ふんいきダークで希望の君へ
夏輝 陽
プロローグ-謎の黒き少女-
ブラックルーラー
ガネイル・ホフマン
俺の父親であり、闇の商売人だ
主に違法な薬物を扱っていて、治癒力が非常に高く味もかなり美味しいらしいが、中毒性が高くやがて廃人になる薬や、痛みが感じなくなるが、効果が切れると痛みがでる箇所が数倍の痛みが来る薬(そのため大怪我した人がこの薬を着服すると長期間止められなくなる)…などの恐ろしい物を取り扱っている
しかしそんな危険な物を欲する人達が大勢いるので、父と社会見学だと言われて三年前の十二の時から一緒にあちこち飛び回っている
自分はそんな人として間違ってる父の背中を見て育ってきた
だからこう言ってみた
「人をダメにするような危ない薬を売るのはやめましょうよ」
すると父は
「私が取り扱っている薬を私が使っているのを見たことがあるか?私がダメな人などではない。客が皆可笑しいのだ」
そう言って父は懐からイエローパーチと呼ばれる薬を取り出した
「この薬の作用はわかるかね?」
「…それは最も危険な薬のひとつで、高いリラックス効果を得られる代わりに、薬が切れると幻覚および気分がとても沈んでしまう…と言われています」
父は頷く
「その通りだ。聞いただけで誰もが手を出さないような代物だが、それでも尚これを欲している者が僅かながらにいる…だから売り付けるのだ」
「でしたら、国が認める誰もが求め、需要の高い回復ポーションなど取り扱えばいいでしょう?なのになぜ違法な薬などを取り扱っているのですか」
今まで思っていた当たり前の疑問をぶつけた
「…お前にもいずれわかる。今は私の商売のやり方を覚えておくがよろしい」
はぐらかされてしまった
何か深い理由があるのだろうか…追求したい気持ちを押さえ込み、今日もまた父の商売人としての姿を後ろから見学する事にした
翌朝
自分の住んでいる家から大きく離れた隣国、メシア共和国に滞在してから三日目
父は夜遅くまで帰ってこないと書き置きの手紙と金貨十枚がテーブルに置いてあった
自由行動が許されたのだと内心ウキウキしながら、肩掛けバッグを取って中に入ってる銭袋を取り出し、金貨を入れてバッグに戻す
護身用の3つのナイフを内ポケット、バッグの底、ズボンのポケットにそれぞれ入れて、バッグを肩に掛けて宿屋を後にした
賑やかだなぁ
特にイベントとかやってる訳では無いはずなのに、どこに歩いても人、人、時に他種族の方々で溢れかえっていた
「やぁ綺麗な白髪のお兄さん!もしかしてこの街に来たのは初めてかな?」
辺りを見渡しながら歩いていると、すぐ横の野菜ショップの男性店員が声をかけてきた
「はい、実は初めてでして…」
ぶっちゃけると俺は人見知りである
つまり話しかけて欲しくなかったなーなんて思ってると
「だったらコレと…それからこの新鮮なトウモロコシをやるよ!」
地図とトウモロコシを貰ってしまった
しかもこのトウモロコシの実は黄色ではなく白い…初めて見た
「珍しいトウモロコシだろ?頑張って俺たち農民仲間と品種改良してってさぁ…いずれ名産品として扱われるだろうな!ははっ」
と自慢げに笑う店員さん
「お疲れ様です…白いトウモロコシなんて綺麗ですね」
「お前さんの髪と同じくな。あとそのトウモロコシは茹でずとも生で食えるのが売りなんよ」
本当かな…普通のトウモロコシなら青臭そうだけど…
「まぁ、騙されたと思って一口食ってみなよ。ダメだったら茹でるなり焼くなりすればいいさ」
その言葉を最後に、他にお客さんがお店に来たので俺は店員さんにお礼を告げてから、人がいない裏路地へと足を運んだ
生で食えるのが売りなんよ
店員さんの言葉を信じ、覚悟を決めて白いトウモロコシにかぶりついた
あ…甘い
みずみずしくて歯ごたえもあり、とても美味しかった
あっという間に食べ終え、残った芯を近くにあったゴミ箱に捨てる
…こういうので商売がしたいな
心の中で呟いた
商売のやり方は父のを見て学んだので、違法なものではなく、白いトウモロコシのようなお客さんが喜ぶいい物に変えれば俺でもやっていけるかな
そんな考え事をしながら足を進めていると、目の前から一際目立つ黒髪ショートで黄色い瞳を持つ女の子が歩いてきた
服装をよく見ると、Vネックで黒の短いブラウスとその下に赤いインナーワンピース、トップスインナーが白でアームカバー(恐らく)が黒、白と黒の動きやすそうなシューズに黒いハイソックス、そして親指と人差し指、中指だけ穴が空いてる黒い手袋をしていて赤い十字架のネックレスを首からさげている
…なんだこのカッコ可愛い女の子は
ジロジロ見てしまってるうちに目が合ってしまった
「…今、私を視認してしまいましたね?」
「………」
なんだこの子は
妙な圧に口を出さず黙って彼女を見つめる
「…いい観察力。この私を"ただものでは無い"と認識するとは…」
「いや誰でもそう思うだろ」
ついにツッコミを入れてしまった、冷静に
「?…貴殿は私を知らないのか?」
「えっと、もしかして有名な芸人か何かで?」
「どう見ても芸人ではないでしょ?」
「ゴメン、俺は遠い田舎町から仕事の付き添いで来ただけのただの商人見習いだから…その、疎くて…」
「ん、そっか」
納得いったように頷く黒髪の少女
「君の名を聞こうか」
「な、名前かぁ」
俺たち親子は闇商人として裏世界は勿論、表の世界でも名前だけは有名になっているらしく、表の人間に顔まで知られたくないので関係のない人に名乗る時に本名は避けている
なので———
「———俺はアッシュだ」
そう名乗ると…何を思ったのだろう、少女はパアァァっと表情が輝き出した
「か…カッコいい…」
「そ、そうかな…」
確かにカッコいいあだ名にしようと一生懸命考えた名前ではあるけども…こう褒められると少し嬉しい
「私は…えーっと…んー……」
…さては黒髪の少女は自分のあだ名を考えてるな
薄々勘づいてはいたけど、こういうカッコいい(厨二)っぽいの好きなのかな
「…私は、ブラックルーラー…黒の支配者だ」
「ブラックルーラー…」
なんだろう、聞いてるこっちが恥ずかしくなるな…
「…ルーラーって呼べばいいか?」
「…確かにフルネームで呼びにくい…。…許可する」
少しの間だけなら、こういうのも付き合ってもいいかもな
「…アッシュは私と同い年に見えるけど、幾つ?」
「…十五だよ」
「ふむ、私のひとつ上…」
嬉しかったのか少し微笑んで頷くブラックルーラーさん
「アッシュ、どうか暫く私と行動を共にしよう」
俺の腕に巻いてある腕時計を見る
ぴったり十一時、帰るにはまだまだ時間に余裕がある。折角歳が近い人に知り合ったのだから付き合ってみることにする
「いいよ、時間的に全然余裕ある」
「…私が受けたクエストに付き合って貰う」
「…え?」
クエストって、冒険者や討伐隊が受けるあのクエストか?
たまに屋敷の掃除、お店の手伝いなどがあるけど、それはお手伝いと言い分けられていて、クエストは主にモンスターの討伐の事を指している
「俺、あまりモンスターと戦ったことないけど」
「…腕がたつ感じがするけど、それはほんと?」
「父から教わって鍛錬とかしてはいるけどな」
「ん、じゃあ実戦、してみよっか」
きっとこれが本来の口調なんだろうな
そんな事を考えてたら急に足元に石のタイルの上から魔法陣が現れ———足元が草むらに変化した
というより周りを見渡すと、木々が並んでいる…いつの間にか森の中にいた
「…なるほど、これが転移魔法か」
「予めあの場所に仕込んでおいた魔法陣で移動しただけ。…最初アッシュが魔法陣の上に居たから、最初はてっきり冒険者かと思ってた」
「残念ながら、ただ人が少ないとこに居たかっただけさ」
食べたかったし地図を広げたかったから…
「アッシュ、私の見込みだとアッシュは強いよ」
「どうしてそう思うの?」
「身体付きと纏っている魔力を上手く制御できてるもの」
「…普通じゃないのか、父から教わってたからかな」
「いいお父さんだね」
「全然良くないよ…」
闇商人だし、とは嫌われたくないので口にはしない
「お父さんの事嫌い?」
「仕事してる姿は立派なんだけどね」
そう、違法な物さえ取り扱っていなければ尊敬できる人だ
「…お父さんいるなら、大事にしよ?」
「………」
この子にも何か事情があるのかな
…いや、深く詮索するのはよそう
「それで何のクエストを受けたの?」
「最近ここの近くの集落に数十匹のゴブリンに襲撃されたらしく、何とか対処できたらしいけど被害が甚大で…だからゴブリンの住処を直接叩いて殲滅するっていう仕事」
真顔で淡々と説明するブラックルーラーさん
「…酷い話だし、そりゃまた襲われたら大変だからゴブリンを討伐しなきゃだけど…俺らふたりで大丈夫なのか?」
「心配しなくても大丈夫」
即答でルーラーは答えた
「私、強いから」
簡単にそう口にした
かなり自信に満ち溢れていて、かつ少女の纏う魔力の流れが変化した
「行くよアッシュ」
「わかった」
正直言ってかなり緊張しているけど、隣にいる少女にカッコ悪いとこは見せたくないのでクールな気持ちで前へ進む
辺りは静か、普段なら数匹はモンスターに襲われるらしいが、ゴブリンの縄張りになってからめっきり他のモンスターが居なくなった…と説明された
見渡しながら進んで行くうちに洞穴を見つけた
「…ここがギルドの言っていたゴブリンの巣窟」
「それで、俺はどうすればいい?」
「まず私が一匹ずつゴブリンをおびき出すから、アッシュが持ってるナイフで出てきたゴブリンと戦って」
何故隠し持ってるナイフがバレたし
「お、俺がゴブリンと…?」
「…酷かも知れないけど、ゴブリンは私たちにとって敵だから」
「そうだな」
家の畑を何度もゴブリンに荒らされ、その都度父が処理し、俺はただ見てるだけで悔しい気持ちを思い出す
「これは…あのゴブリンたちは間違いなく俺たちの敵」
自分に言い聞かせるよう口にする
「うん、勇気出して」
そう言ってルーラーは俺の左手を両手で握り、やがて一人で洞窟の中へと消えていった…
緊張しながら待っていると、洞窟の奥からふたつの足音が聞こえてきた
「さぁ、構えてアッシュ!貴方の力を解放して…っ!」
ルーラーと出会った時を思い出す、この子興奮するとこうなるのか
「…なんて考えてる場合じゃないか」
右ポケットとバッグの底の隠しポケットからナイフを瞬時に取り出した
父の鍛錬を思い出す———
左手は逆手持ち、腕に隠れるように持て
お前の利き腕の右手は順手持ち、余分な力を入れず普段のままの腕の角度を保て
脚は内股、前後左右瞬時に動けるような形にするがよろしい
父の教えの通り、ホフマン流の構えで向かい打つ
身長はおよそ俺のへその辺で緑色の肌をした生き物が、こっちへ猛スピードで向かってくる
手をよく見ると小さな刃物が握り締められている…
もしその刃物の切っ先が自分に向けられたらと思うとゾッとするものだろう
刃を見ているがいい、今お前の"目の前にある刃がどういう形"をしているかで教えた技を使い分けるがよろしい
何度も何度もそう父に言われ続け、技を磨き…上出来と言われるまでに技を覚えた
五歩先までゴブリンが迫ってきた———
ゴブリンは刃物を両手で持ち———突き刺そうとしている
形は突き
それなら…と、目の前の攻撃の形で対処法を覚えてたのでそれに従い、瞬時に右に避け、逆手に持っている左手のナイフをゴブリンの首に刃元をあてる
刃物は押して切るのではなく、引いて切るものである
教えの通り、何度もナイフで丸太を引いて切っていたあの鍛錬を思い出し、力まずゴブリンの首をシュッ……と刃元から切っ先まで使って、首を胴体から切り離した
気を抜くな、斬った後心を落ち着かせながらも油断することなかれ
なるほど、討ち取った後はリラックスしたいものだけど、ここはゴブリンの巣窟…
周囲の気配を察知する…いるのは俺とルーラーだけ
それでも気を付けながら心を落ち着かせる
「…想像以上だよ」
ルーラーはこっちへ近付く
「はは…でも、首なんて切っちゃったから返り血浴びちゃったけどな」
「弱点を突くのはいい事ではないか」
黒の少女は腕を組み
「くくく…私の見込みは間違えでは無かった…!」
満足気にそう述べた
魔法で返り血を流した後、自分の手で殺ったゴブリンを見る
この世界のほとんどの人は魔物の死体は見慣れているので、気分が悪くなる事はない
悪くなる事はないけど、自分がもしこのゴブリンより弱い存在であれば、こうなっていたのは俺かも知れないと思うとゾッとする
「アッシュ、もし同じように洞窟から数体出てきても倒すことは可能だろうか?」
「うん、恐らくは大丈夫」
父の教えが通じる相手ならばこの先やっていける自信がある
「…では私が一人で暴れてくるが、最低でも二匹くらいは逃げ出すだろう…そこでここの洞窟の入り口で同じようにアッシュが倒してくれると助かる」
「…お前ひとりで大丈夫なのか?」
「え…あ、私を心配してくれる…?」
急に素に戻るなよ
「当たり前だろ…」
恐らくは百匹以上居るであろうゴブリンの巣窟なのだから
「ご、ごめん…私心配されたことなんてないから…その、なんて言えばいいか」
「…もし、ピンチな場面がきたら…速やかに撤退すること。いいね?」
「うん…」
もじもじしながら答えた黒の少女
「…ここは俺に任せろ、奥は頼んだよルーラー!」
「…私の戦果を期待するがいい」
腕を組みながらあまり高くない声のボリュームでそう宣言し、巣窟の奥へと消えていった…
送り出したはいいけど、大丈夫かなぁ
あーなんか心配だわ
俺も行こうかな…
でも、自分にも逃げ出すゴブリンを始末する仕事があるので、大人しく待つ事にする…
待つ事二十分、未だゴブリンが一匹も出てこず
順調に一匹残らず駆逐してるんかな…
魔法を使って巣窟奥まで気配を察知しているが、ゴブリン一匹も察知ができない
因みにこのサーチ魔法も父仕込みで、二百歩手前まで気配を感じ取れるくらい得意になった
なのに何の気配もない
…流石に変だ
不安に駆られた俺は、巣窟へ入り駆け足で奥へと進んだ———
———やがて気配を察知し、ダッシュでその気配に駆け寄るも、その気配の正体はゴブリン
ゴブリンは後ろ向きで、こちらには気付いていない様子…
父に教わった奇襲技を使うことにする
猛ダッシュの忍び足…地面を"押すように走り"ゴブリンに駆け寄る
———脳天直下の縦一閃
頭蓋骨をも真っ二つにし、絶命させた
このゴブリンは奥へ向かっていたという事は…嫌な予感がする
…無事でいてくれよ、ルーラー
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