見ていたの?」
「うん。……見ていたんだ」
「いつから? ――どうして? どこまで?」
気が動転した表情で、彼女が眉を寄せる。
でもその声は、不思議と落ち着いていた。
その両手は、僕の左手に添え続けられていた。
「いつからかはよく分からない。窓から覗き込んだら、咲良があいつと――橘とキスをしていた」
絞り出すようにその情景を言葉にする。
どこかでそれが幻覚だったと思い込みたい自分がいた。
だから言葉にするのは、辛かった。
あの光景を現実として認めるみたいで。
「でも、美術室の窓ガラスって、摺りガラスだし……」
「一箇所だけあったんだよ。摺りガラスが透明になっている場所が。――それを『転生聖女』が教えてくれた」
「……『転生聖女』」
咲良はさっき僕から教えられた人物の名前を復唱する。
――それから彼女は、――口を閉ざした。
束の間、二人の間を沈黙が支配した。
「――言い訳しないんだな、咲良。――どうして橘とあんなことしていたんだ? 浮気じゃないのか? ――あれは浮気じゃないのか?」
「――恋人
咲良は苦しそうに眉を寄せる。
僕は自分の股間の上で、右手を握りしめた。
彼女の指摘。それは否定できない事実だったから。
「咲良は、恋人
「――ひどい! ――誠大くん、私のこと、そういう風に見ていたの? 誠大くんにとって、私ってそんな存在だったの?」
「いや、違うけど。……だけど、……現に――」
僕は彼女の胸の膨らみに目を落とす。
今は真っ白いパーカーの下。
僕がこれまで何度も何度も両手を這わして顔を埋めた、女性らしさの象徴。
「私だって辛かったんだよ? 私だって寂しかったんだよ? 恋人
「……いや、……でもそれは」
――今、関係ないのでは?
「電話口では、私のことが『本当の彼女だ』って言ってくれていたけれど、あれは本当の気持ちだったの? 本当は私のこと、どうでもいいって思い始めたりしなかった?」
「――そんなことはないよ! ――大切だと思っていた。――僕の本当の彼女は、やっぱり咲良一人だから」
少なくとも恋人
今どうなのかは話していない。――だから嘘ではない。
「――本当に?」
「ああ、――本当だよ?」
咲良は僕から視線を逸らす。
そして目を伏せると、憂鬱そうな溜息を、大きく吐いた。
「そうだよね。誠大くんは、本当の誠大くんは、誠実で、優しい人だもんね。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――本当に……本当にごめんなさい」
そう言った咲良の顎から雫が一つこぼれ落ちた。
僕の左手を覆う、彼女の手の甲に落ちて、その肌に染み込んだ。
「――咲良?」
僕は驚いて、視線を上げる。
彼女の右頬には、一本の筋が生まれていた。
その瞳は潤んで、目尻には涙が溜まっていた。
「――私、信じられなかった。――誠大くんのこと、信じられなかった」
「どうしたんだよ、急に? ――咲良?」
「遥輝くんに言われたの。――誠大くんが、私の見えないところで、女の子と遊んでいるって。――本命は伊織ちゃんで、私は捨てられるんだって。――私は裏切られているんだって」
咲良の言葉に、少しずつ嗚咽が混じっていく。
さっきまで澄んでいた声は、少しずつ涙声に変わっていく。
「――なんだよそれ。――橘が言ったのか? ――そんなこと?」
呼吸を荒くしながら、咲良は何度も頷いた。
「伊織ちゃんと誠大くんの写真は事故なんかじゃなくて本物で、伊織ちゃんと誠大くんはキスしているって。篠崎さんも私と別れた誠大くんを狙って抜け駆けしているんだって。――だから、私も、それと同じくらいのことをしないとフェアじゃないんだって。――伊織ちゃんと誠大くんがしている恋人
――言葉を失う。――そんなことを橘が言ったのか。
あいつがそれを、どこまで本気で言ったのかはわからない。
あいつが一体、何を考えているのかはわからない。
ただ橘がそんな言葉を弄して、咲良を言いくるめる様子は容易に想像できた。
そうやって、人を操作するのは橘の得意とするところだから。
真剣な表情と奇妙な論理、情熱的な言葉と麗しい容姿で。
「――咲良はそれを、信じたのか?」
「もちろん全部を信じたわけじゃないよ? ――私は誠大くんを信じているから。誠大くんはそんな簡単に私を裏切るような人じゃないって知っているから。――でも、悔しかったんだと思う。――伊織ちゃんと誠大くん、本当に仲良さそうだし。――幼馴染で、まだ知り合って一年の私なんて相手にならないくらい、強い繋がりあるって、ハッキリとわかるから」
「そんなこと――ないよ」
その言葉に、どこか思い当たる節はあった。
だけど涙を流す咲良の前で、僕はただ否定するしかなかった。
現実の綻びを、取り繕うみたいに。
彼女は嗚咽を止めるように、息を吸い込んだ。。
「――だから僕に当てつけるみたいに、橘に唇を許したのか? 胸を揉ませたのか?」
咲良はまた僕の方へと顔を向けた。
その目は潤んでいた。
胸が傷んだ。
「――そうだよ。――遥輝くんに、許しちゃったの。――許しちゃったよぉ」
「ごめん、咲良。――非難するつもりはなかったんだ。確かに、恋人
だからって、許せるわけじゃないけれど。
虚言で人の彼女を弄んだ、――橘のことを。
「許してくれなくてもいいよぉ。……ヒック。――悪いのは私だから」
「……そんなこと、……ないさ」
僕は彼女を庇うように否定する。冷静を装った言葉で。
だけど咲良はゆっくりと首を左右に振った。
それから僕の左手をそっとまた握りしめた。
「――ねぇ、誠大くん。――私も一つ聞いていいかな?」
「なんだい? ――答えられることなら」
咲良は泣きはらした後の、とろんとした瞳で僕を見上げる。
唇をだらしなく、半分開きながら。
「誠大くんは、どうして止めなかったの? 私が橘くんに弄ばれている間。――ずっと見ていたんだよね? 窓の外から、ずっと覗いていたんだよね? ――ねぇ、どうして、私のことを止めてくれなかったの?」
「――それは……」
脳天を撃ち抜かれた気がした。
世界が揺らいだ気がした。
そうだ。なぜ僕は、止めなかったのだろう?
どうしてあの時、僕は、二人の行為を観察し続けたのだろうか?
行為に耽る二人を眺めて、股間を激しく勃起させながら?
「もしかして、興奮していたの? 誠大くん? 私が橘くんに抱きしめられて、キスされて、胸を揉まれているのを見て――興奮していたの?」
「――ッ!」
僕は否定しようとした。
でも出来なかった。
伸びた咲良の左手が、スウェットの股間部分に触れた。
その下で怒張する僕の分身は、暗黙的に提示された証拠みたいだった。
美術室の前で僕が背徳的な劣情に溺れていたことを証明する、証拠。
「――やっぱり、興奮していたんだ?」
「していたよ。――どうしてだか知らないけれど。――許せなかったけど」
「もしかして、誠大くんって、――ネトラレ趣味があるの?」
咲良が思いがけない言葉を口にする。
インターネットの成人コンテンツで目にする言葉。
「――咲良、そんな言葉知っているんだ?」
「私だって、お子様じゃないんだよ? それに同級生よりそれなりに本とか読んでいる方だし? ……色々」
僕に、ネトラレ趣味がある――?
脳は反射的に否定する。そんなはずは無いと。
でもそれなら、昼間の興奮は何だったのか?
誰しもがあそこで止めに入らず、覗き続けるものなのだろうか?
普通は止めにはいるんじゃないんだろうか?
どうして僕は、橘に陵辱される咲良のことを遠くから眺め続けたのか?
「誠大くんが、極端なネトラレ趣味だとは思っていないよ? 一年近く付き合ってきて、ずっと普通だったし。あったとしてもソフトな趣味として……かな?」
「ソフトな――ネトラレ趣味……?」
咲良は「うん」と頷いた。
その異常性癖を肯定して、受け入れるみたいに。
「でもそう考えると、ちょっと納得できるのかもしれない」
「――何が?」
「どうして誠大くんが、橘くんの『恋人
「何を言っているんだよ、咲良。……そんなこと、そんなことは――」
はっきりと否定しようとした。
だけど、どうしてだか首を横に振ることが出来なかった。
その言葉が、どこか的を射ているような気がしたのだ。
――少なくとも部分的には。
「でも、それなら、興奮したでしょ? 橘くんに胸を揉まれる私を見て――」
彼女が僕の左手をその胸へと誘導する。
白いパーカー越しに、僕の左手は女性の丘陵へと到達した。
その膨らみに五本の指を沈めると、体中で多幸感が溢れ出した。
「興奮したんでしょ? 橘くんに奪われる私の唇を見て――」
半分開いた咲良の唇が迫り、僕の口を塞いだ。
彼女の舌先が、僕の口腔の中を動く。
温かい彼女の呼気が、僕の中へと注がれた。
三〇秒ほどの間、呼吸と唾液を交換。
やがて、僕らは唇を離した。
「――咲良。――僕は」
彼女は僕の口をその左手のひらで塞ぐ。
――野暮なことは言わなくても良い、全て分かっている。
そうその双眸で、訴えかけるみたいに。
咲良は僕の左手をパーカーの胸元から、その内側へと導いた。
服の中で、僕は直接、彼女の膨らみに触れる。
そのお返しに、僕は彼女の左手首を掴んで、 その手を股間へと押し当てた。
そんな接触を交換するだけで、体中に至福の感覚が広がる。
脳内にはまるで麻薬でも吸ったかのように、幸福感が溢れだした。
「――うふふ。――誠大くん、ご無沙汰だったもんね。――あの日、恋人
「――咲良。――咲良」
僕は夢中になって、彼女の膨らみを弄ぶ。
二週間ぶりの感触。体中がたまらなく喜びの声を上げるのを感じる。
頭の中に何度も浮かぶ、美術室の二人の姿。
それはもはや僕の気分を昂揚させる、ただの精神刺激薬に過ぎなかった。
彼女がそばにいる。僕が始めて躰の味を知った女性。
高校二年生の夏、溺れたその肉体。
肌を重ねれば重ねるほど、綺麗になっていった女の子。
僕と付き合ってから、どんどん男子の注目を集めていった、美少女。
僕の彼女、――伊東咲良。
「――もう、我慢できないって……言っているね?」
咲良はそう微笑むと、その頭を僕の股間へと下ろした。
そしてスウェットのパンツを下着ごと、ずり下げた。
意識が遠のくほどの快楽が脳内に広がる。
真っ白になっていく世界の中。
瞼の裏には、ゆっくり振り向く少女のイメージが浮かんだ。
そのイメージは――僕の幼馴染、南伊織だった。
彼女はこちらを見て微笑んでいた。
――少しだけ寂しそうに。
*
「――おはよう。誠大くん、――朝だよ?」
ゆっくりと目を開く。
白い天井。いつもより明るい色の部屋。
瞼をこする。右肘を突いて体を起こす。
「――おはよう。――咲良」
そこには一糸纏わぬ、僕の彼女――伊東咲良の笑顔があった。
<第Ⅱ部 CONFUSION 完>
―――――――――――――――――――
To be continued. ――第Ⅲ部へと続く。
―――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます