異世界転移に巻き込まれたが固有スキル「不死身殺人鬼」のおかげで全員死んでゆく

白と黒のパーカー

第1話 シシル・イルイ

「ぐぎょげげげげげげげげ」

 

 長い黒髪が真っ白なワンピースに映える見目麗しい女性の首をねじ切りながら、一人の男は満足そうに息を吐く。


「ふぃー......隠蔽、ですな」


 計画的、というよりは衝動的に殺してしまったといった反応の男は少し汗ばんだ額に張り付く髪の毛を掻きあげてから独りごちた。

 登山道から少し離れたところとはいえ人の気配のすぐ近くにある場所には違いないことから、迅速に対応しなければ即刻発覚となってしまうだろう。


「まあ、バレればそれはそれでここに転がる死体が増えるだけではありましょうが。うーむ。やはり埋めるのが一番ですかな」


 何やら満足そうに腕を組みうんうんと二度三度うなずいた直後には、どこからともなく取り出した一メートルほどのシャベルで穴を掘り始める。

 しばらくそうして出来上がったのは直径一メートル、高さは二十メートルほどにもなる大穴であった。


「これほどまでに完成度の高い落とし穴ができてしまったからには、可憐な彼女だけを埋めるには少々もったいない気もしますなぁ。ただ、私も大人です。後二、三人ほどで妥協するといたしましょう!」


 そう言って、男よりも後から登ってくる何も知らない登山客を十人ほど片手に持っていたシャベルで殴り殺し大穴に詰め込んだ。


「おや? なにやら少し人数が多かったようですがシャベルというのは便利ですな。思い切り振り下ろせばしまい易くなります」

 

 ぐちゅぐちゅギコギコと耳障りな音を鳴らしながら動かなくなった登山客たちを解体していく。

 そんなこんなで登山道が血にまみれ、新たな観光名所『血の滝および死体大穴』が出来上がるころ。山の頂上では修学旅行生の一団がお昼ご飯を食べていた。


「風が少し強いけれど、天気が良くて景色も綺麗ね」


 そう話すのは修学旅行生たちのなかで委員長と呼ばれる少女のものだった。


「ほんとにそう、マジ修学旅行にも関わらず登山するとか言われた時には担任死ねって思ったけどこの感じだとそんなに悪くないかも」


 委員長を囲んでいる数人の女子たちが各々の反応で返していると、何やら急に雲行きが怪しくなってくる。


「おいおいおい、委員長が余計なこと言うから雲出てきちまったじゃねーかよ」


 そのクラスの中ではやんちゃそうな顔をした少年が委員長に対し冗談めかして野次を飛ばす。その頬が微妙に赤らんでいることから、なにやら彼女に対して話しかけるとっかかりを探していたのかもしれない。

 

「そ、そんな私の所為だって言うの!? 言いがかりはよしてよ竹下君!」

 

 普段から竹下と呼ばれた男子は委員長をからかっているのか、憤然とした返しを受け少ししょんぼりとしている。

 そんな生徒たちの和気藹々をよそに荒れ始めた天候はいよいよ暴風に、暴風から豪雨にそして雷雨へと変わってゆく。

 いよいよ子供たちどころか付き添いの先生も慌て始めたころ一筋の雷が担任の頭に落ちた。

 鉄の淵である眼鏡がよくなかったのかどうかは今となっては些末な問題か、頭を綺麗にはじけ飛ばし正面にいた女子の顔に赤黒い肉片がこびりつく。


「きゃー、焦げ臭い!」


 突然の状況に驚きなんと反応したものか混乱した少女は、口にまで入った肉片をもぐもぐし感想を言い始めてから嘔吐した。


「おぐぇぇぇ......」


 とてもつらそうに吐き出す少女を見かねた委員長が背中をさすりながら、大丈夫かと声をかけているころ、周りの状況はめまぐるしく変わっていく。

 あたりにあった現代的な風景が消え、何やら荘厳そうな建物へと変わり。周りにいたほかの観光客たちは、鈍重な鎧に包まれた兵士たちに変わっていた。

 ついでに何やらシャベルを持った男が竹下君の頭を割る。


「......え? ここはどこ?」


 やっと周りの変化に気づいた委員長を含めた生徒たちはあたりをキョロキョロとし始める。


「ようこそ異世界の勇者候補たちよ! あなたたちは私たちの世界を脅かす魔王を殺すために私たちの手によって召喚されました。」


 なんとも自分本位な意見にまみれた言葉を混乱している子供たちにぶつけ、洗脳しようと見目麗しい青髪の女性は言葉を連ねていく。


「いきなりの転移に皆様は驚かれていることでしょう。私、わかります。恐ろしいですよね。何もわからない状況に追い込まれ、辺りには仰々しい鎧をきた強面の兵士たち。私も国王には助言してみたのですが、何分頭の固いお人でして......召喚された勇者候補たちがいきなり反逆してきたら恐ろしいと言って聞かなかったのですよ。うふふ、頭の良い皆様ならばそんなことは致しませんのにね?」


 しゃあしゃあと聞いてもいないことをしゃべり続ける青髪の女性に乱されていたペースを握られ、黙って話を聞いていることしかできない委員長たち。

 その横でぼーっとしていた男子生徒の上あごと下あごを両手で引き裂き、外れかけた頭をはたき落とすついでに垂れた舌を目いっぱい引っ張りちぎった後、思い切り振りかぶったそれで彼の残った体を真っ二つに切り裂くシャベルの男。


「えーと、何やらすでにお亡くなりになっている方々もいるようですが、仕方ありませんね。勇者召喚には失敗はつきものです故」


 ぺろっと舌を出し頭をコツンと叩く素振りをし、おちゃめな感じをだして乗り切る青髪はその後自分を女神ソクシと名乗る。

 ソクシはその後も唖然とし続ける生徒たちに魔王の恐ろしさ、勇者はそれを殺すことのできる希望だという話を続けていく。

 シャベルの男は真剣に話を聞いていた少女の首を直角に折り、ぶくぶくと赤い泡を吹きながらベロっと舌を出す頭をゴツンと殴りつけ、割れた頭蓋と脳漿を鼻と口の穴から噴出させる。


「これから貴方たちには固有スキルを確認していただきます。そこで役に立つのか立たないのかを判別し見事勇者側と認められればこのまま歓待を、それ以外の方々は......まあ、ごみを養う余裕はありませんので処分ということでよろしくお願いいたします」


 なんとも実力主義且つ残酷な話を静かに絶望する少年少女たちに突きつけ、一人ずづ運命のスキル確認へと移っていく。


「ふむ、私は『不死身殺人鬼』ですか。なるほど、これはスキルなのですかな? どちらかといえば職業のような気もしますが。どうでしょう? ソクシ殿」


 スキル確認のために近寄ってきた兵士二人の頭を捥ぎつつ、ソクシのもとへと質問しに行くと、何やら微妙そうな顔をした彼女が一歩近づけば一歩離れるといういたちごっこ繰り返す。


「ちち、近づかなくても声は聞こえています。あなたはそこからもう一歩も動かずにいてください。質問には答えますので。」

「ほう、そうですかな? いやはや、では解説のほうよろしくお願いします」


 近づくなと言われ若干悲しそうな顔をした赤を滴らせるシャベルの男は、その時両隣にいた男子生徒と女子生徒の頭を胸元でぶつけ合わせた。

 割れた頭蓋骨が散乱し、マシンガンのようにあたりにいる兵士たちの鎧をぐちゃぐちゃに壊し内臓をまき散らさせる。

 頭を失くしびくびくと痙攣する少年と少女の首から下を振り回し、後方にいたほかの生徒や兵士たちの上半身と下半身を軒並み分断していく。


「こ、固有スキルというのは前世界、つまりあなたたちがいたチキュウという星にいたときの適性がそのまま情報化されるのでスキルというよりかは職業に近いものが記される方も多いのですよ。というよりですねあなたは先ほどから殺戮の限りを尽くしていますが何者なのですか?」


 びくびくと怯えながら、正体を問いかける女神ソクシに男は一度優しくフッと息をつき髪を掻きあげながらキザッたらしく答える。


「私の名前は......シシル・イルイです。以後お見知りおきを」


 そういいながら緩やかにお辞儀をしながら握手のための手を伸ばす。


「そ、そうですぐぼぇぇぇぇ」

「おや?」


 伸ばした手の先には、委員長の頭から続く背骨があり、まっすぐ伸びたそれは女神ソクシの喉を貫いていた。


「も、申し訳ない。いえ本当に、殺す気などなかったのですよ」


 シシル自身も驚いたように反射的に手を引くと、女神の喉をずたずたに引き裂きながら委員長の背骨が抜ける。ついでに握力に負けた頭がぶちゅりと潰れる。

 首の真ん中ほどに丸く穴の開いた部分からこひゅーこひゅーという呼吸が漏れ、そのたびにドロリとした赤い血糊が吹き出てあたりを穢していく。

 なんどかこひゅーこひゅーと続いた後バタリと顔から倒れこむ。


「ふむ......隠蔽、ですな」


 再びそう独りごちるシシルは、倒れた女神の頭をぱきゅりと踏み潰し、右手の背骨と左手のシャベルで召喚された場所である城に残る人々を殺して回った。


「それにしても異世界ですか、中々恐ろしいものに巻き込まれてしまいましたな」


 不自然に真っすぐな黒髪を肩ほどまでに伸ばし、黒いカッターシャツとスーツ、その上に更に真っ黒なトレンチコートを着た男『シシル・イルイ』異世界転移する前もした後も変わらず人を殺し続ける彼はこれからどうするのだろうか。


「まあ、一先ずはマオーさんにご挨拶しに行きますかな」








 

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