前世ではカリスマ投資家だった私が婚約破棄された。〜既にこの国の経済は掌握しましたがよろしいの?〜

@matsukawa_yuu

第1話

「クティエ!貴様との婚約は破棄させてもらう!!」


え?何を言っているのでしょうこのバカ王子は。


晩餐会に集まっていた上流貴族の間に動揺が走るのを露ほど気にも留めず、ぬけぬけと次期国王であるナール王子は言葉を続ける。


「貴様は、公爵家の令嬢、しかも次期国王となるこの俺の許嫁であるにも関わらず大変な浪費癖があると聞いている。」


「浪費癖?なんのことでしょう?殿下は私よりそのような根も葉もない噂を信じなさるのですか?」


「しらばっくれるな!貴様の大量の出費についてはこのディラが報告してくれた。」


と、言うとバカ王子の後ろからしたり顔で女狐のような女が現れた。


「左様でございます殿下、大方カジノででも散財したのでしょう。このような金づかいの荒い女とは婚約を破棄して正解でございます。」


嗚呼、こいつもバカだった。

あまり人のことを悪く言うのはあれですけども、先にあらぬ疑いを掛けてきたのは向こうですし?心の中で思うぐらいいいですよね?


「わかったか?今すぐここから立ち去るのなら何のお咎めも無しにしよう。あぁ、あと新しい婚約もしたければ好きにするがいい。まあ、金づかいの荒い女などをわざわざ迎え入れたい家などないだろうがな!」


そりゃあもうカッチーンと来ましたけどもね、こちらとて公爵家の令嬢ですし、相手は一応の一応王子ですし、周りには貴族の方々が大勢おられたので耐えましたとも。偉いですわ、私。


「かしこまりました。それでは、ご機嫌よう。」


拳骨一発どころかタコ殴りにしてやりたかったですが、ここで自分に非を作るわけにはいきません。また必ず痛い目みせてやりましょう。


にしても、どこの世界でも理解してくださらない方はいらっしゃるのですね。前世が懐かしいですわ。


〜〜〜


婚約破棄を言い渡された後、家に帰る道中で前世から今に至るまでを思い出していた。



私は年収で1億を越えるほどの投資家だった。カリスマ女性投資家として、雑誌やテレビに取材を受けたこともある。他人が羨むものは大体持っていた。美貌、財産、運、頭脳。彼氏を除くほとんどのものは持っていた。そう、彼氏を除く。私はなぜか彼氏がいなかった。学生の頃に半年とかせいぜい1年とか付き合ったことはあるけれど、大人になってからまともに出来たことがない。そんな私にイケメンな王子様の婚約者が出来るなんてと最初は喜んだものだ。最初はね。


前世の最期は忘れもしない。できることなら思い出したくもないが。気がついて目が覚めると公爵家の令嬢のクティエとして生まれ変わっていた。既にクティエは15歳となっていたが、目が覚めると同時に15年間の記憶が頭の中に流れ込んできた。


ここは日本でも地球でもない全く別の世界。あえて例えるなら中世ヨーロッパをもう少し暮らしやすくした感じかしら?貴族でなくとも衣食住は保障されているし、水も清潔。科学という概念はあまりなくて文明も現代日本ほど発展していないけど、皆幸せそうに暮らしている。そういう私も素晴らしいお父様とお母様と幸せに暮らしている。


歴史あるアラン家をさらに大きくした偉大なお父様と誰にでも優しく包み込んでくれるお母様。私が投資の話をしたときも仕組みを理解しようと話を聞いてくれて援助をしてくれた。


そう、この世界には投資という概念が存在しないのだ。もっと正確にいうと、新しい商品を作るために常連の客から少しお金を借りて代わりに真っ先に商品を提供するという文化は存在していてかなり盛んに行われているらしい。この仕組みは株式投資とかなり似ているが、常連客とお気に入りのお店の間で行われているかなり小規模なものでしかなく、ましてや貴族がそこに参加するなど聞いたことがないそう。


ま、その文化のお陰でだいぶみんなの説得が簡単になったのだけれど。あら、そうこう思い出に浸っている間に家に着いてしまいました。

婚約破棄のことをお父様とお母様に伝えるのは少し辛いですわね。もしこれで家の立場が悪くなったりしては申し訳なさすぎます。


「ただいま帰りました。」

「おかえりなさい。クティエ。」

「おかえり。しかし、少し帰るのが早くないか?」

「はい、説明が難しいのですが、王宮の方で一悶着ありまして…」

「あら、婚約が破棄でもされたことかしら?」

「え?いや、なんで?え、知ってらしたのですか?」


まさか既に知っているとは露にも思っていなかったため、驚きのあまり一瞬だけ下町の少女の様になってしまった。


「あぁ、こう見えても耳は早い方でな。とりあえず無事に帰って来てくれてよかった。」

「しかし、せっかくとの王子との婚約を破談としてしまって…」

「そんなこと大したことではないわ。しかも、王様もあの王子には手を焼いているようだし、かえって良かったかもしれないわね。とりあえず私たちはあなたが無事でいるだけで幸せだわ。」

「ですが、これがきっかけで王家との仲が疎遠になってしまっては申し開きもありません。」


私の焦りとは裏腹にお父様が少し笑みを浮かべながらゆっくりと口を開いた。


「なんだそんなことか。クティエは知らなかったかもしれないが、現国王様はクティエの手腕を高く評価してくださっている。浪費をした訳ではないことはもちろん、今のクティエの影響力もある程度把握していらっしゃる。賢王であるあのお方が、下手をすれば国が崩壊する様な真似はなさらないだろうよ。」

「そ、そうだったんですか!?大変な光栄でございます。」

「そうですよ。だから、あなたは家のことなんか気にせずしたいことをなさい。私たちはあなたのしたいことを応援するわ。」

「ありがとうございます。お父様、お母様。」


今日はもう休みなさいという両親の言葉を受け、ありがたく床に着く。あのバカ王子をどんな目に合わせてやろうと考えを張り巡らせながら。

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